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31 世界崩壊



「よく来たな。仲よく死にに来たか」

 頂上にたどり着いた一行を一瞥すると、ガストラはにやりと顔を歪ませて嗤った。側に控えるケフカも、勝ち誇ったように下品な高笑いをしている。
 切り立った崖に三闘神が安置されていて、ガストラはまさにその力を手にしようとしていた時だった。

「だがここまで。見よ! この三闘神を! 」

 そう言うとガストラは三闘神に近づく。彼が手をかざすと三闘神から光が溢れ、ガストラの手のひらへと吸収されてゆく。

「おお……血がさわぐ! これぞ三闘神の力! 」

 新たな力を手に入れたガストラは、自らの手のひらを眺めては満足そうに声を上げた。

「ガストラ皇帝! おやめ下さい! 」

 セリスはたまらず叫んだ。彼女は帝国を見限ったとはいえ、思うところはあった。かつては君主として慕い、忠誠を誓っていたのだから。

「セリスよ……さあ来い。お前だけは特別だ。我がガストラ魔導帝国を築くために、ケフカとお前に新しい子孫を残す使命を与えようではないか」

 セリスは表情を失った。絶望と、軽蔑と、悲しみがない交ぜになったような表情で、ガストラをじっと見ている。
 エルはセリスの側に移動すると、そっと彼女の背に触れた。心配して彼女を見上げると、セリスは細かく震えていた。

「その手でヤツらを殺せば、裏切ったことを許してやるよ」

 ケフカはそう言って剣を取り出し高笑いする。セリスには、この時ほど彼の高笑いが癪に障ったことはなかった。

「さあ剣をとれ! そしてやつらを殺せ! 」
「さあ、セリスよ。一緒に世界を支配しようではないか! 」

 ケフカとガストラは勝ちを確信したような表情でまくし立て、セリスをそそのかす。けれど、セリスはもう動じなかった。
 セリスの顔つきが変わった。迷いのない、強い戦士のそれで、喚く二人をギロリと睨めつける。

「力とは争いを生むもの。ならば、存在しない方がいい! 」

 そう言い切ると、セリスはケフカの目の前へ躍り出た。あっという間にケフカが手にしていた剣を奪い取ると、一思いにケフカの腹をその剣で貫く。ケフカの派手な服が、見る見る赤く染まっていった。

「痛ーい! 血が、血が!!! 」

 よろよろと体勢を崩しながらも、ケフカの足取りはしっかりしていた。片手で腹部を押さえながら、一行を睨みつける。
 セリスには確かに手応えがあったのだが、何かがおかしい。黙って聞いていた仲間たちも臨戦態勢を取り、ケフカの動向を伺った。

「ちっくしょ……ちくしょう……ちくちくちくちく……ちっっっっくしょーーーー!! 」

 ケフカは奇声とも言える大声で叫んだ。小さな子供が駄々を捏ねるように地団駄を踏んで暴れている。
 ケフカの乱心など今に始まったことではない。しかし、この取り乱し方はガストラも想定外だったようだ。驚きを隠せないで、彼もまたケフカの様子を注意深く見ている。

「戦うために生まれてきた神達よ! 今こそ、その力をみせるときだ!! 」

 ケフカは三闘神に近づいた。そして、その力を我が物にせんと三闘神に語りかける。

「僕を受け入れろ! くそっ」

 しかし、三闘神は淡く輝いて反応こそするものの、ケフカをなかなか受け入れようとはしない。ガストラがしたときのような光は現れなかった。ケフカはますます面白くなかった。

「言うことを聞けー! ぼくちんをバカにするなよ。力をみせてみろー!! 」

 ケフカは三体ある三闘神の像の真ん中へ入った。そして、更に三闘神に語りかける。

「ケフカ! やめろ! 三闘神を復活させれば世界は消える! それでは意味がない! 」

 ガストラは慌て始めた。しかし、ケフカは全く気にもとめない。

「皇帝! 何をおっしゃっているのですか。三闘神の力をやつらに見せつけるときなのにっ! 」

 ケフカは満面の笑みでガストラに反論する。しかし、それはガストラの望むところではない。ガストラの目的はあくまでも世界を征服する事であり、破壊するのでは本末転倒である。

「ええい、仕方ない。ケフカ! お前はもう役にはたたぬ! 残念だがここまでだ」

 ガストラの表情がさっと冷たいものにかわった。ケフカを見る目も、氷のごとく冷ややかで鋭い。

「悪く思うな……最後の慰めとして、おまえが自ら産み出した魔法で眠らせてやろう……」

 ガストラは魔力を込め始めた。ケフカは恐れることもなく、バカにしたように高笑いを始めた。それがさらにガストラの怒りを買うことを分かっているかのようだ。

「何がおかしのじゃ! ふん、まあよい……笑いながら眠るのがお前にとって一番お似合いじゃろう! 」

 ガストラはファイがを放った。しかし、効果はない。次いでフレアを放ったが、ケフカにはまるで効き目がないどころか魔法がまるで発動しなかった。

「ば、ばかな……なぜ魔法が撃てぬ! ……メルトン! 」

 しかし、これも何の意味も成さなかった。ガストラの顔が俄に青ざめる。

「ケ、ケフカ……お前、一体……」

 ガストラの顔が「?」と驚愕で一杯になっている。そこへ、ケフカの魔力がガストラを襲った。
 ガストラは崖の近くまで吹っ飛ばされて、すぐには起き上がれないほどのダメージを受けた。ケフカはガストラを虫けらでも見るような目で見降ろしている。
 
「なぜなら、ボクちんが三闘神の、真ん中に立っているからなのでした! すべての魔法の力は三闘神に吸い取られてしまうのだ! お気づきになってませんでしたか……? うふふふ」
「なんじゃと……!」

 勝ち誇って笑うケフカに、ガストラはぐうの音も出なかった。顔を地面から上げ、悔しそうに唇を噛む。

「三闘神よ! 最初の獲物が大決定したのだ!
役たたずになった皇帝に、お前のその力を見せつけてやるのだ! 」

 はっとして上半身を起こしたガストラは、絶望に満ちていた。ケフカはさも面白そうにガストラを見下ろす。

「よせ! ケフカ!! ばかなまねを……」
「やるのだー!! 」

 ケフカの声を合図に、三闘神から強い魔力が放たれた。それはガストラに真っ直ぐ向かっていき、ガストラは必死でそれを避けている。
 三闘神はケフカを受け入れた。

「しゅごい……」

 威力は凄まじく、三闘神の力が直撃した地面は深く抉れている。ガストラはそれを、渾身の力で何とか避けていた。なかなか当たらないことにケフカはイライラし始めているが、ガストラには既にあまり余裕はない。

「へたくそ!! へたくそ!! どこを狙っているのだ!! 」

 必死で逃げるガストラを、ケフカはさも楽しそうに追いつめてゆく。

「逃げろ逃げろ! でないと黒コゲだじょー!! 」

 じわじわとガストラを追いつめるケフカは、歪んだ笑みでにいと笑う。その表情に、エルは思わずぶるりと震えた。
 遂に三闘神の魔法がガストラを捉えた。

「あったりー!!! 」

 ガストラはばたりと地に伏せた。苦しそうにもがいているのを、ケフカは足蹴にして一人ごちる。

「ジジイが……さっきの、役立たずと言ったのは取り消してあげましょう。なぜなら皇帝、あなたは! 役たたず以下、だからだー!! 」
「恐怖が世界を覆うぞ……」

 ケフカを睨みつけながら言うガストラを、ケフカは崖から突き落とした。ガストラは魔大陸から空へ投げ出される。それを見届けると、ケフカは三闘神を移動させ始めた。

「だめ! ケフカ! 」

 セリスは三闘神像のバランスを崩そうとするケフカを止めに飛び出した。けれど、ケフカに弾き飛ばされてしまう。
 セリスは崖のすぐ際でどさりと落ちた。どこか怪我をしたのか、思うように身体を動かせないでいる。崖から落ちまいと必死でもがくが、今にも落ちてしまいそうだ。その間も、ケフカは黙々と三闘神を動かしている。

「だめ……ケフカ……。3人の力のバランスが破れたら……力が暴走する……! 」
「セリス! 」

 ロックがセリスの元へ駆け寄ろうとした時、黒い影が颯爽と現れた。セリスを崖からセリスを引っ張りあげると、三闘神の方へ移動する。

「シャドウ! 」

 みんなが目を丸くする中、シャドウはケフカをはり倒した。そして、三闘神を元の位置へ戻そうと懸命に像を押し戻す。
 しかし、既に魔大陸の崩壊は始まっていた。あちこちで地面が崩れ始め、轟々と凄まじい音が響きわたっている。三闘神はお互いに干渉し始め、禍々しい光に溢れていた。
 シャドウは像を動かした弾みでケフカを像と像の間に挟んだ。ケフカの間抜けな悲鳴が聞こえたが、最早誰も気にしない。

「行け! 世界を守れ! 」

 シャドウは像を動かしながら大声を張り上げた。しかし、仲間たちは困惑している。シャドウを見捨てたくはない。しかし、悩んでいる間にも、崩壊はどんどん進む。

「俺にかまうな。早く行け! もう暴走は止まらない! 」
「しかし、お前はどうする! 」

 エドガーが飛んでくる石を避けながらシャドウに問うた。

「ふっ……必ず戻ってみせるさ。心配するな」

 シャドウは不適に笑った。何か確信したように、エドガーは彼に頷きかえす。

「逃がしゃん……」

 像に挟まれたケフカがようやく脱出した。一行をこの大陸の崩壊の道連れにするつもりだ。ケフカが三闘神に手をかざすと、崩壊は更に加速する。

「急げ! 脱出するぞ! 」

 一行は飛空艇を目指して一目散に走り出した。しかし、その道のりは険しかった。
 もともと切り立った山のようだったが、それが更に崩れかかっている。さらに、岩や石がどこから降ってくるか分かったものではなかった。
 死ぬ思いで飛空挺に戻ると、セッツァーがヤキモキして待っていた。操縦桿を握りしめ、いつでも飛び立てる体勢だ。

「出すぞ! 」

 セッツァーがそう言って発進させそうとしたが、セリスの鋭い声が彼を止めた。

「待って! 」
「どういうこった!死ぬ気か? 」

 セッツァーは怪訝さを通り越し、不機嫌をモロに出して聞き返す。

「シャドウがいるの! もう少し待って! 」

 セッツァーの眉がピクリと動いた。

「1分だ! それ以上は艇が持たねえ! 」

 そうして一分経とうという時、ふとインターセプターが魔大陸の方へ向いた。すると次の瞬間、シャドウがブラックジャックの甲板に飛び込んで来た。

「報酬をもらわないうちは、死んでも死にきれないからな」

 一向に安堵のため息が漏れた。

 セッツァーはすぐにブラックジャックを発進させた。
 シャドウの帰還にしっぽを盛大に振って喜ぶインターセプターの頭を撫でながら、彼はその場に腰を下ろした。
 魔大陸はどんどん崩壊を続け、既に原型がなくなっている。

「三闘神の力は止められないのかしら 」

 ティナが心配そうな瞳で魔大陸のあった方向を見つめた。
 しかし、崩壊は魔大陸に留まらなかった。三闘神の力は方々に及び、世界全体が崩壊し始めている。あちこちで、あらゆる物が次々に破壊されていく様は、とても見ていられるものではない。
 そして、ブラックジャックも例外ではなかった。一行が下界に気を取られていると、機体の真ん中から突然亀裂が入った。

「掴まってろ! 」

 セッツァーは懸命に操縦桿を捌く。彼はとにかく安全に不時着をと考えたが、そんな余裕も時間もなかった。
 あっという間にブラックジャックは真っ二つに折れて、飛空挺と共に全員が空に投げ出された。
 甲板から滑り落ちていくエルに、エドガーは必死に手を伸ばした。けれど、彼女の服に指がかすっただけで、掴まえることは叶わない。お互いに、どんどん遠ざかりながら落ちていくのを見ながらも、どうにもできなかった。
 やがて、エルは意識が遠のいてゆく。何か暖かい物に包まれる感覚を感じたが、それが夢か現かはわからなかった。
 波に飲まれるように、エルは静かに目を閉じる。エルの記憶はそこで途切れた。
 ──そしてこの日、世界は引き裂かれた。

20171014


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