30 意地っ張り
「帝国め……必要なくなったらあっさりと殺しにかかってきた」
シャドウは片膝をついて、忌々しげに話す。息苦しそうに肩で息をしており、身体には帝国によるものと見られる傷が何カ所もあった。どれも深い。彼の黒い衣装を赤く染めている。
「てっきり死んだものだと……」
ロックがそう答えると、すかさずセリスの鉄拳が彼にめり込む。頭を押さえるロックに、「そういうこと言わないの」とセリスが小声で窘めた。
「インターセプターは? 」
「大丈夫。元気にしてるよ」
エルが「インターセプターは始終リルムにくっついている」と話すと、シャドウは「そうか」と呟くように言った。
マスクに覆われた表情は伺えないものの、目つきはその一瞬、僅かに緩やかになったとエルは思った。こんな大けがでは気休めにしかならないが、エルはシャドウに癒しの魔法・ケアルラをかけておいた。
「さあ、行こう」
エドガーが肩を貸そうとシャドウに手を伸ばす。しかし、シャドウは見向きもしない。
「俺にかまうな」
「放ってはおけない。この下に飛空挺がある」
エドガーが向ける視線の先にブラックジャックが見える。ずいぶん上ってきたのでやや小さく見えるが、手負いとはいえシャドウなら十分にたどり着ける距離だ。
「仲間達が待機している。応急処置くらいはできるはずだ」
ロックがそう言ったのと同時に、突然あたりに轟音が響いた。大地が揺れるような大きな音で、それだけで地面がひび割れるかのような威力だった。
「みんな! あれを見て! 」
セリスが大声を上げる。彼女が指さす方を一斉に振り返ると、そこには見たこともないモンスターがいた。
「な、何だ、ありゃあ……」
ロックが口をぱくぱくさせていると、モンスターが鋭い目を彼らに向けた。反射的にそれぞれが武器を構え、魔法の準備を始める。
「我が名はアルテマ……太古に作られし最高の力なり。我は力であり、生命にあらず。弱き生命体よ、消え去れ! 」
言い終わるや否や、アルテマと名乗ったモンスターは一行に襲いかかった。
◇
断末魔をあげて、先のモンスターが崩れていく。地に伏せる頃には跡形もなく、今までの死闘が嘘のように静けさが戻った。
「……やったか」
モンスターが完全に消えたのを確認すると、エドガーはほっと息をついた。武器を納め、ぜえぜえと肩で息をするエルに手をかざす。ケアルラをかけると、エルの傷だらけだった肌が、みるみる治っていく。
「ありがとう。エドガー」
「お安いご用さ。レディに傷は似合わないからね」
「もう、上手ね」
エルが礼を言うと、エドガーはおどけてウインクする。エルも真似してみるが、きれいに片目だけを瞑れない。
「君は、まだまだだなあ」
ははは、と笑うエドガーにエルもつられて笑った。エルはこの遣り取りがひどくくすぐったいような、心地よいような、不思議な感覚だ。
ロックとセリス、シャドウもひとごこち着いた。身支度を整え、再び進もうということになった。
「さあ、シャドウ。行こうぜ」
ロックがシャドウに声をかける。みんな彼を連れて一旦戻ろうとしていた。しかし、本人の意思は頑なだった。
「一度は帝国にこの身を売った俺だ。お前らといっしょに戦う資格はない」
そう言い残すと、シャドウは音もなくすっとその場から去っていった。「誰の反論も受け付けない」といった雰囲気で、その隙も与えなかった。
シャドウが去ってから幾分進むと、険しい山道に変わった。
エルは額の汗を拭いながら、随分高いところまで上ってきたものだと来た道を振り返る。下を見下ろすと、ブラックジャックは豆粒のように小さく見えた。
「後少しで頂上か……」
エルにつられて立ち止まったエドガーは、この先の傾斜を見やる。
「……そこに、三闘神が奉られているんだな」
ロックが険しい顔つきで、意を決するように言った。四人はそれぞれ顔を見合わせ、頷き合う。
「行きましょう。帝国を止めないと」
セリスはもう少し先に見える頂上をきっと睨みつけるようにして前を向いた。
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