32 青い瞳
エルは身体も意識も全部飲み込まれていた。いろんな色の絵の具が混ざり合い、マーブル模様が溶け合っているような感覚を覚える。
全てのことがどうでもよくなるようだ。ふわふわしているけれど、決して心地よくはない。けれど、それが永遠に続くような気さえした。
果たして自分が何者であったか、今まで何をしてきたのだったか、という事に思い至ると、エルの身体は急に覚醒し始めた。
波の音が聞こえる。ザーザーと規則正しく繰り返される音が心地よい。
エルはゆっくりと目を開けた。寝過ぎた朝のように視界がぼやけてはっきりしないが、小さな部屋の中にいるらしいことはわかった。
部屋は簡素な造りで、窓はあってもガラスはない。木造の、と言っても素材は流木か何かであろうことが伺えるような、くたびれたものばかりで構成されていた。
エルが横になったままぼんやりしていると、快晴の空のような色の瞳が目の前に表れた。
ああ、わたしはこの瞳を知っている。きっとエドガーだ──そう思ったエルは、その名を呼ぼうと口を開きかけた。けれど、何かが違う。よく分からないが、とにかく違った。
更に覚醒したエルは、改めてその瞳の持ち主を見た。彼はエルの顔をのぞき込むと大喜びし、がばりと彼女に抱きついた。
「エル! よかった! 気が付いたんだな! 心配したんだぞ」
「……マッ、シュ……? 」
エルはまだ少しだけぼんやりしている。今ひとつ状況が掴めていないが、どうやらマッシュが世話をしてくれていたらしい事は理解した。
「おう! 三日も起きないからどうしようかと思ったよ」
「三日……? 」
三日前になにが起こっただろうか。エルは頭を回転させ始めた。
「そうだ。ただ、他のみんなはどうなっちまったかは、わからないんだけどな」
魔大陸へ行った。そして、ブラックジャックが空の上で真っ二つになった。エルはすっかり覚醒した。
「マッシュはずっと見ててくれたの? 」
「ああ。ずっと眠ってたからな。放っておけないよ」
「ありがとう、マッシュ」
エルはにっこり笑って、ゆっくりと身体を起こした。
「この小屋は、マッシュが? 」
「ああ、なーんにもなかったからな。この辺り。屋根くらいあった方がいいだろ? 」
ニッと笑うマッシュはいつもに増して豪快、且つワイルドだった。
世界が崩壊した際に、地形が随分変わってしまった。さらに、その後もケフカによって、街や山などあらゆる物がどんどん破壊されている。日頃目印にしていたような物がなくなって、ここがどの辺りかも未だはっきり分からないのだとマッシュは言った。
マッシュが近くで採ってきたという魚や木の実を食べて、二人は飢えを凌いだ。山籠もりをして修行を積んだモンク僧のサバイバル能力は確かなものだった。エルは感謝しかない。
「他のみんなはどうしてるんだろう。無事かしら」
エルの脳裏にふと、エドガーの顔が浮かんだ。空から落ちるときに必死に手を伸ばしてくれたが、あと少しが届かなかった。その時の絶望感と彼の苦い表情を唐突に思い出し、エルは胸が苦しくなった。
「わからない。俺が気付いたときは、既にエルと二人だったからな」
「そう……」
空から落ちるとき、マッシュは気を失ったエルを抱えて一緒に落ち、気付いたらこの近くの浜に二人で打ち上げられていた。
仲間が生きているかどうかもわからない。地形もすっかり変わり、見渡す限り荒れた大地が続く。海や川の色もおかしい。それらのことがなおさら絶望を誘う。
マッシュが居てくれてよかったと、エルは心底ありがたいと思った。
20171016
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