33 ある夜のこと
セリスは孤島で目を覚ました。シドが彼女を介抱し続けて約一年後のことだった。
セリスが回復すると、次はシドが倒れてしまった。セリスの懸命な看護の甲斐あってシドは回復し、一命を取り留める。セリスは喜んだが、すっかり希望をなくしてしまった。仲間のことも半ば諦めていた。
セリスは絶望のあまり、親のように慕うシドと共に余生を生きたいと願った。けれどシドは無人島になってしまったその島に、セリスをこれ以上留めるつもりはなかった。シドはセリスのために筏を作り、島から出るように諭した。
セリスはまだ若い。もう帝国もない。なんのしがらみもない今、セリスはようやく自由になったのだ。
孤島を出て仲間を探し、もしそれが不可能だとしても、セリスに新しい人生をと願ったシドの親心である。
セリスが孤島を出た頃、マッシュとエルは未だサバイバル生活をしていた。その間もケフカによる世界の破壊は進んでいる。
マッシュ達の小屋の傍にあったはずの山は崩れて湖に変わり、それによって無かったはずの川が表れた。どんどん地形が変わってゆく。生態系も狂い、それを糧にする彼らの生活も脅かされ続けている。
地形の変動によって、それまで見えなかったものが、ある日突然見えるようになることがある。これまでもそうして森や池を見つけたことがあったが、その時は少し違った。当初は近くにはないと考えていた街が、案外近くにあることにマッシュが気づいたのだ。
食料の調達を兼ねて探索に出かけていたマッシュが息を弾ませて小屋に戻ると、エルもぱっと顔を輝かせた。
「ツェンじゃないかと思うんだ。あの町並みは」
「ここはツェンの近くだったのね。ずいぶん変わってしまったけれど」
エルは焼きたての魚を頬張りながら、周りの景色を見渡した。
マッシュが作った小屋の他に、何も見あたらない。人の気配もほとんどなく、エルはこの一年ほどの間、マッシュとモンスター以外に会っていない。
「明日、行ってみよう。少し歩くけど、行けない距離じゃないと思うんだ」
「うん。街の人たち、無事だといいね」
明日は日の出と共に出発する。早く寝て備えようということになった。
しかし、エルには気になることがあった。この何ヶ月もの間、マッシュは寝る間際になると毎日外出していた。そして、エルが寝た頃に帰ってきている。
エルも初めは何か用事でもあるのだろうと、気にもしていなかった。しかし、こう毎晩続くとさすがに気になって仕方がない。
マッシュからは何も詳しく聞いていないし、むしろ聞きにくい雰囲気すら漂っている。エルは言い出すのをためらっていた。
「じゃあ、わたしもう寝るね」
「おう。俺はちょっと散歩してくるよ。近くにはいるから何かあったら呼んでくれよ」
そう言い残し、マッシュは今日も出掛けていった。
「どこへ行っているのかしら。教えてくれたっていいのに。わたし、もしかしてマッシュの負担になってるのかな」
とはいえ、二人ともいい大人だ。マッシュにだって、人に言いたくないことの一つや二つはあるだろう。エルはそう自分を納得させて、早く寝ようと試みる。
けれど、考えたしたら止まらない。良くない思考がぐるぐる回り始めると、すっかり目が冴えてしまった。
そうこうするうちに、マッシュがそっと足を忍ばせて帰ってきた。ほとんど音を立てずに、エルを起こさないように気遣ってくれているのがよくわかる。
エルはマッシュに声をかけた。
「お帰り。遅かったね」
「へ? ……まだ起きてたのか?! 」
マッシュは驚いた声で返事をした。エルが動かないので、寝ているものと思っていたらしい。
「うん。眠いんだけど、何だか目が冴えちゃって」
「そ、そうか……俺、もうちょっと出て来るよ」
「え? どうして?寝ないの? 」
エルはがばりと起きあがった。
時計がないので時間はわからないが、もう深夜と言える時間であることは間違いない。さすがにこのまま寝るだろうと思っていたのだ。
「え? ああ……いや、その……」
暗闇の中でも、マッシュがしどろもどろしているのがわかる。エルは意を決して、聞いてみることにした。
「いつもどこに行ってるの? わたし、邪魔、なの? 」
「違うっ。それは絶対に違う! 」
マッシュは間髪入れずに否定する。だが、それならそうと、さらなる疑惑が沸き起こる。
「じゃあ、なんでそんなに避けるようなことを……」
エルは悲しくなった。違うと言われてホッとはしたが、避けられている事に変わりはない。
エルの憂いの表情に、マッシュは思わず生唾を飲んだ。昼間の疲れと眠気も吹っ飛び、彼の理性がぷつんと切れる。
「それは……こういうことだ」
マッシュはエルの正面へ移動し、向かい合って座った。そして、そのままエルを抱きしめる。エルのつるんとしたおでこに唇を寄せ、愛おしそうに腕の力を一層強めた。
一方、エルは思考が追い付かなかった。突然のことに驚き、おでこの暖かい感触に更に驚いて上を向く。
「へ? ま、まっしゅ……」
エルが上を向くのを待っていたかのように、口づけの雨が降った。
唇同士が触れ合う。マッシュのそれは燃えるように熱かった。
エルは混乱している。この状況についていけない。けれど、マッシュは構わず彼女を押し倒した。
マッシュの顔がどんどん近づいてくるのを、エルは無意識のうちに極限まで顔を背けた。マッシュ相手に、力で勝てる訳がない。身動きが取れないなりの、せめてもの抵抗だった。そこでふと、エルの脳裏に彼の兄の姿が過ぎる。
エルはぎゅっと瞼を閉じた。身を堅くして耐えていたが、それ以上は何も起こらない。恐る恐る目を開けた。
マッシュは既に体を起こし、少し離れたところに座っていた。愕然とした様子で、自分の行動を酷く後悔している風だった。自責の念と後悔の念に今にも押しつぶされそうになっている。
エルはのろのろと起き上がり、マッシュに声をかけた。
「あ、あの……大丈、夫……? 」
「ごめん」
マッシュはエルの顔を見ると、もう一度すまなかったと謝った。大きなマッシュが、今はとても小さく見える。
「毎晩外に出てたのはさ、こうならないためだったんだ」
「……え? 」
きょとんとするエルに、マッシュは「そうだよなあ」と、大きな手で自分の頭をがしがしとかき混ぜた。
「誰の邪魔も入らない場所で、好きな女の子と二人っきり。いくら禁欲生活が長くても、俺だって男なんだよ……」
マッシュは「だからって、無理に押さえつけてでもしようとは思わねえけどな」と付け加えて、俯いてしまう。
エルはまた緊張した。好きな女の子。ここに二人しかいない今、誰のことかは明白だ。
エルはマッシュのことは好きだ。けれど、マッシュの言う「好き」とは違う。そして、それはマッシュもよく分かっている。
「もちろん並の男よりもよっぽど抑える自信はあるし、他の女相手ならいくらでも我慢できる。これも修行だと言い聞かせてたけど……もう限界だった」
マッシュはエルにもう一度謝った。
「もう、こんなことは二度としない。誓うよ」
「……ごめん」
エルも何だか申し訳なくなった。マッシュがひとりで葛藤していたなんて思いもよらなかった。無防備だったと反省する。
そして、マッシュは自分のことを想ってくれているようだが、応えられないことも心苦しかった。けれど、こればかりは仕方ない。
「いや、エルは悪くない。それに、謝らないでくれよ。傷つくから」
「あ、ごめん。……あ、えっと」
謝ったことに謝ってしまった。それについてまた謝ろうとして、エルは口をつぐんだ。マッシュはそんな様子を見てくすりと笑う。
「きっと会えるさ。兄貴のことだ。たぶん、どこかで逞しく立ち回ってるよ」
「え……? えっ? どうして……」
確かにエルが思わず頭に浮かべたのはエドガーだった。どうしてわかったのだろう。エルは動揺してマッシュの顔をのぞき込む。
「何で分かるんだ、って顔だなあ」
エルはまた面食らった。立て続けに図星を付かれてぎょっとしている。マッシュは心も読めるのかとドキマギした。
「うーん、そうだな……双子の勘、かな」
「そ、そう……」
しどろもどろするエルにマッシュはまた小さく笑った。そして、マッシュはゆっくり立ち上がり腰を伸ばすと、出入り口へ歩いてゆく。
「じゃあ、俺は外にいるからエルはもう休んでくれ。近くにはいるから」
そう言って、マッシュはまた小屋を出ていった。
エルは結局、その晩は一睡もできなかった。目が冴えたどころか、ずっとどきどきしている。結局落ち着かないまま朝を迎えてしまった。
その夜、マッシュは決して小屋へ入らなかった。すぐ近くにはいたけれど、とても入れる心境ではなかった。
もうすぐ朝日が昇る。水平線が赤く輝き始めていた。
「あーあ、ふられちまったな。わかっていたけど、やっちまったな……」
マッシュは朝日を浴びながら、川の水でばしゃばしゃと顔を洗った。
20171018
あわわ……やってしまいました
マッシュ好きのみなさんすみません
大事件です
でも、一年もこんな生活してると何かありそうだなあ、なんて
マッシュは紳士ですから、と思ってるけど……
娯楽のない世界で二人きり
開放的すぎる密室
絶望的な世の中
だなんて、条件が揃いすぎている
わたしならほだされてるかも←
だから、セツセリになるとしたら崩壊後だろうというのがワタクシの持論です
これも盛り込みたい
FF-D D+S m-ds New!夢物語
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