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4 港町ニケア



「ガウ、エル! 遠慮せずにたらふく食えよ! 」
「がう! 」「うん! 」

 ニケアに入った一行は、食事を摂る為に酒場に来ていた。
 店には見るからに柄の悪そうな連中や盗賊達、派手な衣装の踊り子や給仕たちで溢れかえっている。少しタバコの臭いが鼻につくが、出される食事はどれも絶品だった。
 周囲は常に音が溢れている。慣れない環境と都会の喧騒に、エルは少し緊張気味だ。

「それにしても、賑やかな街でござるな」
「そりゃあ、世界の流通の要だからな。ここは珍しい物もたくさんあって面白いぜ。ガウ、旨いか? 」
「がう! ほしにくくらいうまいぞ! 」
「はは……ほしにくが基準なんだな」

 マッシュはガウの言葉に思わず笑ってしまった。ガウにとって、ご馳走といえば干し肉なのだからそういうものだ。
 ガウは肉を口いっぱいに頬張って、満面の笑みを浮かべて上機嫌だ。よほど美味しいのだろう。
 エルは食事の手を止め、席を立った。

「わたし、トイレ行ってくるね」
「おう、迷子になるなよ」
「ならないわよ。子供じゃないわ」

 エルとマッシュの憎まれ口の応酬は、近頃は日常の一部になっている。
 どうしてもエルに構いたい自分がいると、マッシュは自覚している。まるで兄貴の口説き癖のようだな、とマッシュは一人苦笑いした。手段は違うにしても、やはり血は争えぬものである。
 エルと入れ替わるようにして、ひとりの女がやってきた。派手な衣装は露出が多く、あからさまな色気がムンムンと漂う。
 女はカイエンの横へピッタリと体を密着させ、上目遣いで彼を見つめた。

「ねえ、お兄さんたち。楽しんでる? わたしと一緒に飲まない? 」
「ななな、なんとふしだらな! おなごというものは、もっと慎みを持って………! 」
「んもう。堅いこと言わないでよ。ほら、タニマ」

 赤い衣装と同じくらい真っ赤な唇が、扇情的に動く。カイエンは真っ赤になってますます怒り出した。けれど、少し目が泳いでいる。強調された胸が目の前にあって、目のやり場に困っている。

「おおおお主っ。そこに直れっ。説教でござる! 」

 タニマ女はカイエンをターゲットにするのは諦めたようだ。説教を始めたカイエンからさっさと離れ、次はマッシュにしなだれかかる。

「まあまあ、そのくらいにしときなよ。カイエンさん、免疫なさそうだもんな」

 そう言いながらマッシュは顔色一つ変えないで、女を自分から引き剥がした。

「マッシュ殿。お主は平気でござるか!? 」

 何でもない風のマッシュに、カイエンは鼻息荒く聞き返す。

「厳しい修行の賜物ってやつかな。禁欲生活、長かったからね」
「よもや、衆道などとは……」
「おいおい、よしてくれよ。俺はそんな趣味ないぞ」

 マッシュはぶんぶんと大きく首と手を横に降った。カイエンの疑惑を否定する。

「タニマってなんだ? しゅどうってなんだ? うまいか? 」
「ガウにはまだ早いよ」

 マッシュは困り切って苦笑いした。ガウに見せるものではなかったと反省する。カイエンも「すまぬ」と小さく彼に詫びた。
 女は既にいなくなっていた。女にすれば、他の客を探した方がはるかに効率的だ。

 詫びたものの、納得のいかないカイエンはさらにマッシュに問いかける。

「しかし、そこまで無関心でいられるとは」
「うーん、そうだなあ。誰のでも良いって訳じゃないんだよな」
「ほほう」

 カイエンが顎を撫で、マッシュに続きを促した。すると、後ろから更に別の声が降ってきた。

「ねえ、どうしたの?食べないの? 」

 トイレからエルが戻って来た。彼女は男2人を見比べ、きょとんとした表情をしている。

「うわっ、エル?! も、もも戻ってたのか」
「うん」
「そ、そうか、ははは。気づかなかったなー、と」

 マッシュは急に何かを取り繕うようにおろおろし始めた。エルは不思議に思ったが、今は食欲が優先である。テーブルについてさっさと食事を再開した。

「変なの、先に食べちゃうよ」
 
 エルとガウは黙々と食事をする。
 マッシュは無意識に、チラチラとエルの胸元を見ては動揺していた。とにかく落ち着きがないが、本人は気づかない。カイエンはそれにひとり気付き、「お若いのう」と小さく呟やいて微笑んだ。

20140804


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