53 これから(完)
瓦礫の塔を後にしてから、一行はまずモブリズの上空を通った。空から見る限り、特に大きな問題はなさそうだとティナはほっと息をつく。
ケフカを倒した事をきっかけに、どす黒かった空がだんだん明るくなってきている。春風にも似た爽やかな風が吹き始めると、誰もが心浮き立つような気持ちになった。
一行はまずフィガロ城に向かっている。ケフカの元へ乗り込む前日から泊まっていたし、フィガロ城では国王であるエドガーを今か今かと心待ちにしている。また、国の期待を一身に背負う若き国王は既に復興の事で頭がいっぱいで、彼もまたなるべく早い帰国を望んでいた。
「お前はこれからどうする? ロック」
エドガーがロックに問うと、ロックは少し照れたように指で鼻の下を擦りながら答える。
「セリスと一緒にシドのいる島へ行くよ。セリスが気にしている。その後は、セリスとトレジャーハントだ。な、セリス」
ロックが近くにいたセリスを呼び止め、肩を抱いた。セリスも恥ずかしそうにはするもののまんざらではなく、おとなしく収まっている。
「ええ、楽しみだわ。」
「そうか! そりゃいいや! 」
マッシュは豪快に笑うと、ロックの背をバンと叩いた。マッシュは手加減したつもりだったが、ロックは軽くつんのめってしまった。慌てて起こしに行くマッシュにロックは反撃するが、じゃれ合うのも最後かと思うとエルは急に寂しくなった。
「マッシュ、お前はどうする? 」
エドガーがマッシュに問う。マッシュはロックにポカポカ殴られるのを軽くいなしながら、「そうだなあ」と腕組みをする。
「一旦城に帰ろうかな。で、その後はモブリスでティナを手伝う約束をしてるんだ」
おや、とエドガーは皆目し、思わず隣のエルと目を合わせた。
「あれ? 言ってなかったか。男手がディーンだけじゃあな。何かあったら心配だ」
マッシュはモブリズに家を作る気でいるのだと語り、当分そこにいる予定でいる旨をエドガーに伝えた。
他の仲間たちも同様に、皆それぞれ帰ってゆく。カイエンはガウと共にドマの再興へ、ストラゴスはサマサに帰り、リルムはジドールのアウザーの屋敷に戻って絵画を完成させる予定だ。モグとウーマロはナルシェに戻る。
だが、シャドウだけは脱出の際にはぐれたままだ。彼の愛犬・インターセプターだけがファルコンにいる。彼はリルムによくなついていて、今後もリルムについて行くのだろう。
そして、セッツァーはなんと運送業を始めると言い、仲間たちを驚かせた。
「傷男が、堅気の仕事なんてできるのかよ……」
リルムが大きな独り言を言うと、セッツァーは鼻で笑った。
「ふん。こんな時にカジノなんか始めても仕方ねえだろうが。もっと世の中が安定しねえと回る金も回らねえ」
「なんだ、ちゃんと考えてるんじゃん」
なーんだ、とさも興味を無くしたように振る舞うリルムに、セッツァーは「お子様は黙ってろ」とシッシと追い出す仕草をする。
エルはふと、自分の今後を何も考えていなかった事に気が付いた。初めてフィガロ城を訪れた時に、エドガーはフィガロに住めば良いと薦めてくれたが、具体的には何一つ相談した事がない。
エルが俄に焦り始めた時、エドガーがエルの両手を握った。
「エルはまた一人で焦っているのかい? 」
エドガーはいたずらっぽく笑うが、すぐに笑いを引っ込めた。急に真剣な表情に切り替えると、突然片膝を着いてエルに跪いた。
「エドガー? 何してるの? 」
エルは驚いた。だが、エドガーの顔を見てもっと驚いた。いつも自信満々のエドガーには珍しく、とても緊張した顔をしていたからだ。
エルが思わず黙ってしまうと、エドガーはゆっくり話し始めた。
「エル。以前、君にピッタリの仕事を探しておこうと話した事だが、今改めて頼もうと思う」
ひと呼吸おいて、決心したように話すエドガーは、エルが知る彼の表情の中でも一、二を争うほど緊張しているように見えた。
「一緒に、フィガロに来てくれ。君を正式にフィガロへ迎えたい」
ガヤガヤしていた甲板が、エドガーの一言で急に静かになった。皆の視線を一身に浴びて、エルも緊張した。
「それって……」
「プロホーズかよ。けっ」
エルが二の句を継げぬうちに、セッツァーは忌々しそうに顔を歪めた。けれど、そう言いながらもセッツァーの表情はどこか嬉しそうだ。セリスは涙ぐみ、ロックは何故か緊張して固まっている。
一方エルは気持ちの整理が追いつかなかった。ただ唖然とするばかりだ。この話題の主役のはずなのに、完全に置いてけぼりである。
エドガーは苦笑いして、エルにそっと耳打ちした。
「俺のミドルネームは覚えているな? 」
「うん……」
「この秘密は、
家族だけが知っている」
エルは目を見開いてハッとした。孤児だった自分が求めていたものは、これではないか。
エルは大きく頷くと、エドガーにしがみつくようにして抱きついた。エドガーもしっかり応え、二人してぎゅうぎゅうに抱きしめ合う。やがて目が合うと、唇を重ねる。仲間たちからは歓声が上がり、祝福ムード一色になった。
飛空艇ファルコンはいよいよフィガロ上空に差し掛かった。フィガロでは、エドガーとマッシュ、そしてエルが飛空艇を降りる。
エドガーとマッシュが先に降り、エルが二人に続く。だが、エルはファルコンの出口で立ち止まった。降りてしまったら、旅が終わる。辛いことも多かったが、仲間たちとの思い出は何物にも代えがたいものになった。エルはくるりと自分達を見送る仲間たちを振り返る。皆、晴れ晴れとした笑みを湛えていた。
名残惜しいが、物事はいつか終わる。みんなが無事で飛空艇を降りられるのだから、これは幸せな事なのだ。エルが前方へ視線を戻すと、扉を出た所でエドガーとマッシュがエルを待っている。地上とはやや段差のある出入り口の側で、エドガーはエルに手を差し伸べた。
エルは後ろ髪引かれる思いと、これから始まる砂漠の国での生活への期待を胸に、エドガーの手を取る。微笑むエドガーに身を任せ、エルは砂の上へ足を踏み出した。
エドガーとマッシュ、エルは並んでファルコンを見送る。城の者達も一斉に手を振った。
飛空艇が浮上する前、リルムが甲板から顔を出して叫んだ。
「ねえ、エル! 色男! リルムが二人の肖像画描いてあげるよ。アウザーのオッサンの絵が終わったら行くね! 」
リルムの大声と共に上昇したファルコンは、あっという間に空高く舞い上がる。エルの拳よりも小さくなり、飛び去って行った。
「楽しみにしてるね。リルム」
エルがそう言うとエドガーも微笑み、二人して空を見上げた。
あれだけ厚く空を被っていた赤黒い雲はいつの間にか姿を消し、どこまでも青い空が広がっている。山や野の緑も命を吹き替えしたように青々と輝き、世界が新しく生まれ変わったように晴れやかだ。
マッシュが先導し、その後ろをエドガーがエルの手を引いて歩く。やがて3人は城の門番や大臣達に迎えられ、城中から大歓声が響いた。
これからは、エルにはエドガーがいるし、エドガーにはエルがいる。さらにマッシュも彼らの心強い味方だ。エルはもう、一人ではない。
暗い洞窟を彷徨うような半生を送ったエルは今、ようやくその出口にたどり着いた。
完
2020/05/13
ご愛読ありがとうございました。
足掛け6年。ようやく完結です。
夢だし結婚に結びつけるのがなんか嫌だったんだけど、やっぱりこうなるのよね!
本当はエドガーさんにはもっとキザにキメて欲しいんだけど、もともと冷めたわたしの微糖(無糖かも)具合ではこれが限界。
6大好き!バイブル!
真剣にリメイク希望!
FF-D D+S m-ds New!夢物語
- 54 -
prev * finish
しおりを挟む
MODORU