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52 達者でな



「崩れるぞ! 」

 一行は遂にケフカを倒した。ケフカは今、大きな音を立てて崩れている。まるで砂の城を空中で崩したように、細かい塵となって少しずつ消えてゆく。帝国の魔道師として悪行の限りを尽くした男の終焉は、魔導の神と心中したような物だった。

 長い闘いがようやく終わった。あとはケフカもろとも崩れてようとしている瓦礫の山から脱出するだけだ。だが、その道のりは遠い。

「さあ急げ! この先に飛空挺が停めてある」

 セッツァーが大声を張り上げて、仲間たちを誘導する。皆走り始めたが、ティナがピタリと立ち止まった。
 セリスは青い顔をするティナに追いつくと、声をかけた。

「ティナ! どうしたの? 」
「魔石が……」

 ティナは持っていた魔石をセリスに見せた。魔石は一瞬だけ淡く光った後、粉々に砕け散ってしまった。

「この世界から、魔法が消えていくのね……」

 ティナ達に追いついたエルは愕然とした。エルの手を引いて息を切らせるエドガーも、戸惑いを隠せない。

「幻獣の存在がなくなるのか……」
「ティナと、エルの存在も……? 」

 泣きそうな顔をしたセリスを、引き返してきたロックが抱き寄せた。とにかく一歩でも先へ行こうと促す。
 一気に重くなった雰囲気を振り払うように、ティナは前を向いた。凛とした眼差しで出口を見据えると、足止めしてしまった仲間たちを振り返る。

「私について来て。残された最後の力を使って、みんなを導く」

 ティナは力を振り絞り、ピンク色に輝き始めた。





 一行はバタバタと飛空艇に駆け込んだ。全員が乗った事を確認するのと同時にセッツァーは飛空艇を飛ばした。
 ティナは一旦人間の姿に戻っていた。とりあえず飛空艇に戻ることができてほっとしていたが、仲間たちが所持していた魔石は次々と砕け散っていく。
 そして、遂にティナの恐れていた事が起きた。マディンの石が淡く光り始めている。

「お父さん……」
「ティナよ、お別れだ。この世界から幻獣が消える。幻獣の血をひいたお前ももしかしたら……。でも、もし人間として何か大切なものを感じとることができたのなら、お前は人間としてこの世界に……」

 マディンの魔石は砕けてしまった。灰のように風に舞って流れながら消えてゆく魔石を見送ると、ティナは涙を一筋流した。
 ティナは涙を拭うと、決心したように仲間たちを見る。

「ついてきて! 」

 そう言うなり、ティナは再び変身した。すぐに飛び上がり、飛空艇の少し前を飛び始める。
 ティナは自らの勘と魔力で、なるべく安全な航路を探した。宣言通り、仲間たちを安全な場所へ導こうとしている。
 一方、エルは自分が光り始めている事に気が付いた。だがよく見ると、光っているのは胸の辺りだけだ。どういうことかと首をかしげていると、エドガーが必死の形相で飛んできた。

「エル! 大丈夫か? 」

 エドガーが焦ってエルの両肩を掴むと同時に、淡い光が集まってエルの外へ出て来た。二人でその光を目で追うと、それは人型に形成されてゆく。驚いた仲間たちが集まった頃には、トランスしたティナが青くなったようななりをした幻獣が現れた。

「やっと会えたな」

 幻獣はエルをまっすぐに見つめている。エルも幻獣に視線をしっかり合わせると、ゆっくりと近づいてゆく。

「もしかして、セイレーン……? 」

 幻獣はそうだと返事すると、優しく笑った。

「ごめんなさい。わたしのせいで、あなたは……」

 エルの言葉を遮るように、セイレーンは首を横に振った。表情は優しく、恨みや怒りは感じられない。エルはもう涙を堪えられなくなっていた。

「いいのさ、あんたの意思じゃないだろう」

 涙で濡れたエルの頬を拭いながら、セイレーンは話し始めた。

「初めは恨みもしたけどね、あんたもあの実験の被害者だろ。それに、人間の生活や営みを体験できたからね。それでチャラさ」

 セイレーンはからりと笑う。さぞ苦しんだのではないかと気が気でなかったエルは拍子抜けしたくらいだ。

「悪くなかったよ。あんたとの生活。運命共同体ってやつさ。ね、それよりもさ、」

 セイレーンはエルに耳打ちをしようと、している。真剣な顔つきに、エルも耳を傾けた。

「あの男、大事にしなよ。あんないい男なかなかいないよ」
「ええっ? 」

 エドガーを親指を立てながら指すセイレーンに、エルはとんでもなく恥ずかしかった。
 みるみるうちに茹でダコのように顔を赤くするエルに、仲間たちは不思議そうな顔をする。セイレーンはいたずらっぽく笑いながら、「ほんとだよ」とエルの背をぽんと軽く叩いた。

「本当なら最後まで付き合いたかったんだけどね、もう潮時だ」

 セイレーンが話し終わらないうちに、既にセイレーンの身体も消え始めていた。

「あんたの身体は、もう自分で血を作れている。心配ないよ」

 そう言うと、セイレーンは跡形もなく消え去った。

「ありがとう。ありがとう……」

 エルはまた泣いた。大粒の涙が止まらない。エドガーが彼女を引き寄せると、エルは自らエドガーの胸に飛び込んだ。
 すると、エドガー達の後ろの方で、マッシュが叫び声を上げた。

「最後の魔石が砕けちまったぞ! 」

 それを聞いたセリスは、ファルコンの甲板を走った。飛空艇を先導するティナに、必死に呼びかける。

「ティナ! もういいわ! あなたの力はもう……」

 セリスがそう叫んでいる間に、ティナの高度ががくんと落ちた。エルはたまらず悲鳴を上げる。

「ティナの力がなくなっていく! 」
「セッツァー! 」

 セリスとエドガーがほぼ同時に叫んだ。そしてその直後、ファルコンも急に高度を極端に落とし、さらに急発進した。甲板にいた者は皆立っていられなくなり、振り落とされないように必死に掴まれる場所を探した。
 エルももれなく倒れそうになったところをエドガーがしっかり引き寄せて、そのまま床に伏せた。
 飛空艇の速度が落ち着くと、エルはガバリと身を起こした。

「ティナは!? 」

 辺りを見回すが、ティナの姿が見当たらない。すると、今度はセリスが声を上げた。

「ティナ! 無事よ! 」

 甲板の先端ギリギリのところにティナがいた。ティナはゆっくり起き上がる。

「ありがとう」

 セッツァーはニヤリと笑った。

「言ったろう? 世界最速の船だって」

 ティナを拾いに行く時、セッツァーは内心冷や汗をかいていた。だが、ティナを救えたのだからそれでいい。ニヒルに笑って見せてはいるが、彼は最高に気分が良かった。

2020/05/10
いつの間にかラスボス倒してます。
あっさり脱出したけど、もうちょっとだけ続きます。


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