D+S FF-D New!夢物語


1 小柄な騎士



 鋭い剣戟が響く。その中心で、観衆の視線を一心に集める二人がいた。
 バロン王国の兵士たちによって、訓練を兼ねた模擬試合が行われている。試合といっても、得物は真剣だ。気を抜くと怪我をするが、試合自体は大層なものではない。兵舎の一角にあるいつもの訓練場だ。観衆は皆、何らかの隊に属する騎士達である。
 現在行われているのは最終戦、トーナメントで勝ち上がった二人の決勝戦であった。

 一人は暗黒騎士であり、若くしてバロン王国飛空艇団「赤い翼」の隊長を勤めるセシル・ハーヴィだ。そして、もう一人は彼の部下で且つ、赤い翼の隊員の一人である少年兵だ。名をアベル・フィードといった。
 セシルは細身ながらも体躯はしっかりしているが、決して「大男」と呼べるほどの体格ではない。そして、アベルはセシルよりも更に一回り小さかった。他の隊員たちとも比べるまでもなく、華奢で小柄な騎士である。

 試合は五分五分といったところで、どちらも譲らない。セシルは巧みな剣捌きを武器に、アベルは小さな身体を活かした小回りの良さと、簡単な白・黒魔法を駆使して立ち回っている。しかし、力の勝負になると差は歴然であった。
 セシルが鍔競り合いに持ち込むと、アベルは防戦一方になる。すぐに持ち堪えられなくなり、あっさり勝負がついてしまった。
 アベルはセシルの剣に押されて吹っ飛び、どさりと崩れ落ちた。セシルがとどめの一突きをアベルの喉元の一歩手前で止めると、わっと歓声が上がった。勝負あり、である。

「大丈夫か? 」

 セシルは剣を納め、顔まで覆う黒い兜のマスクを外した。それを兜の上部へスライドさせて、倒れたアベルに手を差し出す。

「はい、ありがとうございました! 」

 アベルもゆっくり起き上がり、差し伸べられた手を取った。セシルはまだ少しふらついているアベルを立たせてやる。
 アベルは軽い。鎧を一通り身につけていても軽々持ち上がってしまう。これは、セシルの気がかりの一つであった。

「素早さも、武器の扱いも申し分ない。僕は魔法のことは分からないが、いい勝負だった」

 試合は周りの騎士達も納得の内容だった。観衆はうんうんと頷き合うが、セシルは渋い顔で続ける。

「『身軽さを活かせ』とは言ったが、やはり力も体力も足りないな。君は軽過ぎる」
「すみません……」

 アベルはしゅんと肩を落とす。前々からセシルより直々に弱点を指摘されていた。正に、克服しようと必死になっているところなのだが、そう簡単に変われば苦労はない。

「謝らなくていいさ。身体のことだ、ある程度は仕方ない。ただ、心配だ」
「心配……ですか」

 アベルは複雑な表情でセシルの顔を伺った。

「君は戦場で真っ先に狙われるだろうから」

 大柄でいかにも屈強そうな兵よりも舐めてかかられるのはよくあることだった。実際に、簡単に吹っ飛ばされてしまうようでは、騎士として致命的だ。

「さて、今日はここまでにしよう。皆よくやった。解散! 」
「は! 」

 セシルの号令で、彼の部下である騎士達は一斉に敬礼した。
 いつの間にか日も暮れている。騎士達はバラバラと兵舎へ帰って行き、しばし自分の時間を楽しむ。
 アベルはふうと息をつき、兜を脱いだ。ハニーブロンドの緩い癖毛が、結わえたはずの紐と共にふわりと落ちてくる。アベルは髪紐を取り、肩につくかどうかの髪を一つに括り直した。そして、また一つため息をつく。すると後ろから誰かにぽんと肩を叩かれた。

「お前が努力しているのはみんな知ってるぜ。隊長だってそうさ」
「うん……ありがとう」

 がっくりと肩を落とすアベルを、同僚の兵士が慰めた。するともう一人、別の兵士もやってきた。

「毎日遅くまで訓練場に籠もってトレーニングしてるんだろ? そのうち成果がでるぜ、きっと」

 だから落ち込むな、と言って同僚達は結わえ直したアベルの頭をわしわしと撫で回した。

「わっ。せっかく直したのに! 」
「堅いこというなよ。男だろ」

 アベルは同僚たちとじゃれ合いながら、訓練場を後にした。


 その夜。王との謁見を終えたセシルは兵舎の近くを歩いていた。彼は暗く思い詰めた表情をして、その足取りは重い。セシルは隊に新しい任務が入り、命令を受けて来たところだ。だが、それは彼の意に大いに反する内容だった。
 バロン王の命令は、「ミシディアという魔導師の里へ遠征し、ミシディアのクリスタルを強奪する事」である。また、「その際抵抗したミシディア人の生死は一切問わぬ」ということだった。
 如何に飛空挺団の隊長と言えど、セシルとてただの一兵卒である。セシルに王への拒否権などある訳が無い。だが、彼はこんなにも残酷な命令を平気で受け入れられる人物ではなかった。

 バロン王が求めるクリスタルは、世界各地で奉られている大きな石だ。それぞれ不思議な力を秘めていて、美しく輝く貴重なものだという。それを保有する国や地域では、一番の宝とされている。クリスタルのないバロン王国の者でも、その程度のことは知識として知っている。
 また出立も急だ。バロン城下では翌々日に祭りが開かれることになっているが、それが終われば出立することに決まった。十分に苦悩する暇すら与えられない。セシルは深くため息をついた。

 セシルは、彼が日頃身に纏っている暗黒の剣や鎧とは、およそ懸け離れた人物だ。時に禍々しいとさえ噂されるのは慣れっこになってしまったが、そのギャップこそが彼の悩みを一層深くしている。

「陛下はどうされたのだろう……以前はこんな命令を下す人物ではなかったのに」

 セシルは足を止め、ぽっかり浮かんだ二つの月を見上げた。暗闇に溶かすようにひとりごちる。
 もしもこんなことを人に聞かれては、王への不敬と見なされるだろう。とはいえ、この任務を部下達に何と説明するべきだろうと頭を抱えた。

 セシルは悩みながらまた歩き初め、訓練場の前に差し掛かった。すっかり夜も更けていたが、まだ明かりがついている。

(ああ、アベルかな……彼は熱心だな)

 そう思いながらセシルは訓練場を覗いた。思った通り、アベルが素振りをしている。
 剣を一心不乱に振るい続けるアベルに、セシルは視線を吸い寄せられるようにしてじっと見ていた。すると、アベルはすぐにセシルのに気付き、手を止めた。

「隊長……! 」
「すまない、邪魔したかな? 」
「いえ、そんなことは」

 済まなさそうな顔のセシルに、アベルは慌てて首を横に振った。汗がアベルのこめかみを伝う。

「熱心なのは関心だ。けれど、無理はするな」
「はい……けれど、わたしだって騎士です。このままでは……」

 アベルはうなだれた。昼間の試合が精神的に堪えている。

「アベル。君の努力は分かっているんだ。焦る気持ちも分かるけれど、今日はもう休め。身体を壊すぞ」

 ほら、とセシルはアベルの肩に手をおいた。顔をあげたアベルは「はい」と返事して、申し訳なさそうな顔をした。

 自室に帰ったアベルは、持っていた剣を壁に立てかけて、明かりをつけた。
 二人用の相部屋だが、同室の兵士は里帰りのために一週間ほど留守にしていたことを思い出す。

「ふう。しばらくは気が楽だな……」

 アベルはしっかりとドアを施錠し、カーテンを閉めた。髪を解き、湯で絞った手ぬぐいで頭をごしごしと擦る。着ていた服も全て脱ぎ捨てた。胸元にきつく巻いたサラシも取り払うと、男には存在しないはずの膨らみがきゅくつそうに顔を出す。
 手拭いで体中の汚れをきれいに拭き取ると、アベルはそのままごろんとベッドへ転がった。普段はなかなか味わうことのない開放感を、しばしの間堪能する。

 アベルは枕元の引き出しから小さな手鏡を引っ張り出した。持ち手に小さく、すり切れそうな字で「アン」と彫られている。
 手鏡はアベルの母と祖母の形見で、アンという名前はアベルが祖母から受け継いだ本当の名前だ。ちなみに、持ち手の名前は祖母が手にした時に彫られたらしい。
 アベル、もといアンは鏡をのぞき込む。自分の淡い緑色の瞳が映った。くりっとした目元は子供の頃から変わらない。
 赤い翼に入隊してから5年あまり。もともと中性的な顔立ちだったが、18の娘にしては精悍になった。
 本来、赤い翼は女性を受け入れない。アンは性別を偽って入隊していた。
 目標だった騎士にはなれたものの、兵舎で集団生活をしていると、こうして本当の自分でいられることはまずなかった。

「早く出世しなきゃなあ。一人部屋が欲しい」

 アンは大きなひとりごとを言い、うんと伸びをした。隣の部屋からは誰かのいびきが僅かに響いてくる。こうしてバロンの世は更けていった。

20171015

ヒロインを黒魔導師にしようか、とかいろいろ考えましたが、騎士になりました。
子供のころ大好きだった超有名な手塚作品のひとつに多分に影響されてます。さすがに王子様じゃないけど、騎士は捨てがたかった。
騎士なのにちょっとだけ魔法が使えるのが今後の展開のキーポイントだったりします。それについては4の世界観を地味に覆してる気がしないでもないけど……。




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