2 黒髪の乙女
バロンの城下街はいつになく活気で溢れていた。今日は収穫祭だ。
近頃の王の横暴さは日に日に目に余るようになり、国民を苦しめ続けている。最近も税金をつり上げられたばかりだ。
理不尽な振る舞いに表立って反発もできず、国民の不満と不振はどんどん膨らむ一方だ。そして、それを取り締まる兵士たちの不人気も留まることを知らない。もちろんセシルも例外なく嫌われており、またその暗黒騎士たる鎧の視覚効果も相まって相当恐れられてもいた。
とはいえ、一年に一度のこの祭りは国民の誰もが楽しみにしている。日頃のウサを晴らすかのように、人々は伸び伸びと振る舞う。クライマックスを迎える舞台のように、街中が沸き立つような熱気に包まれていた。
ただし、騎士たちは浮かれてばかりもいられない。セシル率いる赤い翼はもちろん、大半の騎士たちが街の警備に動員されている。街の人に余計なお世話だと陰口を叩かれても、彼らは黙々と仕事をする。
「よし、ではB隊は街の入り口付近を頼む。C隊は広場へ」
「は! 」
てきぱきと指示を出していくセシルに、隊員たちは小気味よく返事し敬礼を返す。
かつて赤い翼は、バロン独特の角の付いた鎧やぴりっとした敬礼が格好よく、特に街の小さな男の子たちにはちょっとした人気があった。しかし、それもだんだん陰を潜めつつある。町の人の多くは、王や兵士たちを決して良く思っていない。それは王が変貌してから始まり、どんどん酷くなる一方だった。
祭りのせいで、特にギャラリーが多い。残念ながら、決して心地よい視線ばかりではない。アベルはいつもとは違う緊張感に、気を引き締めた。
「アベルとビッグスは私服で来ているな」
「は! 」
名前を呼ばれると更に緊張感が増した。だが反面、一本筋が通ったような心地よさも伴う。「さあ、仕事だ」という気になり、気持ちにハリが出る。だからアベルはこの瞬間が好きだ。
「君たちは街の巡回を頼む。祭りは今日で最終日だ。気を抜くな」
アベルは気を引き締めるように張り切って返事し、セシルに敬礼した。
今日のアベルの任務は、所謂私服警官のような役目だ。一般市民に紛れながら警備にあたり、できれば犯罪を未然に防げれば万々歳である。
以前なら市民も兵達の警備に協力的だったが、昨今は言うまでもない。どんなに誠心誠意尽くそうとしても、ハナから受け入れられないことすらある。そのため、兵士の鎧では不都合が出ることもあると考慮してのことだった。
一通り指示を聞き終わると、アベルは同僚のビッグスと並んで街を歩き始めた。
「どうせなら女の子と歩きたかったなー。祭りなんだぜ」
「そう言うなよ。仕事なんだから」
実は女の子なんだけど、とは言えないアベルは心の中で苦笑した。
「まじめだなあ。お前は」
「お前が不真面目なだけだ──あ、見ろ! あれ!」
アベルが指さした先は、まさに万引き現場の真っ最中だった。道具屋の女将が大声で何か叫んでいる。
二人は走り出した。犯人は一人。路地裏も使って挟み撃ちにし、すぐに捕まえた。あとは待機している兵達に引き渡せばよい。
再び巡回に戻ろうとした時、アベルは人の波に押されてビッグスとはぐれてしまった。小柄なアベルには、進行方向がどちらだったかもわからない。すっかり人混みに押され、なすがままに流されざるを得なかった。
人混みをやっとの思いで抜けた時、アベルは既に仮装行列の一団に囲まれていた。ドラキュラの格好をした初老の男性が、アベルに近づいてこう言った。
「おや、坊主。まだそんな格好してるのか」
「え? いや、わたしは……」
アベルは仮装行列の参加者だと思われているらしい。慌てて否定しようとしたが、彼は聞く耳を持たない。こういう時は鎧を着ていた方が良かったとアベルは思うが、今更どうしようもない。そこへマイラ男もやって来た。
「なんでもいいから着せちまえ」
「こんなのがあったぞ」などといいながら、ドラキュラとミイラがアベルを取り囲む。さらに現れた猫娘に、アベルは足首まであるピンク色のドレスを服の上から着せられた。アベルはすっかり圧倒されて身動きが取れない。
今度は雪女が化粧品を取り出して、勝手にアベルの顔に塗り始めた。「いいぞ! やれやれ! 」などとはやし立てられながら、どこからか現れた艶やかな黒いロングストレートのカツラを被せられる。
アベルはあっと言う間に別人のように変身してしまった。そして、そのまま行列が出発し、アベルは有無を言わさず引きずられていく。アベルは仕方なく行列と一緒に歩いた。
「しぶしぶ」着せられたとはいえ、アベルの気分は良かった。ドレスアップするなんて一体何年ぶりだろう。アベルは心が浮き立つのを押さえられない。事故とはいえ任務を放り出しているのは気になるが、本音は嬉しさが勝ってしまっている。
やがて街の広場に着くとゴールだと言われ、行列は解散する。そのまま放り出されてしまったが、ドレスを着たままではリーガンを探すこともできない。アベルは行き場をなくし、途方にくれた。
アベルはどうしたものかとその場で立ち尽くしていると、誰かとぶつかった。
「ひゃあっ」
アベルは倒れそうになって驚き、思わず間抜けな声が出た。
形はしっかり女だが、もはや色気のイの字もない。なす術もなく、アベルの身体はみるみる傾いてゆく。
「すまない、大丈夫かい? 」
しっかりと抱き止められると同時にアベルが声のする方を見上げると、目の前にセシルがいた。彼は様子を伺うためにマスクを兜の上へスライドさせる。
倒れかけていたアベル#の身体は、セシルによって見事に支えられていた。そして、その安定感は抜群だ。自分がセシルの立場だったら、きっとこんなにもしっかり受け止められなかっただろう。
アベルがふと我に帰ると、セシルの心配そうな薄い紫色の瞳が間近に迫っている。二人の目が合った。
時間にして、ほんの数秒だった。だが、アベルの周りの喧噪も景色も全て消え失せ、時間が止まったような気さえした。アベルはこの瞬間、意図せずアンに戻っていた。不覚にもときめいてしまったのだ。
一方、セシルも俄に頬を染めていた。彼には珍しく、少し動揺している。そして、その実それを悟られまいと必死で平常を装っていた。
セシルはじっと動かないアンを心配そうに見ている。けれど、それが実はアベルだとは気付かない。彼の中でアベルは男なのだから、無理もないことだった。
「立てるかい? 」
「あ……は、はい……」
アンが体勢を立て直すと、またセシルと目が合った。けれど、アンはどんな顔をして良いかわからない。照れと恥ずかしさで思わず俯いてしまった。
セシルが何か言おうと口を開く。しかし、言葉になる前に横槍が入った。
「隊長! 報告します! 先ほどの迷子の件ですが……」
B隊のリーダーが駆けてきた。セシルも彼の方へ向き直り、まだ少し赤い頬をごまかすようにマスクをつける。
その隙にアンは逃げてしまった。どうしようもなく気恥ずかしく、どう振る舞うべきかわからなくなってしまったのだ。
人混みを利用すれば逃げるのは簡単だった。セシルもすぐにアンがいなくなったことに気付いたが、そのせいであっさりと見失ってしまった。
一通り部下から報告を聞き指示を出すと、セシルはため息をついた。
「怖がらせてしまっただろうか……」
セシルはしばらくの間、アンの消えた方向を見ていた。一抹の寂しさを覚え、彼はその事にまた動揺した。
セシルが街の人に恐れられるのは今に始まったことではない。だが、今回は自分でも意外なほどそれが苦しかった。彼女には嫌われたくないと、そしてまたいずれ会えたらと願った。
20171016
いろいろでっち上げてます
次からいよい夜本編に入ります
20171020
エラいこと思い出した!
街の人は城の人のこととか特にセシルのこと疎んじてたの忘れてた!ぎゃあ!
と、いうことで方向転換しました
ごめんなさい……
これで世界観治ったでしょうか
お、おれは しょうきに……もどった……
D+S FF-D New!夢物語
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