『私にとっての』(ヒプノシスマイク:一二三夢)


私にとっての幸せは誰かに私が女の子だってみてもらうことだった

「大丈夫ですか?」

車を居酒屋の目の前にとめて声をかける。目の下にくまがたえない青年と派手な髪色の青年とロングヘアでめちゃめちゃ酔ってる男性

「本当にすみません、迎えにきてもらっちゃって。」

「別に大丈夫、お祝い事の後なのに事故が起きるよりましじゃあないですか。独歩さん。遠慮せずに乗っちゃってください。」

「ありがとうーなまえさん!」

「いえいえ、一二三さん。」

後部座席に乗り込む三人。ドアが閉まったのをみてわたしはアクセルを踏んだ。ドアミラーから見える表情と談笑の声をききながら私は楽しそうだなぁと思っていた

「行き先は?」

「俺んち…。」

「わかりました、一二三さんのお家まで送ります。酔っちゃってるから、私がいるのにけっこう素が出ちゃってるんですかね。」

赤信号をみながらそう言った。当の本人には聞こえてない

「そうかもしれないですね。」

「その方がいいですよね、意識がはっきりしてたら冷めちゃいますもん。一二三さんのお家で多分この後も飲まれるんでしょう?」

「でも先生も一二三も寝てるしな…。」

ドアミラーを見ると起きているのは独歩さんだけだった。相当居酒屋で飲んでいたのか

「あっ、独歩さんに頼みたいことがあって…飲まれるかはわからないんですけど摩天楼の勝利のお祝いにお酒贈らせて欲しいなぁって。後ろにあるお酒持っていってほしいんです。」

「えっ!?こんなたくさん…。」

「お祝いですから。」

お酒のことはよくわからない。大人の人が好きそうなお酒を兄にきいて選んだ。味の良し悪しもわからないし…気持ちの形なのだ。要するに

「あの、なまえさん。」

「何ですか?」

信号に引っかかる。静かな夜の街を照らすライトがなんだか今日だけはいつもと違って見えた。こうやって彼らを送るのは今日だけじゃないはずなのに

「一二三のことは…『一二三さんのことすきですよ。』」

遮るように答えた

「なら、どうしてそんな一二三から遠ざかっていくみたいに…前よりも。俺が口だすことじゃあないってわかります。俺も一二三も先生もなまえさんに助けられてて…一二三なんかきいたら…店の前に女の子達が待ってたときも颯爽と連れ出してくれたって。」

「ありましたね、あの時けっこう勇気いるなって思ったんですけど。あっ青だ。」

アクセルを踏む。そんなに長くないはずなのにいつもの道が長く感じた

「多分、言ってもないしわからないんですけど…この恋は叶いませんね。いや好きってだけで恋いっていいのかわからないですけど。初恋は実らないじゃあないですか。恋以外に当てはめかたが思い付かないのでそう言ってるだけで…本当はそうじゃないと思います。」

初恋は実らない。よくある迷信だ。私の想いはそれでいいのかどうかわからないが家族や友人以外を好きな気持ちの当てはめかたを私は恋と呼ぶことしかしらない。23になったっていままで仕事漬けでいて恋なんて縁もなかった

「私の幸せは私が女の子って呼んでもらえたことだった。一二三さんが女の子扱いしてくれただけで良かった。それだけで私は救われた。」

「その話少しなまえさんから聞いた気がします。確か一二三が女性恐怖症だったことを知らずにグイグイお礼を言ったときでしたっけ。」

「そうそう!その時に独歩さんから一二三さんのこときいて申し訳ないことしちゃったなぁって。」


「どんな一二三さんでも一二三なんですけどね。私にそうしてくれた人には変わりなかった。」

重すぎるだろうか。でも警官勤めで中々きつい仕事も徹夜もして国のために働いてきたけど環境に耐えれなくて、仕事には必要ないかもしれないが…女性として女の子として誉める言葉も欲しいとワガママに思ってしまったのだ。それをくれたのが一二三さんで、お客のように扱かっただけだろうけどそれでよかった

こんな世の中で信じられるものは大人になるほど少ない。警官という職業は人々の幸せを守ってる。兄のように私も警官になった。信じていた職業の夢はそんなに甘くはなくて、誰かを思う希望だけじゃ生きていけるほど私は強くはなかった。明日への希望、美味しいご飯とかお休みの日丸々寝ることとかそういうのでは満ち足りない。人によって幸せなんて信じられるものなんて違うと思う

女の子扱いしてもらったのは身内が最後だった

『お困りで、プリンセス?』

単純かもしれないけれど、道に困ってた私に休憩時間をつかって優しく教えてくれただけで…女の子としてみてもらえた

「信じられるものなんてこんな世の中たくさんありません。憧れてた職業も自分から辞めちゃって、それで残ったものなんて夢も希望もないじゃないですか。まだ時間はあるから新しい夢と希望も探せるけれど…」

時間はある。死ぬまであるのだ

「この思い出を糧に私この先も途方もない時間を過ごしていけるって、信じられるって。信じられる思い出を貰いました。幸せを貰いました、一二三さんから。こんな話きいたら重い女って思われても仕方ないよなぁ。」

「だから、やっぱり幸せを貰った分笑ってて欲しいじゃないですか。あまりにも甘い幻想でそんなこと許されなくなる日がきても構わない。
密かに思うだけで私の一方通行な満たされる思いで。あっ、でも独歩さんに聞かれちゃったら密かでも秘密でもなんでもないですね。」

「言いません。」

「ありがとうございます。」

車をとめる

「あれ、もしかしてもうついた感じ?」

「…お前寝てたからな。」

「着きました〜。車で寝てたから体痛いでしょう、お家に帰ってゆっくりしてください。」

後部座席のドアを運転席のスイッチを押して開けた。先生も冷たい風で起きたのだろう

「あっ、待ってください!!」

忘れるところだった。急いで外にでる。後ろにつんであるお酒を渡すのを忘れたらいつ渡せるか

「お祝いです…おめでとうございます!」

「えっ、こんなにもらっていいの〜!独歩、みてみてすごくね???」

そういって一二三さんは笑って渡したお酒を見ている

「ありがとう、なまえさん。」

笑っていてくれるだけで、それだけで私は幸せを貰える









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