優しい思い出


「かわいいお嬢ちゃん達だね、お母さんに頼まれてお使い?」
水色の髪をした耳が生えているかわいらしい少女と深い緑の髪のぬいぐるみを持っている少女だ。パン屋を営んで何年か経ったが子供がお使いになんて訪れることは珍しいことじゃない
「ううん、ちがうよ。コーちゃんはねソーくんにおつかいたのまれたの!」
「うん、おにいたんにたのまれたの…。ジズ、パンをかってきてってたのまれて。」
「そっか、二人とも偉いね。それでどんなパン買ってきてって言われた?」
きょとんとなる二人。もしかして忘れてしまったのだろうか。よくあるあるだが
「どうしたの?」
「ソーくんはね、たぶんしかくのパンっていってたとおもう。あっでもジズちゃんがメモもってる!」
「えっと………あれ…ない。」
メモを無くしてしまったのか…手に持ってた隙に道端に落としちゃったにしろ落としてきたものは仕方ないし。今にもちょっと泣き出しそうな少女に目線を合わせるためにしゃかんだ
「大丈夫、お姉さんはパン屋の店長なのでメモが無くても君たちの欲しいものがわかるのです!」
「ほんとに……?」
「うん、本当。お姉さんずっとパンと一緒なんだから。」
「スゴい〜!ソーくんもパンとずっといっしょにいたことないよ!」
間違ったものを買ってもきっとこの二人のお兄ちゃん達は怒らないんだろうけどな。お使いはでもこの二人が買ってきたっていう達成感が大事だろう
「じゃあ、二人の覚えてるパンの形とか教えてください〜」
「えーとながいパン。でこぼこがあったよ。」
「フランスパンだね〜。」
かごにトングを使っていれることを教えると片方がトングを持って片方がトレーをもつ
仲のいい二人だな。とてもかわいらしいなぁとそしてその小さな背中に懐かしさもあった。初対面の店員とお客同士なのにね
「一つで足りるかな?」
「ソーくんのほかにもいっぱいいるから…」
家族が多いのだろうか。兄と妹二人なら両親とで五人家族?でも兄妹が多い可能性もあるし…
「何人くらいそのお兄ちゃん以外に家族はいるの?」
「それってジズちゃんガーくんとかのことかな?」
「そうだとおもう。えっと…おにいたんに…コルソンちゃんに―」
指で数えていく少女をみて両手を使いきったあと驚いた。そんなに大家族だったんだ。なら彼女達のような小さな子におつかいを頼むのもただ成長のためにではなく人手が足りないからかもしれない
「そうだね〜、6本くらい買っていったらいいんじゃないかな?」
「「わかった!」」
その後も彼女達が答えたパンの形をきいてこれじゃないかなと答える。かごに入りきりなさそうなので、二つ目を用意する。普通なら二人にかかりきりなわけにはいかないけれど今日のこの時間帯は人も少ないので全然大丈夫だ。何よりさっき感じたように懐かしさを感じる。目が離せなかった。心配だからではなく、世話したいというか……母性?それは違うよな…
「これで全部?」
「そうだよ!」
「うん!」
「わかりました〜お会計するね。」
レジに持っていった積み上げられたパンを見て多い……と思った。こんな積み上げられたパン初めてみた気がする
そこで初めておつかいの心配事項を思い出すのだがお金のほうは大丈夫だろうか
「あのね、これでだいじょうぶかな?」
全然余裕で足りていた。大家族の上にお金ちなのかな…?心配することはなかったのだ
「うん、大丈夫だよ!お疲れ様でした、はいどうぞ。」
「やった〜!これでおつかいできたよ!ソーくんよろのぶかな!」
「おにいたんきっとよろこぶよ〜。」
でも、当然二人の腕では抱えきれない量だった。そりゃこんな山積みのパン持っていけないよな……
「んじゃあね、こうしよう!お店からのサービスです。好きなパン選んでいいよ。」
彼女達がパンを選んでいる間に店じまいの準備でもして彼女達の家までパンを運ぼうと思った。お節介がすぎるけれど…
「ジズこれにするー!」
「コーちゃんはこれ!」
「ここで食べていいよ。お水でいいかな?」
ありがとうという声にいただきますの声。かわいいらしいなという気持ちとまた懐かしさがこみ上げてくる。いったいどこからやって来たんだろうなんて思いながら店じまいの準備をしようとする
カラン
ドアが開いた音がした。閉店ではないが遅い時間にくるなんて珍しい
「あー!ほら、言ったでしょ、マルマル!二人がここに入ってくのみたって!」
「いやお前のいうことは信じられない!」
「確かに……。」
「いらっしゃいませ〜!」
三人組が店に入ってきた。視線のほうが彼女達二人に向いているので兄妹だろう
「彼女達ちゃんとおつかいこなしましたから大丈夫ですよ。お二人のお兄さん達ですよね?」
「いや…その。」
「えー、そんなことないでしょ?まぁ三人ともよかったら座りませんか。疲れてそうですし」
「お誘いは嬉しいが…」
「このドーナツ美味しそう!!」
「そこのドーナツサービスにつけときますし」
「いやでもそれは……」
「いいじゃん、いいじゃん!バルバルもマルマルも座った、座った〜!」
「ちょっとは遠慮くらいしろ!」
「気にしないでいいんですよ、店長の私からのサービスです。こんなに彼女達が買ってくれてるので赤字もなにもないですし…」
水を三人にだした。容姿は似てないが友達やそれ以上にこう強い繋がりを感じるのでやっぱり家族じゃないかなと思ってしまう
「このパン美味しい〜!」
「よかった、そう言ってもらえると作った甲斐があるね。」
「ジズこのパン好き〜!おねえさん、ありがとう!」
「ガーくんにもおねえさんのつくったパンいっしょにたべたいな。」
思い出した
『お姉ちゃんのつくったパン美味しい〜!!』
『お姉ちゃんのパンお母さんと一緒に食べたいね!あっ、お姉ちゃんもお父さんもみんな!』
「おねえさん…ジズわるいこといっちゃった…?」
口にしょっぱい水のあじがする。私は泣いているんだ
「ううん、違うの。嬉しいよ、ありがとうって言われることは嬉しいから。」
「マルマルが怖い顔してドーナツ食べてるから?」
「勝手に俺のせいにするな!」
「君のせいでもないよ…」
「妹が二人いたんです。」
私には二人の妹がいた。かわいい妹、お姉ちゃんとよんでくれる妹。共働きの両親の代わりにずっと面倒みていた
話すと長くなるからかいつまんで話すと両親が別の街に移動するといって荷馬車に乗った。家族全員で…そしてその日私だけが生き残ってしまった。両親も妹達も死んでしまって
「荷馬車に乗って…族に襲われたのかい?」
「いいえ、違います。魔物に……今じゃ幻獣っていうんでしたっけ?それほど裕福でなかったうちの家は最短距離で移動できる荷馬車を使ったんです……でもその道は幻獣のでる森を通る道だった。」
両親は妹達を引っ張って走って逃げた。でもその目の前には幻獣がいて後ろにいた私はすぐさま隠れて逃げたんです。そのあと自警団に保護されました
「……。」
「生きてた頃の二人は彼女達みたいな年だったの。ごめんねぇ……勝手に重ねちゃって。生きてたらもしかしたらあなた達みたいな学生にもなってたかもしれない、なのに………」
全部が全部重なる。もう二度とみれない者達と重ねてしまう。懐かしさを感じたのは勝手に重ねてたからだ。それにあとから来た女の子と黒髪の男の子に成長したらあんなふうになってたのかなって……
「あなた達は悪くないの………本当にごめんなさい。まさか自分でも泣いてるだなんて……信じられなくて。」
「これあげる!」
「えっ??」
「ジズもこれ…!」
小さな手から手渡されたのは綺麗な石だった。子供が川で拾ってくるような
「おねえさん…ジズがはじめてあったとき寂しそうなかおしてた。だからげんきだして…あのねジズふえひけるよ。れんしゅうちゅうだけど。」
「コーちゃんいまあげれるのこれしかないけど…ソーくんがジーちゃんとかにプレゼントあげるとよろんでくれるから。おねえさんもよろこぶかなって。」
「ありがとう、二人とも……。」
そのかわいいらしくて優しい気遣いが傷ついた心を癒してくれた


「ごめんなさい、本当にすみません!!お客さんなのに…」
「いやいや、構わないよ。結局俺達は話を聞いていただけで、君の心を癒したのは二人だからね。」
「うんうん、そうそう!」
「お前もなんもしてないのに誇らしげに言うな…」
かわいらしい少女二人組と変わった三人組はその後店を訪れることはなかった。なんとなく会わないだろうなという気はしてたのだけど…
残ったものはあの綺麗な石しかないがそれでも構わなかった。この石をみるとほんの短い間の私のパン屋にきた少女二人組を思い出すことができるのだから














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