月渡りへ
「夢だったらいいのに」
ベッドに横たわり、音楽プレイヤーで曲を聞きながら、瞼が閉じるのを待っている。どうしようもなくて、日が昇れば、現実に引き戻される毎日に生きていた。それは前の世界でも、今でも一緒だ。
「うぅ……朝」
今日は、大事な日だ。布団からなんとか這い出す。鏡をみれば、酷く疲れた自分が映っていた。寝れなかったんだろうか、それはいつものことだけど。楽しみにしていることもあるし、それ以上に不安もあるから、やっぱり寝れないのだ。
ハンガーにかけているワイシャツに袖を通す、当たり前のように制服を着る。長い黒髪を縦に巻いていき、血色が悪い唇をごまかすように、口紅を塗った。
時計をみれば時間はない、時間が無くても朝ごはんを食べる気にはならなかった。小さめのキャリーバッグを手にして、玄関に置いているパンプスを履いていく。
「あのぅ、エマさんでお間違いありませんかぁ??」
ボブヘアで、明るめ茶髪の女性は、声をかけると振り向いてくれた。1年前に出会った時と彼女は変わらない
「はい、間違いないです。もしかして、貴方がランヌさんの言ってたハルヨさんかな」
「えぇ、ハルヨと申します。今日からよろしくお願いしますぅ。ランヌさんからお伺いしているかもしれませんが、いくつか書類をお預かりしています。あと、お手紙もですわぁ。お受け取りくださいませ」
鞄から渡すように、と言われていた書類と手紙を手渡す。彼女は軽く書類に目を通した。
「ありがとう。事前に聞いてるかもしれないけれど、私は複数のギルドのギルドキーパーをしています。最初に一緒に仕事してもらうのは世界探索ギルドの月渡りです。これからギルドホームに行くから、そこで挨拶するよ」
「わかりましたぁ、さすがお姉様。丁寧な説明で、わかりやすいです」
「お姉様…??」
「エマさんが、私がギルドキーパーを目指すきっかけでした。だから……、ご迷惑でなければ尊敬だったり、敬愛の意味合いで、お呼びさせていただけたらと」
つい、うっかりで、私が勝手にそう呼んでいた癖が出てしまった。私が覚えていても、本人が覚えているとは限らない。それでも、私の中では彼女がくれたきっかけで、今こうして立っている。感謝している相手で、憧れの人だったから、今日、こうして会えるのも楽しみだった。
「そうなんだ、嬉しい!!全然構わないよ、ちょっと、妹ができたみたいな気分だなぁ……。ハルヨちゃんって呼んでも大丈夫??」
「とても、とても、嬉しいですわぁ。えぇ、仲よくしていただけて、本当に嬉しい」
そうして、歩きながら話していると目的地につき、足を止める。世界探索ギルドと聞いていたから、てっきり、しっかりとした建物をイメージしていた。目の前にあるギルドホームは一軒家のようで、1つの家族が暮らしているような場所だった
「こちらに、あの世界探索ギルドの方が居るのですか……??」
「うん、そうだよ。緊張しなくても大丈夫、みんなとも仲よくなれると思う」
仲よく、その言葉を何度か思い浮かべる。気を取り直そうとして自分の手を見た。少しだけ汗ばむ手をハンカチで拭う。体は正直である、本当にそうなのかはわからないけど。案内されるまま、扉を開けた先に足を踏み入れた。
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