掌のうえで踊りましょう







act 1.


 ゆっくり時間をかけて脱がし合う、なんて情緒的な行為はできなかった。各々服を脱ぎ落とし、下着だけを纏った状態になった。
 たるんでしまった包帯が煩わしくて、解いていれば背中に轟の温もりを感じた。

「これだけ外すから」
「ん、悪さはしねぇから。くっ付いてるだけならいいだろ」

 濡れた包帯は肌にへばりついて不快だ。腰に腕をまわし、身体を抱き込んできた轟に応えてあげたい気持ちもあったが、はじまってしまえばタイミングを失う。包帯だけ外したいから待ってくれと伝えれば、抱擁がわずかに弛められた。
 離れてくれと言われるのを見越してなのか、悪さはしないと宣言した轟は、ただ戯れつくように私の首筋に鼻先を擦り付けていた。

「悪りぃ、痛むか?」
「喉? 少し違和感はあるけど、痛くはない」

 喉元に指がそえられた感触に、自然と肩が跳ねた。つい先刻、首を絞められていたのだから仕方がない。私の反応をみて、轟は苦しげに顔を歪めた。
 
「怖かったよな」
「私が抵抗しようとしたからだし……それに、無駄な戦闘を避けるために相手の思考を鈍らせるのは正しい判断でしょう」
「でも苦しかっただろ」

 轟の判断は正しかった。被害を最小限に、個性を乱発している者を捕らえるには意識を奪うのが最善の策だ。私の身体を案じてくれていたからこその行動だったのは理解している為、責めるつもりはない。しかし彼は自分自身を責めずにはいられないようだ。

「ここだって」
「手当てが大袈裟だっただけで、大したことないから」
「火傷って小さくてもすげぇ痛いから」

 包帯を外したことで露になった二の腕は、一部皮膚が色が変わっていた。今朝の爆発で負った傷だ。ヒーロースーツの特殊素材に守られていた為、傷の具合はそれほどまで酷いものではない。
 痛みはするものの我慢できないほどではないのだ。そう思って伝えたが、轟は喉を締め付けられたような掠れた声で「悪りぃ」と続けた。
 そうだ。彼はこの焼けた肌の奥で疼く痛みを知っているのだ。

「痛くないって、それは嘘。痛いよね」
「……うん」

 腕の中で身体を反転させ、轟の頬に触れる。未だに彼の顔半分に存在感を残す熱傷。どれほどの痛みだったのか、私には想像もつかない。その痛みに向き合ってきた彼の前で大したことがないと否定してしまうことは、彼の痛みも否定してしまうようだ。
 幼い子どものような口調で同意した轟の髪の毛をかきあげ、ざらついた肌に口づけを落とす。はじめて心の柔い部分に触れられたような心地がした。

「さっき」
「ん?」
「痛かったって言ったけど……でも、それだけじゃなかったって言ったら?」

 私の言葉の続きを待っている轟の手を掴み、自分の胸元へと導く。彼の手のひらに押し当てれば、胸はぐにゃりと形を変えた。

「……薄々感じていたんだが、ナマエってそういうの好きなのか?」

 そういうの、と言葉を濁したが、恐らく被虐趣味があるのかと聞きたかったのだろう。痛みに快感を感じるかと言われれば、それは違う。ヒーロー活動の中で負傷することもあるが、それに対して特別な感情は湧き起こらない。
 轟だからだ。彼が必死に求めてくるから。ほかの人には見せないようなギラついた瞳を向けてくるから。そのような姿を見ていると、不思議と満たされるのだ。

「轟だからだよ」
「殺し文句だな」

 ナマエだけだ、なんてリップサービスをしてくれた轟へのお返しだ。濁すことなく結論を伝えれば、轟は目許を手のひらで覆い、唸るような声をあげた。
 空気が変わったのを肌で感じた。目許を覆っていた手の隙間から、熱のこもった瞳が覗いた。腕がこちらへと伸びてきて、私の肩を押した。
 
「……嫌なら突き飛ばしてくれ。じゃないと、もう止まってやれねぇと思う」

 シーツの上に広がった髪をさけるようにして、轟の手が顔の両側におかれた。あつい息が肌を撫でた。
 私を押し倒した轟は、余裕を感じられない掠れ声で、この期に及んで私の意志を確認してきた。嫌じゃない、と彼の望む答えを返してやってもいいと思ったが、それ以上に彼の余裕を全て奪ってしまいたいという衝動に駆られた。
 首裏に腕をまわして、抱き寄せる。これで十分だろう。止まる必要がどこにある。

「好きだから」

 止まらないで──そう続けようとした私の声を、轟は唇を重ねることで奪っていった。


 昂められた身体は、すこしの刺激で悦びに打ち震える。腹の奥は甘い疼きをおぼえ、受け入れる準備はできていることを訴えている。
 早く、早く、と何度も急かして、ようやく繋がる。と思ったのだが。

「ゴム……」

 またそれかと思う。たった0.01ミリの厚みが遮ろうとする。眉を寄せ、耐えるような表情をしているくせに轟は理性を放ってはくれない。

「しなくていい」
「好きだから、ちゃんとしてぇ」

 あれ程までに虚しさを感じさせた行為も、心が繋がるだけでこうも満たしてくれるとは。破らないようにと丁寧に取り付け、律儀に「いれるぞ」と確認してくる。頷けば、ゆっくりと身体のナカをかき分けるようにして進められる。
 きっと今ならば、奥に放たれることなく、先端の液だめに溜まった乳白色をみて、愛おしく思えるはずだ。




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