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 私は命を奪ったことは無いけれど、そこにある心を奪って人の気力を奪う。

「無駄な殺しをしなくて済むのはいいけどよォ〜、おまえのそれって死ぬのより地獄だよな。」

 よくミスタさんに言われるけれど、相手は酷いことをしてきた人間なわけで……即死させて一瞬で全てを奪うだなんていうのは生温い気がしてならない。最初はそりゃあ抵抗だってあった。でも相手は悪党だし私だって一応悪党だし、自分が壊した幸せを知って欲しくてそれを見せる。ミスタさんの手を汚さないように守りたいと思うけれど、でも大体これはその場しのぎでしかなくて。情報を吐いたら大体消されているらしいから私がしているこれはあまり意味が無いのかもしれない。

「このシマで麻薬に手を伸ばしたならそういう覚悟もあるだろうし、容赦はしなくていいってウーゴが言ってました。」

 一応確認のつもりでウーゴには訊いた。ブチャラティだったら消すよりもそういう手段を選ぼうとするって。ジョルノが受け継いだブチャラティの意志を反映させるならそのくらいのことはしてもいいって……まぁ手段を選ばないのがギャングだから理屈的には問題ないって大雑把にまとめていた。

「そこは普通ジョルノに確認しねーの?」
「あの人結構過保護だから言えないですね……」
「いや、フーゴの方が過保護だろ。あいつこの前おまえに馴れ馴れしくすんなって言ってたじゃん。」

 ジョルノには言いづらい。でもウーゴになら言える。それにウーゴに言っておけば嫌でもジョルノに伝わってしまうと思うし、ジョルノに言ってもウーゴに伝わってしまうと思う。それだったら話しやすい方に言った方がいいかなってなった結果、ウーゴに話をした。
 ウーゴが過保護……か。それは見に染みるほどよく分かっているつもりだ。
 ちょっと怪我をすれば包帯を巻かれるし、夜に仕事ってなったら何度も安否確認の電話をミスタさんに入れてくる。最近は煩いくらいに男性との距離の取り方について言ってくるし、ミスタさんがわざとらしく私と肩を組んだらめちゃくちゃ睨んでいたり……何でこんな心配をされているのか分からない。急にウーゴは豹変をしてしまったみたい。

「私ってそんなに頼りないんですかね……」

 任務で使った無線をミスタさんに手渡しながら、そう見えるのかを訊いてみる。
 最初の頃よりも最近はちゃんと仕事だって出来ているし、何なら家事だって頑張っている。シェアをしてはいるけれど、ウーゴは帰ったら結構何もしないというか、無頓着というか、ほっといたら……つい私がって率先して動いてしまう……だからもしも頼りないって思われているとしたら、ちょっと悲しいなって思っちゃうよ。

「まぁフーゴから見たらナランチャのようなもんなのかなぁ、シニストラって。」

 ミスタさんは無線を受け取ると、私を見ていて思うことを教えてくれる。

「ナランチャはスタンド使いとしては結構センスがあったんだぜ。だがよ?ほら、中身は抜けてるじゃんあいつ?そんなナランチャの面倒を見ていたのがフーゴだったわけ。ドジなところとか重ねちまってるかもしんねーな。」
「ええ……」

 何その無理やりすぎる重ね方……私はどう足掻いてもナランチャではないし、そもそも全然違うし、凄く結びつけるのには無理があると思う。

「まぁそれだけじゃあないと思うけど、ナランチャやアバッキオやブチャラティみたいになったらっていう心配とかは絶対あると思うぞ。」

 ミスタさんの話は難しい。私の知っているナランチャは頼りになるお兄さんだったもん。全然そういう風には見えないし、私と似ているとも思えない。たまにナランチャみたいって言われるけれどそれは絶対に違うって思う。あとそれだけじゃないっていうその中身を是非教えてほしい。どういうことですか。

「ほら、アジトに戻るぞシニストラ!帰ったら報告書まとめて〜……」

 しかしミスタさんはそれ以上は何も言わず、私に背を向けて乗ってきた車を置いている方向へ歩き出す。今の時間は夜の十時なんだけれども……これから報告書ってことは朝帰りは確定だ。っていうか朝になっても次の仕事ってなりそうでめちゃくちゃ疲れるフラグだし、困る。

(まぁ大きな仕事はないよね……)

 パッショーネは一年前と比べたら、今はいい意味でもの凄く勢いづいてきた感じらしい。ネアポリスに蔓延る悪という悪を正義の悪の力を以ってして成敗をしているってウーゴが力強く力説をしていらっしゃった。たまに入り込む害ある人間を私とミスタさんが排除をして、そこに他の組織との関連性を発見したら、その組織へ報復処置を行う……そうやってシマを拡大させて、この街を、イタリアを綺麗な場所に変えてゆく。それがジョルノの夢でもありブチャラティの意志。暗いところはどこまでも暗いこの街を変えるっていうのは素敵な夢だし、私が力になれることがあるならば協力は惜しみたくない。
 だから忙しくても、辛くても、頑張らないといけないんだ。ついでにウーゴへの私に対する視線というか考え方を少しでもいい方向に向けたいなと思う。

「頑張る……!」

 とにかく私なりに足掻いて頑張ろう。
 そう思いつつ、私は拳を握って強く自分の言葉にうんうんと頷くのだった。


 最近家にいる時は、ウーゴに書類の書き方を教わったり実際に自分に起きたことを例題にして書いてみる練習とかをして過ごしている。
 本当は体を休めたいけれど、どう足掻いても絶対に報告書から逃れることは出来ない。書類整理や難しい書類の確認作業は平だからってことで免れられたけれど、報告書だけは現場にいて仕事をしている時点で書く義務が生まれてしまっているので無理だった。
 標的のその場で吐き出した情報や、潜伏していた場所へのルート、そこで見つけた取引の証拠に所持をしていた物や拳銃の番号諸々……その中でも武器のルートっていうのは結構大事らしい。ミスタさんは煩いくらいに周りの部下に調べさせていた。何でもそこから他組織への繋がりが見えてくるらしいとかで……組織内で武器の好みは結構違うしこだわりがあるってウーゴからは教わった。
 そういう情報はミスタさんがまとめるとして、私が大体担当をしているのは追跡の際に出来た足跡の向かう場所の記録だ。標的の最新の足取りや数週間分の行動パターンとかを書き出して、それをジョルノに提出をする。最初のうちは一日で終わる任務だったし楽だったけれど、最近は違って何日もかけて関わることが多い。一人で辿っている最中に襲われたら大変だから、ミスタさんはいつも一緒に行動をしてくれるし、すぐに動き出せるようにいろんなところに手を回したりして、そうやっていつも標的を処理してゆくのが大体の流れだ。だから一人の追跡に対して知らせる報告書の量っていうのはかなりあって、作成するのは結構修羅場だったりする。

「ここに行ったら次はここを曲がって……いや違う?こっち?……ああもう分からないや、トロイメライ!」

 地図とにらめっこをするのはいいけれど、毎日が濃厚すぎてどこでどんなこと、どんなものがあったっていうのは思い出すのはかなり困難で、いつもトロイメライに地図上で再現をしてもらいながら確実な文字にしてゆく。ズルをしているように見えるかもしれないけれど、私の頭よりもトロイメライの星の方が正確だから、頼らざるを得ないっていうか……ウーゴも使うことを進めてくれたから合法だ。決してズルでもチートでもない。
 そんなどこまでも苦だった書類の作成だったけれど、ウーゴのおかげで文章の書き方も結構マシになってきていた。書きたい物を箇条書してそれから改めてまとめていけば結構いいものが書ける、っていう知恵袋を聞いたからやってみたところ、格段に私の作業の効率も上がってきた。ウーゴ様様ってくらいウーゴを拝みそうになったっていうか……改めてウーゴの凄さを知ったように思える。

(ナランチャが大好きって言っていたのも分かるなぁ……)

 ウーゴは優しい。馬鹿な私達を決して見捨てないで根気よく教えてくれる。おまえになら出来るって励ましてくれたりそれでしっかり書けたら褒めてくれるし……ちゃんと出来ると自分のことのように喜んでくれるんだよね。あの眩しい笑顔を見たらそりゃあ好きにもなっちゃうよね、ウーゴのこと。

「って、」

 いや、好きだけど。元からウーゴのことは好きだけれども。ウーゴを「好きにもなっちゃう」っていうのは何ていうか……しっくりと来ないかも。
 ずっと前からウーゴのことは好きだしそれは確か。だって大切な友達だし、一緒に遊んだ仲なわけだし……なのに「好きにもなっちゃう」ってどういうこと?

(改めて好きになるって変だよね……)

 見直したっていう意味、なのかな。それとももっとウーゴを気に入ったっていう意味なのかな……でも何か、昔よりも気に入ったっていうのは絶対に違うと思う。それって前はちょっとでも嫌いだったみたいな言い方だもん。変だよ。

「シニー、お疲れ様。」

 地図と睨めっこをしていたら、私が使っていた部屋にジョルノが現れる。

「お疲れ様、ジョルノ。」

 ジョルノもまだこんな時間まで仕事をしていたのかな?もう日付を跨いでいるけれど……また何徹もしていなきゃいいけれど、いつか体を壊すんじゃないかってちょっと心配になっちゃう。ウーゴやミスタさんが手を焼くほど結構なやんちゃっぷりみたいだし、ジョルノの世話って意外と大変だよなぁ……

「……ねえジョルノ?」

 まぁそれは置いておいて、ここには面白いものもないし、ジョルノは多分様子を見に来ただけだと思うけれど、折角だから友達の意見を少し聞かせてもらいたい。
 私はそう思ってジョルノの方に体と視線を向けると、さっき浮かんだ疑問をジョルノに訊ねてみることにした。

「ちょっと訊きたいんだけどさ……好きだった相手を『前よりも好きになった』って思うのってどういうことだと思う?」

 自分で考えた解答はあまりにも認めたくなかった。だからこれは人に訊くことが正解なのだと思う。私以外に訊かないと、多分いつまで経っても答えは見つからない。

「前より好きって何か相手に失礼でしょ?好きだったんだもん。だったら前よりっていう考え方は違うと思って……」

 ジョルノには分かるかな?誰かにそういう気持ちを抱いたことがあるのかな?結構人付き合いに関してはジョルノは淡泊だったけれど……最近はそういう雰囲気が見られないし、訊いてみたら結構納得がいく答えが出てくるかもしれない。
 馬鹿げた質問かもしれないけれど、ジョルノは嫌な顔を一切せずに、私の質問に答えようとしてくれる。

「それは……前の頃はどういう風にその人が好きだったか、にもよるんじゃない?」

 近くにあったソファに座って、そのまま淡々と思う言葉を口にしてくれた。

「優しいから好きとか、いい人だから好きとか、最初はそういう大雑把な基準で好きになるだろ?「前よりも」っていうことは基準になっている気持ちがあるはずだ。分かる?」

 優しいから好き、いい人だから好き。

「うん、分かる。」

 それは確かに私の中にずっとある。ウーゴは優しいし、いい人だし……良好な意味で好きっていう気持ちはちゃんと持っているし、それは初対面から既に備わっていたものだ。
 私がその話に頷くと、ジョルノもそうだよねと頷いて、更に言葉を繋いでゆく。

「で、付け足すように新たに好きって感じたっていうことは、その好きの中にしっかりとした「中身」が生まれたから……なんじゃあないかな?」

 でも出てきた言葉は何ていうか深くて哲学っぽくて……少しだけ頭が混乱しちゃいそう。

「しっかりとした中身……」

 中身かぁ……いい人だから、優しい人だから、って思うことも充分中身だと思うけれど、それ以上のものがある、ってジョルノは言いたいのかな?

「分かりやすく言うと……優しいから好きって思う時って、その行動をまず見たから思うことだよね?」

 分からないし上手く考えられないでいれば、ジョルノは更にそう思う理由を継ぎ足していった。

「例えばその優しさの中で見たものが笑顔だとする。その笑顔を見た時に、今まで感じたことなんかないのに胸が暖かくなった……好きよりも多分それを見て「幸せ」って感じるようになったから、改めたみたいに好きだなって思うようになったんじゃあないの?」
「……」

 ジョルノの話はちょっと、分かるようで分からない。

「つまり好きって思った時に幸せが足されたから、改めて好きって思った……でいいの?」

 最初の例え話はちっとも分かりやすくないし易しくはなかったけれど、最後のまとめで何となく理解したっていう具合だ。
 確かに優しく教えて貰った後に褒められて、その時に見せてくれた笑顔を見たらちょっと幸せっていうか、いいものを見たような嬉しい気分にはなったけれど……これが中身、なのかな。あまり自分の中に落ちてこない。

「うん。そういうことだね。」

 分かってはいない。でも大体把握はした。ジョルノは私の話に頷くと、座ったばかりなのにもう立ち上がって何故か扉じゃなくて窓の方に手をかける。

「食べ物で例えるとしたらお気に入りのパンの中にチョコレートが入っていて、凄く美味しくなったような、そんな感じじゃあないかな。」
「……」

 お気に入りのパンの中に……チョコレート。

「なるほどなぁ……」

 それは確かに。もっと美味しくなったらもっと好きにもなるし、最高にハイにもなる。
 その例え方だったら馬鹿な私でもちゃんと理解出来る。つまり私は、元々好きだったウーゴの中に美味しいものが入っていたことに気が付いて、それを味わうっていうか、その部分を感じとって改めて好きになってしまったってこと、なのかも?

「ふふ、やっと分かったみたいだね。」

 やっと自分の中に落ちてきた。

「うん。なんとか。」

 ウーゴの中にチョコレートを見つけて、新しい発見をして私は前よりも好きだと思うようになっている。

「折角だしもっと彼の中のチョコレートを探してみなよ。いいことあるかもしれないよ?」

 私が理解をしたところでジョルノは楽しそうにそう言うと、窓を開けたらスタンドを出してそのまま外へと飛び出して……ここは二階なわけで地面から少しばかり離れているはずだけれど、どういう仕組みなのか宙に浮いているみたい。少し離れた場所でふわふわと漂っていた。

「おやすみシニー。これが終わったら帰っていいし、昼からまたよろしくね。」

 それの仕組みってどうなっているのか訊きたかったけれど、何しに来たのか分からないままなのだけれど、ジョルノは一方的に挨拶をしたらそのまま暗闇に消えていってしまった。扉から現れて窓から出て行くって何だか物語のワンシーンみたい……こういう映画あった気がする。

「って、」

 言われた時は気が付かなかったけれど、ジョルノってばさっき「彼」って言わなかった?もしかしてウーゴの話だってバレバレだった……っていうのは考えすぎかな?でもそれはそれで少し恥ずかしいような、流石ジョルノっていうか、何とも言えない感想しか出てこない。
 とりあえず開けられたままの窓を閉めながら、窓に映る自分を見て発見できた正体について改めて考える。

(ウーゴの中のチョコレート……)

 チョコレートっていう例え方っていいよね。口に入れたら中が凄く幸せになるもん。好きなパンの中にチョコレートを見つけたら確かに幸せだ。ウーゴの中にあったそれをやっと見つけて私はもっとウーゴを好きになったんだなぁ……凄くいいことを知れた。胸がぽかぽかする。

「作業頑張ろう……!」

 昔よりもウーゴと一緒にいられるっていうことがとにかく何よりも嬉しいと思う。前はウーゴを連れ出す時は警備員に見付からないようにいつもコソコソとしていたから……堂々と今一緒に外を出歩ける時間とか、周りを気にせず一緒に話せる時間とか、それが当たり前になったことが何よりも幸せだ。ウーゴとはまだまだ一緒にしたいことがいっぱいあるし、してあげたいこともいっぱいある。いくら時間があったって足りないよ。

「おいシニストラ、ジョルノ見なかったか?あいつ部屋で休んでたはずなんだが抜け出したみたいでな……」
「ジョルノはー……見てませんね。」
「そうかぁ〜ったく大変だぜ、あいつ最近夜遊び覚えちまったみたいでなぁ……」

 とりあえず厄介そうな問題を流れるように回避しつつ、私は私の仕事を終わらせるためにいっぱい頭を使うのだった。


「いい天気だなぁー。」

 やっぱりというか既にフラグが立っていたからしょうがないというか、作業が終わったのは夜が明けてからで、家に帰る頃にはもう太陽が昇っていた。
 疲れたしくたくただし、早くベッドに潜って少し休みたい。お昼からまた仕事なのはしんどいけれど、今日の仕事で幾分は落ち着くって話だったから何でもいいやとか思う。やっぱり頭を使う仕事は私には向いてないんだろうなぁ……

「ただいまぁ……」

 ウーゴは多分まだ起きてはいないだろうから、何を言っても虚しいだけだけれど一応帰ったよっていう報告をする。
 とりあえずそのまま部屋に行っちゃいたい。睡魔と戦っているうちに動かないと廊下で倒れてそのまま眠っちゃいそう……とにかく足に力を込めて、一歩ずつ向かおうと玄関に入って廊下を進もう……

「……ん?」

とするのだけれど、下を見てみると白い裸足が映り込んできて。こんなところに誰かがいたことを知って、慌てて浮いていた足を床へと下ろすとそのまま視線を上へと向けて、その正体を確かめる。

(これは……)

 ゆっくりと足から上へと辿ってゆけば、その人は毛布を羽織って壁に寄り掛かって座り込んでいて、首をカクカクと動かしては気持ち良さそうに寝息を立てている。なんていうか、素直にびっくりしたっていうか……何でここにいるのって、なるっていうか。

「ウーゴ?」

 何で部屋で寝ていないのっていう感想しか出てこない。
 当たり前だしこの家にいたのはウーゴだし、寝ている人間がいるとしてもウーゴしかいないのだけれど、まさか玄関先でこんな天使の寝顔みたいな真っさらなウーゴを見られるとは思ってもみなかったしで頭が少し混乱しそう。毒という毒が抜け落ちたような顔のまま、いい夢でも見ているのか口元がたまにもにょもにょと動いている。いつもとのギャップの激しさにちょっと戸惑う。

(待ってたのかな……)

 よく見てみたら手には携帯が握られていた。今回の仕事は音が鳴るものは厳禁だったから、携帯を持っていたミスタさんも電源を切っていて誰にも繋がらなかったんだよな……日付を跨いでも戻って来なかったから玄関で待っていて、そのまま眠っちゃったのかもしれない。
 って、もしそうだとしたらこの人可愛すぎないか?心配し過ぎだし過保護すぎだけれど健気に毛布に包まって、睡魔と戦いながら玄関で待つって、何ていうかご主人の帰りを待つわんちゃんねこちゃんみたいな感じがする。
 ……でも雰囲気的にはそうだったとしても、多分違うんだろうなって思ってしまう。

「帰ったよ、ウーゴ。」

 ミスタさんが言っていたみたいな理由で待っていたのだと思う。あの三人みたいに帰ってこないかもって、もしかしたらウーゴは不安に思ってここで待っていてくれたのかもしれない。

「ありがとね……」

 私はその隣に座り込むと、眠っているウーゴに手を伸ばして綺麗な金髪を撫でてみる。くしゃくしゃしてからとかすように撫でていたらそのまま頭が私の肩に落ちてきて、動けなくなってしまって……ちょっと困ったしどうしようって思ったけれど、ウーゴにこう、無意識に甘えられるのは嫌じゃないから、じゃあいいやって気分のままにゆっくりと目を閉じてしまった。いっぱい心配をさせてしまってばかりで申し訳なさしかない。
 多分ウーゴが起きる頃には既に私は夢の中だけれど、ウーゴが目を覚ました時にちょっとでも安心出来たらいい。もう誰もウーゴの目の前から消えないってことを感じてもらえたらいいなと思う。

(ウーゴといると暖かい。)

 何よりも落ち着ける。一緒にいるだけで幸せになれる。笑顔を見たら好きだなぁって思うし、ウーゴの痛いくらいの優しさも、慣れてしまえばくすぐったい。
 だから改めてウーゴのこと、好きだなぁって思うんだ。


 そう思うと心臓が落ち着かなくなって、走った時みたいに早く動くのがどこまでも不思議。




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