十一月二日の死者の日は、パッショーネの皆で故郷に帰ってくる人達のお迎えをする日。矢に射抜かれて起きてから今日で三度目の死者の日だし、二度もそれを経験していれば、仮初の体を三人のために用意することにも結構慣れてくるもので、失敗だなんてすることもなく創ることは楽勝だ。……そう、楽勝なはずだった。
今日で三度目となるこの行為ではあったけれど、今日はいつもと何かが違っていた。
「あれ……?」
トロイメライに望んでごっそりと星をたくさん産む。その過程までは全然問題もない。そのまま星達を集結させて、それぞれの背格好まで調整をすることも問題はなかった。しかし仮初の体が出来上がりそう……ってなった時、産んだ星達は散り散りに分散をし始めてゆき、その姿へ変貌を遂げることもせず私の目の中へと還ってしまって……皆が再会を楽しみにしている最中にそれは突然起きてしまい、ただひたすらに黙りながらも混乱を来す。
「シニー、どうしたんだ?」
隣にいるジョルノはそんな私を見てかいつまでも現れないことを不思議に思ったのか、私を見下ろしながら首を傾げる。ジョルノは会う度に身長が伸びている気がして少し……いや、かなり恐ろしいのだけれども、それと比例するように顔が美人になっていくからたまにどちら様ですかって言いそうになるしで大変だ。頭の位置が昔よりも高くなったことはいいことかもしれないけれど、出会った頃のジョルノがたまに懐かしくて若干切なさを感じてしまっていうか、それをウーゴに言ったら「ジョジョは日に日に神々しくなられているしきっと神に愛されていらっしゃるというか寧ろ彼こそが神云々!」って返ってきて、ああこの人やばいな、ジョルノを宗教にしかねないなとか引くレベルに毒されてびっくりした。旦那が日に日におかしくなっていくのが心配すぎて怖い。大丈夫かってなる。
「ああ……うん。」
論点がズレてしまったけれど、私が言いたいことは決してジョルノの頭の位置が日に日に上っていくことでも、頭の中が大丈夫かと不安になるくらいにおかしいウーゴのことでもない。それよりも重要なことが、緊急事態が現在進行形で起きてしまっているということのみ。
「皆、ここにいないみたい。」
仮初の体を与えるという望みが弾かれたということは、ブチャラティとナランチャ、アバッキオの三人の意識は今ここにはいないということ。それが今一番押さえなくちゃいけない出来事だから、今日常的のあれこれを気にする余裕も無いに等しかった。
「ここにいないって?」
ジョルノの後ろで献花のための花束を肩に乗せて三人との再会を待っていたミスタさんが、私の唐突な言葉に対して目をぱちぱちとさせながらもジョルノと同じく首を傾げながら訊ねてくる。
「えっと……」
最終目的地にしているブチャラティのお墓へ来る前に、ナランチャとアバッキオを去年と同じように迎えに行って来た。その矢先だったからか「ここにいない」っていう言葉は自分で言っておいて衝撃的なもの過ぎて、確認をした私までかくんと首が傾きそう。けれど、この感覚的なものは私にしか分からないことだから勝手に傾くわけにもいかないし、自信を持って口にしないといけない。どうにか踏ん張りつつ首が傾くことを堪えながら、ミスタさんのお訊ねに返事を返した。
「体を用意しようにも、三人の意識がここにはないみたいなんです。なので体を創ることが出来ませんでした。」
まさか死者の日の日付を間違えた?一人でここに立っているとしたらその可能性は高いものの、ミスタさんには言えないけれど、今日はこの場所に四人もいるんだよな。ウーゴもジョルノもしっかり者だから日付を間違えるだなんてこともないだろうし……そうなるとどこにも原因と可能性が見当たらないことになってしまう。
頭を悩ませて私なりにいろいろと考えてみた。十秒、何十秒も何度も何度も可能性をちぎっては投げを繰り返して……しかし辿り着いたその結果はと言えば、「いない」という寂しい事実のみ。望みを叶えるトロイメライが望まない失敗をするっていう事実は認めざるを得ない。どう考えてみても「ここにはいない」っていう苦しい答えにしか行き着かなくて、ただただ気持ちが重たくなる。
「ごめんなさい……私がちゃんと確認をしなかったから……」
最初に立ち寄ったナランチャのお墓でいるかどうか確認をすればよかったんだ。今日は広めの車だったから真っ先に体を創って確かめることが出来たはずのに、迎えに行ったつもりのままブチャラティのところまで引っ張っちゃったから、こんなことになったんだよね?早く気が付いていれば、ジョルノとミスタさんとウーゴの三人に迷惑をかけずに済んだのになぁ……申し訳がなさすぎて泣きそう。
「大丈夫シニー、きみは何も悪くないよ。」
自分に落ち度があるかもしれないと思えば思うほど気持ちも急降下気味になってくる。そんな私を見ていろいろと察してくれたらしい、同じ指輪を付けているパートナーのウーゴは励ますように私にそう言ってくれて、私の肩を優しく掴み込む様にそのまま自分へ引き寄せてはすっぽりと、まるで丸め込むようにこの体をその腕の中へと収めてしまう。
「でも……」
ウーゴの腕の中はいつだって春の陽だまりのように心地がいい。背中から伝わる温もりも暖かいし、これをもしもぼんやりとしたリラックスタイムの時にやられていたら、もしかしたらでろでろに溶かされていたかもしれない……。けれど今の私の頭の中にはウーゴを染み込ませる隙間もないし、何より憤慨タイム中だしでぼんやりしている暇もなかった。今のこの状態からでろでろに溶かされるだなんて決して叶いそうにもなくて、やり場のない申し訳なさに震えそう。
私としては「何も悪くない」っていう言葉を呑み込むわけにもいかなかった。確かな確認もせずに見落としてしまったせいで三人とも今現在ここにいないのだろうし、その他にもそもそもとして、もしかしたら私が産んだ星達の方に問題があった可能性だってあるわけで決して「何も悪くない」とは言えないような現状だ。私の望み方にももしかしたら要因があったのではとさえ思えてくるし、そんな疑心暗鬼よろしくネガティブなことばかりをひたすらにぐるぐると考えてばかりで頭がおかしくなりそう。落とし穴があったかもしれない可能性を探し始めたらぽんぽんと頭に浮かんでしまってキリがない。だからウーゴの暖かい腕の中にいてもときめく余裕もない……凄く悶々としちゃう申し訳なさからウーゴにごめんねって声を大にして謝りたいくらいだ。
「んん゙ー……」
とにかくもどかしい。私が皆の役に立てる日だなんて今日くらいしかないっていうのになぁ……何の力にもなれないだなんてただただ悔しいし、何のためのこの能力なんだろうって自分への怒りばかりが募るよ。
「そんなに思い詰めないでくれ。」
悩みすぎるあまりにとうとう唸り声を上げてしまうと、それを止めようとしたのかウーゴは頭の上に顎を乗せながら慰めようとしてくれる。地味にくる喉の振動を私へと向けるそれは携帯電話のマナーモードのようなバイブレーションみたい。
「分かるだろ?悩むよりも笑っていた方が、たとえここにいられなくとも三人は喜ぶはずだ。」
そして立った状態のまま顎を乗せられた結果として、意外にもウーゴまで背が伸びていたことに驚愕してしまう。一緒に暮らしているし私の旦那のはずなのに、そんな些細なことでさえ今更気が付くとか妻失格?でも結婚をしてから未だに成長をしているかのように身長が伸び続ける旦那とか、普通に考えてみてもなかなかいないのでは……しかし普通とは縁がない世界に踏み込んでしまったからね。今の私はそういう部分に関しては麻痺をしているかもしれない。
「ごもっともだけどさぁ……」
ウーゴが言っていることはごもっともだと頭の中では理解をしていた。確かに眉間に皺を寄せながら悩むよりも、笑いながらここに立っている方が三人は喜んでくれると思う。けれど……それをどうなのだろうかと悩む私もいる。だって複雑な気持ちでしかないでしょう?彼らが私達を見ているっていう保証もないんだよ?喜んでくれるって思いたいけれど、もしも今目の前にいて「スタンドもまともに使えないのかこの腑抜け!」って言われていたりしたら……鳥肌が……!
「……「また生きてみたい」。」
「え?」
私は単純だから複雑なことを考えるのはとにかく苦手。しかし今ここにいる、確かに目に映る皆は職業柄かスパッと頭の中で、その最もらしい理由を簡単に見つけ出してしまうんだ。
「って去年言ってたし、生まれ変わろうとしているのかもしれないね。
いないならしょうがない。そう頭を切り替えつつ一つの可能性をジョルノが口からポロリと零す。ブチャラティのお墓に花を供えながら、そのお墓の上に乗っていた落ち葉に生命を吹き込みながら、悩み続ける私に答えをくれる。
「彼らはもう自由なんだ。何をするのも願うことも、どこに行こうともぼくたちにそれを止める権利はないよ。」
ジョルノが触れる度にその落ち葉達は姿を変える。みるみるうちに茶色く枯れたそれは白い鳩へと変身を遂げて、伸び伸びと青くて広い空へと舞い上がっていく姿は見たことがないくらい壮観に見えた。落ちるしかなかった落ち葉が自分の翼を手に入れて、自分の意志のままに飛んでいくその姿は正にジョルノが言った「自由」っていう言葉そのものみたい……そんなことを思いながら、私は去年の今日を思い出す。
(そうだった。)
去年の今日、この場所で皆で美味しいものを食べながらナランチャが言っていた言葉だったよね、「また生きてみたい」って。続くようにブチャラティもアバッキオも未来に思いを馳せながら、そこでまた生きてみたい、頑張ってみたいって……言っていた。
(まだ先のことだと思ってた。)
自分勝手な思い込みをしていた自分が恥ずかしいけれど、まさか去年のそれが三人がいた最後になっちゃうとは思わなかった。無意識にその可能性を消してしまうとか何て最低なことをしているのだろう……全く以て許し難い。
確かに私達には自由になった三人を止める権利はない。そもそも止めるつもりもないし、止まって欲しいとさえ思わない。ジョルノの言う通り、三人が生まれ変わろうとしていてここにいないとしたら、それなら寧ろその可能性を摘み取るような真似をせずに応援をしたい……いや、応援するってはっきりと一年前に伝えたはずだ。この期に及んで何を燻っているのだろう。
「そう、だね……」
それは去年の今日から全く変わらない気持ちだし、私のこの口はしっかりとその気持ちを言葉にしていた。ただそれがいきなり訪れてしまったことは予想外で寂しいけれど……これは多分、その時が来年再来年、更にその先の年に起きたことだったとしても私はきっと同じことを口にする。
「望んだなら手に入れないと。」
あの日に見たトロイメライはまだこの先も続いてゆく。三人が諦めなかった夢の先を見てみたい……見させてあげられるようにしてあげられたらいいなぁ。
「でもそうなると、次会う時って三人とも子供ってことだよね?どんな子になって現れるんだろ?」
大きかった三人が私達よりも小さくなって現れるっていうのは想像しちゃうとちょっと面白い。全く想像が出来ないし、何より予想がつかない。前の性別と逆転とかしていたら失礼だけれど微笑ましい……きっと皆なら美人で可愛い子になれるだろうし、世の男子がほっとかないんじゃないだろうか。
「アバッキオが女の子になって生まれ変わってたよォ〜……どうするジョルノ?」
ミスタさんも同じことを考えていたみたいで、わざとらしくジョルノに女子だったらどうするのか訊ねている。多分これはアバッキオがここにいたら力の限り殴られていたんじゃないだろうか?どうするって何をだよって怒鳴り散らしていそう……絶対喧嘩に発展しちゃうやつだ。
「女の子だったら?どうもしませんよ。性別が何であれ生まれてくれることに意味があるのだから。」
言葉の返しも態度も明らかにミスタさんや私よりも大人だ。これがドン・パッショーネかと思わず関心をしてしまった。
「彼らは一度言ったことは必ず守る人たちだ。」
ジョルノはそう言いながら私の方へと視線を向けて柔らかく笑う。
「大丈夫。また会えるから信じて待ってみよう?」
三人はきっとまたこの場所にやって来る。どんな風に生まれて生きていくのかは本人以外分からないし、私達はそれを決めることも出来ない。そもそも以前の姿の記憶を彼らが持っているとも限らないし、もしかしたらこの国の外に生まれることだってあるかもしれないし……本当のところ、「また会える」っていう保証だなんてどこにもなかった。
「うん。」
けれどそれでも構わない。もしも運良くまた三人に出会えたなら、三人がまた巡り会って仲のいい友達になれたなら。それはきっと素敵なことだし喜ばしいことに違いない。私に出来ることはただ祈ることしかないっていうのは少し寂しいけれど、そんな奇跡が起こることを信じてみたい。
「ナランチャが女の子だったらすげー危なっかしいだろうな。ブチャラティはおっとりしてそうで……危なっかしいだろうな。」
「女の子にこだわり過ぎでは?」
「コイツの中身は女性が三分の一、貴方が三分の二ですから……」
「ジョルノの方が女の子より愛されてるんだ……」
諦めなかった三人がちゃんと報われてほしい。心の底からそう思う。
*******
ブチャラティのお墓に花を弔い車に揺られて我が家へと帰った後、ウーゴと他愛もない会話をしながらご飯を食べて、交互にお風呂で汗を流した後は二人揃ってベッドの上。静かに並び合うように腰を掛けながら、一緒に本を読みつつのんびりとした時間を過ごす。
最近はウーゴの帰りが遅いから、二人揃ってのんびりとするっていうほどのんびりには出来ていないし、多忙のウーゴはベッドに入ったらすぐに寝てしまう。だからこうやって、一緒に寛げる時間があるっていうのは凄く嬉しかった。買っておいて読めていない本を無心に読むウーゴの姿を見ていると、変な話「ウーゴがいるなぁ」って当たり前になったこの光景を微笑ましく思ってばかり。結婚したからここにいてくれて当たり前なのに、おかしなことばかり考えてしまう。
(奇跡みたいだよなぁ。)
今のこの時間が存在をしてくれているのって、何をどう考えてみてもあの三人のおかげでしかないんだよね……だってあの日の私ってばウーゴを見るまでウーゴのことを忘れていたんだもん。ウーゴの方はめちゃくちゃ全速力で私に会いに病院まで走って来てくれたのに、私ってば肝心なところで体から意識は飛んでいるし、なかなか体に戻れなくてグズグズするわで傍から見ても最低だった。本人には一瞬でも忘れていただなんてことは絶対言えないけれど、このことはお墓まで持っていくつもりだけれども。本当にあの時は申し訳ない、ごめんなさいって猛省をした。まさかの二度目が来ないように、決して忘れられないように穴が空くくらいウーゴの一秒一秒を見ておきたいな……とか言ったら流石に引かれるかもしれない。
そして再会出来たあの二年前の日のことを思い出してみると、世界っていうのは意外と狭いんだなって思えてくるんだ。だって偶然知り合った人達が私の友達を知っていたんだよ?おまけに一緒に過ごしていただなんてさ、狭い以外に一体なんて言い表したらいいの?狭いからこそこうやって再会をすることが出来たし、狭いからこそウーゴは私をこの世界からただ一人の人として選んでくれたのだろうし……狭くてよかったなぁってしみじみと思う。ただこの世には見えなくなっても傍にいてくれる人がいて、また生まれようと頑張る人もいたりするんだよね。不思議なことに死後にも世界が広がっているっていうことを考えてみると、狭いと思うこの世界って実は果てしなく終わりがないのかな、とか考えてしまう私もいるしで凄く複雑だ。一体どっちが正しいのか全く以て理解が出来ない……これを言ったらおしまいかもしれないけれど、死後の世界って見えない人もいるのだから実の所はそこの感じ方って人それぞれなのかもしれない。
「……シニー、」
「ふぉっ!」
ウーゴを見つめながらどうしようもないことまで考えてみていると、目の前にいたウーゴは夢中になって読んでいた本を丁寧に閉じながら、私の名前を呼んでくる。ウーゴって本の世界に入り込むタイプだし読み始めたらなかなか現実には戻れないような人だから、それを中断をしてまで名前を呼ぶとなると何でかこっちは緊張が走ってしまう。全く身構えずにウーゴの綺麗な顔立ちを見ていたことも手伝ったせいか、空気を抜いたような変な声が口から飛び出してしまってちょっと恥ずかしいな。
「ど、どうかした?」
誤魔化すように訊ね返しつつ私は背筋を真っ直ぐにピンと伸ばす。ガン見をしておいてどうかしたは流石にないかとも思いはしたけれど、意地でも見ていなかった風を貫き通したいたいし装いたい。決して申し訳ないことを考えてはいないっていう雰囲気を作りたい。
「まぁ……そうだな。どうかしたのかもしれない。」
そんなゲスな考えを持つ私の問い掛けに律儀に言葉を返しつつ、ウーゴは本をベッドの横にある棚に置いて話す空気を作り始める。私の持っていた本も丁寧に取り上げると自分の本の上へと重ねるようにしてそれを置いて、その代わりになのか自分の空いたその手を私の手に重ねた後に、そのまま上から力強く握りしめてきた。何で握ってくるのかちっとも分からないけれど、ウーゴが力を込める時って大体大事な時が多いから空気を読んで体を少しウーゴの方に寄せて彼をしっかりと見上げる。
「なるべく早く帰れるようにしてもらってはいるんだ。でもきみといられる時間っていうのはジョジョやミスタといる時間よりも圧倒的に短いし、丸一日一人ぼっちにさせてることも多いだろ?申し訳ないんだ、ぼくは。」
しかし大事なことを言わんとしているそのウーゴの視線は下向きで、私とは違ってこっちを全く見やしない。その言葉たちは中身といい話し始めからと言い、声音といい申し訳なさそうな色が滲み出ていてしおらしい。
(どうやったらこんな流れに……)
ウーゴの場合仕事が仕事だから帰りの遅さを気にし始めたらキリがないのでは?今まで私の方はそう思っていたから割り切って我慢をしていたし、何よりウーゴは稼ぎに行ってくれているわけで、養ってもらっている以上私は決して文句を言えるような立場でもない。
「帰れない日があったって、それでもウーゴはちゃんと帰ってきてくれるでしょ?」
いつも変なところばかりを気にして勝手に落ち込むよなぁ。街の裏を仕切るギャングに身を寄せている以上、帰れない日が度々あるのはしょうがないでしょうに。それを踏まえていながら一緒に過ごす時間が欲しいって、それだけ愛されているのかなぁとか思うとちょっと照れ臭いし自惚れ気味になるけれど、そもそものウーゴは癇癪さえ起こさなければ思いやりで溢れた優しい人だからさ、余計なことを悩んだり勝手に落ち込んだりするんだよね?しっかりとした性格も相まって自分が許せなくなるんだろうな……肩の力を抜いてほしいけれど、きっと難しいことなんだろうな。
「私はね、ウーゴが丸何年もいなくなったあの頃と比べたら今は天国だよ?」
ウーゴと比べると天地の差があると思う。日々そばにいられずとも……たとえそれが寂しいことだったとしても、昔と比べたら何のこれしきっていう気持ちが勝るから、ウーゴのように心配になったりへこたれることもない。
「同じ屋根の下に住んでるんだし、結婚してるからちゃんとここにウーゴは帰ってきてくれるし。どこにいるのかもちゃんと把握してるから安心して待っていられるんだ、ここでさ。」
ウーゴの握る手の下で、自分の手のひらを上へと向けて、骨張った指の間に指を絡めるとその手にありったけの力を込める。離せないように……離れないようにって握り締めればそこにある確かな温かさに安心をした。子供の頃は同じくらいの大きさだった手も、今じゃ明らかな差が生まれてしまってウーゴの方が長くて大きい。こういう体格差を感じる度にあの頃とは違うんだなぁ、ウーゴもしっかり育っていたんだなぁってしみじみと思ってしまうばかり……そのことを知っているのは私だけだと思うと誇らしさを感じるけれど、どちらかと言えばその成長が羨ましかった。
「もういきなりいなくならないって分かってるから……大丈夫だから、気にしなくていいんだよ。」
ウーゴの肩に頭を乗せて、ウーゴがいなくなった頃のことまで思い出す。あの時はどこを探してもウーゴの姿が見当たらなくて、ウーゴが住んでいた大きな屋敷の庭まで覗きに行ってみても姿形は見つからない。いきなり目の前から消えたっていう事実をなかなか呑み込むことも出来なくて、ショックのあまりにずっと泣きっぱなしで辛かった。今思えばあの時の私もウーゴのことが好きだったんだろうな……大事な人だっていう認識があってもそこにはまだ恋愛的な意味がなかったかもしれない。けれど、ふとした時に思い出したことは「好きだった」っていう言葉がぴったりと当てはまるようなことばかりを当時は考えていたかな。
「まぁ……シニーならそう言うだろうなって思ってたんだ。」
隣にいるウーゴは私の頭へ擦り寄ってくるように自分の頭をくっ付けながら、呆れた様子で長いため息を零している。勝手に残念がるのはなかなかに解せない……けれど、ドライとも取れかねない言葉を放ったのだからしょうがない。
「ぼくも思う。昔は離れるしかなかったけどさ、今はもう離れる必要もない。きみのいる場所がぼくの帰る場所で、きみにとってもそれは同じだ。」
ふわふわなウーゴの髪の毛はくすぐったいけれど、綺麗な口から出てくるその声はちっともくすぐったいとは思えない。とてつもなく低音で耳に響いたし、言葉達もまたどことなくもやもやっとしたものだ。すぐ感情を出すウーゴのことだから、寂しがらない私に若干拗ねたのかもしれない……本音だから訂正はしないけれど、もしかしたら同じ気持ちだよって言った方がウーゴは喜んでくれたのかな?
「ただぼくは……最愛のきみがここにいるから絶対帰るっていう理由の他に、もう一つ理由を付け足したいと思ってる。」
拗ねた調子ではあるけれど、ウーゴはそうだったとしても怒ることもしない。話を止めることもなく、言いたいことを言おうとする。
「そのぼくが付け足したいものっていうのはな、きみ次第でもあるんだ。」
そう言いながら私の隣から真後ろへと移動して、私を脚の間に挟み込むようにして座っては長い脚をピンと伸ばす。そこから私の前へと腕を伸ばすと、お腹にそれを持っていったらその手を重ねて、逃がさないと言わんばかりにすっぽりと自分の体へと私を収めてしまった。
いつも一緒に眠っているし慣れているはずだけれど、私と同じシャンプーの匂いが鼻にかかってきてちょっとドキドキする。変な話かもしれないけれど、「同じシャンプーを使っている」っていうその事実がとてつもなく心臓に悪いように思えてしょうがない。一緒に住んでいるのだから一緒のシャンプーを使うのは当たり前な話なのだけれども、改めて考えるとウーゴが入るシャワールームに私も入っているってことでしょ?まるで女の子が入った後のシャワールームに入った後、それに意識をしちゃって落ち着かなくなる男の子みたいな気分。結婚をしてから改めてウーゴのチョコレート探しをすると、昔はただ甘かったそれがまるでブランデー入りの高いチョコレートみたいに高級感が漂い始めるから困る。
五感を使ってウーゴにときめいてばかりで果てしなくキリがない。かれこれずっと出口が見えないし、まるで迷路に迷い込んだような気分になってしまうばかりだった。しかしウーゴの話を聞くに徹するべき時であって、決してときめいている場合ではない。
「付け足す理由に……私も入るの?」
それってどういう意味?私がいるから帰ってくるっていう、自分で言うと明らかに自惚れていると思われかねない理由以外ってなると……美味しいものを買ってきて、帰って一緒に食べてくれるとかそういう感じ?それだったらお互いのお腹の調子が関わってくるから確かに私次第っていう言葉は当てはまってくる。でもウーゴって私が作った料理を毎日美味しそうに食べてくれているし、一応栄養バランスを考えたものを作っているから食に関しての文句は全く言われたことがない。そうなると他ってなるけれど、私の貧相な頭では全く思い浮かばないっていうか……一体どういうことなのかちっとも分からない。とてつもないくらいさっぱりすぎる。
「そう。シニー次第。」
ウーゴってば私にピタリとくっ付きながら話しかけてくるものだから、ウーゴの柔らかい声が耳いっぱいに聴こえる。幸せと久々の甘い空気で胸がいっぱいだよ――ってウーゴに言ったらきっとこの空気が壊れてしまうだろうから、言葉を呑み込むように喉を鳴らして、それを堪えた。私のお腹に当てられてあるつい先程までこの手で握っていたその手に手を重ねながら、ウーゴが続けようとしているその言葉を聞こうと耳も向ける。
「ねぇシニー、」
横から顔を覗かせるウーゴは私の反応がおかしかったのか、くすぐったそうな声を出して笑っていた。けれどすぐに笑うのを止めて本題に移ろうと私を呼ぶ。そして、自分の方に向いている耳へ向かってこの場所に付け足したいものを甘えるような声音で私に教えてくれた。
「ぼく、きみとの子供がほしい。」
でもその放たれた言葉っていうのは今まで……いいや、私の頭ではまだ思いつかないような、考えつかなかったようなことで。聞いた後しばらくの間は石像になったみたいに動けなかったし、呼吸も止まっていたかもしれない。衝撃というか刺激が強すぎて、受け止めても痺れているかのような気持ちに苛まれてしまった。
「こ、こここ子供!?」
その単語をどうにか言葉にしてみることが出来たのはどのくらい経ってからだったのか分からない。ウーゴから聞いた単語を自分の口で言ってみると、改めて衝撃が体中を駆け巡るような感覚に見舞われて凄く困った。
子供……こども……ウーゴと私の子……それすなわち私達の愛の結晶っていうことだ。今までそういう行為をやるにしてもウーゴはしっかりと避妊具を用意してくれていたし、装着までしてくれていたから子供を欲しがっているとはまず思いもしなかったので、やっぱり驚きしか感じられない。思わず振り返って後ろのウーゴを凝視したくなるくらいには、どうしちゃったんだと訊き返したいほど自分の耳を疑いたいくらい。それに勝手ながらに昔のウーゴのことを想ってしまえば、そのウーゴの言葉にはとてつもないくらいの複雑な気持ちしか抱けなかったりもした。
(大丈夫、なの?)
ウーゴは決して楽しい子供時代を送れてはいなかっただろうし、遊びたざかりの年頃でも勉強ばかりだったくらいまともに外で遊べていなかったんだよ?広い屋敷の庭でこの世の終わりみたいな顔をしながらぼんやりと突っ立っていたし、通っていた大学の教授に酷いことをされそうになって返り討ちにしてしまった過去まであったんだしな。決していい思い出と思えるものって要素的には少なかったと思うし、想像をしてみただけで締めつけられるような内容だしで、勝手ながらに古傷を抉られたような鈍くズキズキとした痛みを胸に寄越されそう。私がウーゴだったらちょっと悩んでしまう。
賢すぎるあまりにほんの少しでも起こりうるかもしれない可能性を感じると、何かにつけて理由をつけては拒む理性まっしぐらなウーゴのことだ。だからきっと自分の少年時代を鑑みて、こういった話題はいろんな理由を付けて拒むんだろうな、そもそもお互いまだ若すぎるから子供を作ろうとかしばらくは言い出さないだろうなぁ――とか私なりに一応考えてはいてまだ早いその内容には気を付けていたし、とにかくとして話題をどうにか避けてきたのもあったから、今本人の口から飛び出してきた「子供がほしい」っていう発言にはただひたすらに目が見開くばかり。これは夢かもしれない、幻聴かもしれないとかキリなく無限に考え続けてしまえそうなほど、この展開に頭が追いつける気がしなかった。
「きみのことだからな。どうせぼくが子供を欲しがるとか思わなかったんだろ?」
「うっ……!」
しかもウーゴは何でもお見通しだ。今の私のその気持ちを的確に言い当てて、顔が見えないから分からないけれど多分しムカつく笑顔をドヤつきながら浮かべているに違いない。悔しいけれど全くもってその通りだったから、やり返すことは叶いそうになかった。
(要らんお節介だったなぁ……)
それとこれとは別として、今までウーゴにはタブーな話題だと勝手に思い込んでしまっていたことに深く反省をいたしたい。本人にしか分からないことをああだろうとかこうだろうとか決めつけて、挙句それを正しいとか思ってしまうのは大変失礼過ぎたっていうか、勝手な思い込みも甚だしい。ウーゴのことを理解していたつもりになって妻でいた自分が今凄く恥ずかしくて、ジョルノから教わったジャッポーネの最大級の謝罪方法・ドゲザをお見舞したいレベルに陥るほどに謝り倒したい……明日はウーゴの好きなものばかりを食卓に並べよう。
「今日思ったんだ。」
言い返す言葉もなく黙り込んでいれば、ウーゴは私にくっ付いたままの状態のままゆらゆらと体を揺らしつつ、柔らかい口調で話を続ける。怒ってはいないみたいだったから私も頭を切りかえて、その声に耳を傾けた。
「ブチャラティやアバッキオ、ナランチャのためにぼくが今出来るかもしれないことってないだろうかって。」
そしてウーゴの思ったことっていうそれっていうのは、私自身もさっき考えた中身と同じものだった。ただ私の方は同じことを考えてみても、三人のために出来ることだなんて信じることしかないんだろうなって……そこに落ち着いてしまって、勝手に自分の中で完結をしたから名案は全く浮かびもしない。寂しいなぁっていうところに行き着いてそのまま終わってしまったもので、ただそのウーゴの様子からしてウーゴは多分そこに落とすことはなかったのだと思う。更に言葉を続けて思いの内を語ってくれた。
「ジョジョはこの街の治安をクリーンにしようと奔走されているし、ミスタもそんなジョジョを支えて幹部の仕事に励んでいる。ポルナレフさんだってそうだ。だがぼくは毎日雑務ばかりだし……きみを独りにしてばかりで三人以前にきみを本当に幸せに出来ているのかすら怪しい。」
ウーゴにもウーゴなりの苦悩がある。相変わらず負を抱え込んでいるみたいで、ウーゴの口から出てくる言葉は自分に辛辣すぎるものばかりだ。私の方はもう充分すぎるくらいには幸せを貰っているっていうのに、ウーゴの方ではあまり納得が出来ていない様子……幸せっていうのは追い求めたらキリがない代物だと思うのだけれども、それを思ってしまったらおしまいなのだろうと考えながら気が付いて言葉を呑み込む。
(逆に言えばそれってジョルノにも言えることじゃないか……?)
ウーゴにもしもそれを言ったら「そんなことあるわけないじゃあないか!」って怒られそうだから言わないけれど……変な話、部下に「幸せってなんだろう」って思わせていながらまだはっきりと生まれ変われるかの確定をしていない三人云々を考えるのって、今ここにいるウーゴのことを幸せに出来ないのにそれでいいのかって……ウーゴの幸せについて今一度考えてやってくれてもいいのでは?三人以前の問題では……って文句言ってもバチは当たらない気がする。多分「結婚してるんだからきみがウーゴを幸せにしろよ」っていうブーメランを投げられて終わりそうだけれど、気持ち的にはウーゴにもっと時間をくれって思う。言っても無駄無駄言われそうだけれど。
「本当に三人が生まれ変わってくるのか分からない。生まれ落ちる場所がこの街の外かもしれないし、次は別の生命として生まれ落ちるかもしれない。また皆と巡り会える可能性は極わずかだろうなと思う。」
心は荒ぶる一方、自分のペースで少しウキウキとした声音で話してくれるウーゴの声を聞いているだけでも私は幸せになれた。ウーゴが喋ってくれているだけで一緒になれたんだなぁ、夫婦っていいなぁっていう限りない喜びに何度でも浸れてしまう。今日のこの時間だけじゃなくて、今までの何気ない会話達を思い出しただけでも。いつだってウーゴがそばにいて話してくれるこういう時間は愛しくてずっと続いて欲しいと思ってしまう。そのくらい、ウーゴのことが大好きだ。
何も言わないままその声が繋ぐ言葉を聞き続けながらしみじみと思う。相槌を打つように私のお腹の上にあるウーゴの手を指でなぞると、ウーゴの指が返事を返すかのようにぴくりと動くことも堪らない。小さなことすら大事にしてくれているような気がして、ウーゴはやっぱり優しくて紳士的な人なんだぞ、うちの旦那は世界一妻に甘いぞ!って愛を叫びたかった。近所迷惑だから出来ないのがただただ悔やまれる。
お花畑の脳内だけれど、それでもその中心地点ではしっかりと、自分も出会える可能性まで考えを導き出していたことを思い返す。生まれ変われるに至ったとしても、この場所でまた生まれ変われるっていう約束をしているわけでもないからこそどうなるかだなんて見当がつかないし、私達は神様と繋がっているわけでも予言の力も持っているわけでもないのだから、未来を占うことも確実に繋ぐということも叶わない。残念ながらトロイメライでも難しい。だから生まれ変わるっていうその奇跡を信じることくらいしか私達には出来ないんだ。生まれ変わったその先で彼らが私達に出会えなかったとしても、せめて彼ら三人が揃ってまた出会えることを渇望する以外に出来ることだなんて見つからない。想うことしか先にいる私達はしてあげられないんだ。
「……たとえそうだとしても、もしもその可能性が上がる方法があるとしたら?」
だから「これでいい」と思うことにしたのになぁ……ウーゴは私なんかよりも賢いし考えることが得意だから、私みたいに信じることが今は全てだとは思わずに、今だからこそ出来ることを導き出してしまった。
「ぼくとシニーがもしもこのタイミングで子供を作ったらそのシステムに割り込めるかもしれない。この街で生まれ落ちるっていう可能性はほんのちょっぴりでも上がるんじゃあないか?」
「生まれ変われる可能性を上げるために子供を作る」。中身に至った根っこを辿ると、その発想はいつものウーゴからは想像がつかない代物のような気がする。とにかく今まで見たことがないくらいの積極的さを言葉からも声からも感じ取れたし、とてつもなく後ろよりも前だけを見つめているような、難しいことを言っていたとしてもその前へ踏み込みたいという気持ちがぴりぴりと、背中伝いに伝わってきた。いつものウーゴだったらまずこんな何の根拠もない上絶対とは限らないことを意見として言わないだろうし、ウーゴの言うその可能性っていうのはどう考えてみても何の根拠もないことだ。そもそも理屈的に考えてみれば、可能性に割り込むにしても世界人口からして桁数が尋常じゃないし、割り込んだところでこの場所に生まれる抽選権利を小競り合っても勝ち目はないだろうし、非常に無理があることなのでは?……っていつもとは真逆で私の方が心配に駆られてしまうのは何故だろうかと悩んでしまう。
それと同時に進行して保守的な気持ちを抱く自分を情けないと思ってしまった。ウーゴと同じことを途中まで考えていたくせに、そこで諦めて逃げるかのように……放棄してしまうかのように楽な道を選んで「これでいい」とか決めつけて……今の私ってば多分、あの日の三人よりも弱気だしヘタレだな。ジョルノやミスタさん、もちろんウーゴもパッショーネの手が伸びるこの範囲内で、三人が生まれ変わった時を想いながら奮起していくっていうのに私ときたら……夫婦にとって最大スケールをウーゴにぶち込まれて急に弱気になっちゃうだなんて、私らしくなかったかもしれないな。子供を作るとか今のジョルノやミスタさんには絶対出来ないようなこと……いやいやジョルノはある意味出来ちゃうかもしれないけれど、私達だけにしか出来ないような手札が可能性が少なくたってすぐそこにあったっていうのに、どうしてそこに辿り着けなかったんだろう?辿り着こうとしなかったんだろう?
「そうだなぁ……」
何かにつけて私達にはまだ早い、ウーゴの過去を思うと気が引けるって言い訳を作って逃げていたけれど、正直に言えば私のみ準備が整えられていなかった。妻になる勇気はあれど母親になる勇気はまだだったんだ。実際のところ成人年齢には到達をしていないし、社会に出るのが同い年の子達よりも早かった、事情があったから自立をしたのが早かった……ただそれは一人で生きていける程度に生活力があっただけで、それだけの普通の子供だった。
子供なままの中身なのに子供のいる人生へ飛び込むのは誰だってきっと怖いと思う。不安しかないしこんな自分が親になるとか夢物語みたいな世界だよなぁって思うし、まず始めに街中を走り回っていた女らしくもない私に子供がいる姿とかちっとも想像が出来やしない。つい最近まで学校にだって通っていたんだし、まだピチピチの十代だし同い年の子は進学しているわけで親のお世話になっているんだし、年齢的にはまだ親の庇護下真っ只中。論外で自立した上ギャングのリーダーをやっているどこぞのコロ……人もいるけれど、多分この街の皆の命を握っている彼と比べたら、この子供を作る作らないの悩みだなんていうのはちっぽけなものでしかない。
……うん。私がもしも普通の女の子なら、そうやって理屈を捏ねて断るのかもしれないな。
(ウーゴにとって……大事なことなんだよね。)
けれど願いを聞いた後でウーゴのことを想ってみたら、さっきとは全く違う気持ちが生まれる。そうやって理屈ばかりを吐いて逃げに入るだなんてことだけは、絶対にしたくないと思ったし、したらいけないことだと思ってしまった。
ウーゴは私を幸せに出来ているか不安だと言うけれど、私はこの通りウーゴがそばにいてくれるだけで充分幸せだ。けれど、今私にくっ付いてくれる彼はと言えば、幸せに出来ているという事実を伝えてもそれでも不安がってしまう。ウーゴが帰れなくても私が一人にならないように子供が欲しいって言うけれど……実際のところはきっと違う。
ウーゴは多分、心の底から生まれ変わるかもしれない新しい彼らとまた笑い合えるような時間を過ごしたいと願っているんじゃないだろうか。そこには彼らの夢を叶えたいっていう気持ちもあるのだろうけれど、もう二度と彼らに背を向けたくないっていうほんの少しの気持ちもあると思う。そして何よりも……幸せにしてあげたいっていう優しい気持ちもそこには隠れているんだろうなって、そんな風に私には写って見えた。罪悪感で子供を作るとかだけだったら遠慮なく引っ叩いていいかもしれない。けれどウーゴにとっての彼らっていうのは、当時の私以上に一緒の時間を過ごしてきた仲間でありながら、家族のような暖かい存在でもあったはず。二年前の今日に見たウーゴの涙と皆の優しい言葉たちが全てを物語っていたし、会えなくてもいいと、これでいいと諦めた彼らの寂しそうな背中にもその色は強く映えていたんだ。
ブチャラティとアバッキオ、ナランチャがしてくれたことはウーゴにとっては光そのものだった。ウーゴを独りにしないでくれたこと、可愛がってくれたこと、私をこの人のところまで連れてきてくれたこと……今のこの時が存在をすること。感謝をしきれないくらい、返せないくらい三人には恩がある。この先ずっとそれだけはこれからも決して忘れてはいけないし、大事にしていかなくちゃいけない。
気持ち的にはあの日に全てチャラにしたつもりでいても、時間が経てば経つほどに底なしにしてくれたことへの大きさを感じてしまう。もちろんジョルノにミスタさんにも、ポルナレフさんにトリッシュちゃんにも感謝をしているけれど、私の旦那さんに居場所を与えてくれた人は紛れもなくブチャラティとアバッキオ、そしてナランチャの三人だ。そんな彼らが今新しいスタート地点に立って再び走り始めようとしているのなら……誰か一人でもいい。そこに道を引けるのならここまで繋いであげたいな。何よりも愛してやまないウーゴがそれを望んでいるのなら、二人で幸せだねって噛み締め合えるのなら。可能性が限りなくゼロに近いことだったとしても、ウーゴのその気持ちだけは大切にしてあげたいと思う。
「もしかしたら本当に来てくれるかも、だもんね。」
いずれ子供を産むことになるのならそれが今でも多分差程変わらない。つい最近まで延々と走っていられたこの体だ。今は全く走れないから自分の体力がどれほどなのかだなんて測れないし全く分からないけれど、その有頂天に近い今なら産むのも多分大丈夫……だと思うし、その先の子育てだっていろいろと若くないと困る局面があるかもしれない。子供が出来るかどうかすら分からないけれど、たとえその子供が前世がない純粋な新しい命だったとしても、ウーゴと私の子供として生まれてくれるっていうだけで可愛がれる。ウーゴの子供ってだけでめちゃくちゃ愛せる。ウーゴの親バカ姿も見てみたいしこれはもう頑張るしかないよなって変に意気込めてしまう、うん。
「ウーゴ、」
私はウーゴの腕を解くと後ろへ体ごと振り返って、その顔を見上げながら言葉にする。
「子供のことも私のことも、いっぱい愛してくれる?」
正直訊くのは恥ずかしい。唯一の心配が私まで愛してくれるかっていうその中身からして、やっぱり子供っぽさが拭えていないような気がしてならいし……けれどそれは一番大切なことだと思うんだ。子供にばかり構って私に構ってくれなくなるとか悲しすぎるもん。
「もちろん愛してあげる。」
少しの不安から心臓をばくばくと大音量で鳴らす。そしてそのまま昔よりもキラキラと輝く目を見つめつつその答えを待っていれば、ウーゴは私の頬に手を添えながらサラリと宣言をしてくれた。
「だからシニーもぼく達の子とぼくのことも、いっぱい愛して。」
くすぐったそうに笑いながら額をくっ付けてきたウーゴはそのまま脚を使って私を横へと倒してきて、見合うように寝転ぶとゆっくりと唇にキスをする。何度も何度も啄むように重ねられ度に頭がふわふわするし、今まさにウーゴに愛されているっていう事実まで重なるとそれだけで私の胸は満たされた。
(昔は私がリードしてたのになぁ。)
触れられるくすぐったさに少し身じろぎながら小さい頃を思い出す。昔は私がウーゴの手を引っ張っていたのに今ではウーゴの方が私の手を引っ張ってくれるっていうことが凄く不思議でたまらない。流れるように自然に握られた大きな手を抜け切った力のまま握り返しながら、奇妙だなとか考える。
きっといろんなことがあったんだろうな。怖いと思う出来事も汚れが目立つと感じる出来事も、それでもウーゴは頑張ってきたはずだ。優しい人だからきっと支えてくれる人の期待に応えようとして、見栄を張ったりしたかもしれない。時にはキレてしまったかも。それでも許してくれる人達がいて、ウーゴもまた心を許せる人達がいて……触れて触れ合って彼は変わった。走る勇気を手に入れて、力強くなって今私とここにいる。
(ありがとう、皆。)
伝えられるか分からないけれど、もしも私達の子供になってくれたらたくさんその子を愛してあげたい。最高のお母さんだと思ってくれるように、最高のお父さんだと思ってくれるように。たくさん感謝を返していけたら嬉しい。今があるのは貴方がいてくれたからだよってことを伝える気持ちのままに、その子を力いっぱいたくさん抱きしめてあげたい。
「ねぇウーゴ、三人の中だと誰に一番来てほしい?」
トロイメライはまだまだ終わらない。
「誰でもいいとは思うんだ……もしも強いて言えるなら、一番心配な人だといいな。」
道が見える限り、私達はずっとその星を追いかけ続ける。
「たとえ違くても名前は彼に近いものがいいな。」
彼らが同じ空の下にいることを信じて、いつかまた会えることを信じてまたこの人にとって大切な存在になってくれることを祈って、
私達は愛を紡ぐ。
生者の明日
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