思い出のあとさき

夜明けまではまだ遠い


「合計十九ドルです」

「はい、お願いします」

 青いビニール袋がガサリと音を立てる。レジに立つ女の子が頬を赤くしてディックの顔を見ていた。珍しい反応ではないので笑顔とともにお礼を言ってドラッグストアを出る。
 時刻は夜十一時を回っており、人通りは少なかった。歩いて五分ほどのアパートへ帰ると、どの部屋も明りが消えている。自分の部屋にも明りがついていないことを確認し、ディックは思わずため息をついた。
 
 ジェイソンの奴、まだ寝てるのか
 
 酔いつぶれた彼をアパートまで運び、ベッドに放り出したは良いものの、一向に起きる気配のないジェイソンを持てあましていたのだ。とりあえず買い物をしている間に目を覚ませばいいと思っていたが、この分だと叶わぬ願いだったらしい。
 右手に持ったビニール袋の乾いた音を聞きながら階段を登って行く。鉄の足場に靴底がぶつかり、カツンカツンと音を立てた。静まりかえった夜の空気に、足音だけがやたら大きく響く。部屋のドアを開ける音でさえ誰かの迷惑になってしまいそうな、そんな静けさだ。
 
「ただいま」

 念のため声をかけてみるが、薄暗い部屋から返事はない。読みかけの本がリビングのローテーブルに三冊ほど積み上げられていて、ソファの背もたれにスウェットの上下が引っかかっていた。そういえば今朝脱いだまま片付けるのを忘れていた。まあ明日片付ければいいだろう。
 生活感溢れるリビングを明りも付けずに素通りし、ベッドルームへ向かう。そこもやはり薄暗かったが、カーテンを全開にして出て行ったので、月明かりが差し込んでいた。無論、人の部屋で図々しくも寝こけている酔っぱらいに対する嫌がらせ目的だ。
 その酔っぱらいはと言えば、青白い明かりに照らされても相変わらずいびきをかいて眠っている。ジャケットは脱がせてハンガーに掛けてあるが、薄いブルーのワイシャツとベージュのチノパンツはそのままだ。このまま寝かせていてはどちらもシワになってしまうだろう。サイドテーブルに買い物袋を置いて、客の顔を覗きこむ。
 
「おい、起きろジェイソン。せめて着替えろ」

「んー」

 肩を揺すって起しても、男は眉を顰めて唸るだけだ。少しでも目を覚ませば水をのませるなりなんなりしてやれそうなものだが、現状ではそれも難しい。数秒能天気な寝顔を睨みつけ、よく声が聞こえるように顔を少し耳元へ近づけた。
 
「おい、自分でやらないなら僕が脱がせるぞ」

「んあー」

 返事をするということは、まあ一応こちらの言う事は聞こえているのだろう。シラフならここで飛び起きるくらいのリアクションは期待できたのだが、残念なことにまだ酔っているらしい。半ばヤケになったディックは、大の字に寝転がる男の腹に跨り、ゆっくりとシャツのボタンを外していった。
 月明かりに照らされた肌は白く、ボタンをひとつ外すごとに傷痕だらけの肌が露わになっていく。血管さえ透けてしまいそうな白の上に、ひきつったような無数の傷痕。理想的な形でついた筋肉は、月明かりに照らされて男の肌に濃い影を落している。上下する腹がジェイソンの生存を知らせていた。ヘソの窪みに親指が触れると、逞しい体が一瞬だけ強ばる。太い腕を持ち上げ、シャツを脱がせても男が目覚める様子はなかった。
 
「いい加減起きろよ、ジェイソン」

「んー……?」

「ズボンも脱がすからな」

 ズボンにひとつだけついているボタンを、指で弾く様にして外した。チャックを下げていくと、ジジジ、と独特の金属音がしてくる。開いたズボンの隙間から腸骨の凹凸がのぞいていた。中指で骨の輪郭をなぞると、形の良い眉が少し歪む。腸骨をなぞった指がズボンに到達した後は、わざと指が触れるようにズボンを足首たりまで滑らせていった。硬い筋肉がついた足は不思議と肌触りがよく、絹のように滑る。ズボンを脱がせきった時、床に投げ捨てたい衝動に駆られたが、なんとか堪えてシャツとともに丁寧に畳み、サイドテーブルの上に置いた。その拍子で横に鎮座している買い物袋が音を立て、だからというわけではないだろうがジェイソンの目が開く。
 
「んぁ……?」

 間抜けな声とともに睫毛の隙間から現れたのはアイスブルーの瞳だ。月夜によく似合う冷たい色。ともすれば月光と同じ色にすら思える冴え冴えとしたそれが、自分よりも遙かに感情に流されやすく、時に炎よりも強く輝くことをディックは知っている。
 薄い唇が小さく開き、隙間から白い歯が覗く。静かな空間にどこか舌足らずなバリトンボイスが響いた。
 
「ここどこ?」

「僕の家。今はお前を勝手に着替えさせてる」

「あー、わりぃー」

 蕩けたアイスブルーがディックを捉えた。妙に艶めいている。上半身は無防備にさらけ出され、身につけているものといえば下着だけ。白いシーツに投げ出された、白く長い手足が月に照らされ影に沈んでいる。青白い光と影のコントラスト。頬はまだ微かに赤く、傷痕がついて薄くなった皮膚も仄かに色づいていた。薄暗い部屋に浮かび上がる、彫刻の様な逞しい肢体。抵抗する様子もないそれを見て、ディックは今更喉を鳴らす。
 いつまでも動かない男を不審に思ったのだろう。ジェイソンがパチパチと三度瞬きをした。
 
「ディック?」

 先程より幾分か酔いはさめたらしい。ハッキリ聞き取れるようになったバリトンボイスに呼ばれ、ロマ人が正気を取り戻す。
 いや、正気ではない。
 ディックだって相当酔っていたし、今や目の前の男が獲物にしか見えていなかった。
 ジェイソンの肩のすぐ上に手をつく。腕に体重を乗せて身を屈めると、至近距離に弟の顔があった。多少関係がギクシャクしていた、すぐ下の弟。出会った頃から生意気盛りだった初恋の人。
 
「ジェイソン、お前、僕が子供の頃のこと忘れてるって言ってたな。サーカスの頃のこと」

 ジェイソンからの返答はなかった。彼はただまっすぐに兄を見ている。ディックの右手が弟の頬に触れた。中指と薬指がゆるやかな曲線をなぞり、酒のせいで赤みのさした唇をなぞる。
 
「そうじゃないんだ。覚えてたんだよ。僕からお前に話し掛けたことも、移動販売のアイスクリームをお前に奢ったことも、今度チケット送るって言ってそれっきりになったことも、全部覚えてたんだ」

 氷の色をした瞳にディックの姿が映っている。不思議そうに兄を見上げる彼は本当にこの状況が理解できていないのだろうか?
 頬と唇をなぞられ、ベッドで男に押し倒されている意味がわからない?
 自分も男だからありえないと思っているのだろうか。
 
「おい、ディック……?」

 ジェイソンの声はすこし固かった。ほら、やはりちゃんと理解している。この状況がどういうものか。
 ディックの指がまた白い肌の上を滑り、今度は耳朶に触れた。
 
「ただ、あの子がお前だと思わなかった。お前に言われるまで、お前とあの子が結びつかなかったんだ」

 今ならこの男に初恋の面影を見いだせる。
 氷のような色の目に、その黒髪に、ふと見せる子供のような笑顔にかつての面影がまだ残っている。
 本人に言われるまで気付かなかったのは、迂闊としかいいようがないが。
 
「しょうがないだろ? 女の子だと思ってたんだから。まさか数年後に初恋の子が義理の弟になるなんて、想像もできないじゃないか」

 ジェイソンが目を見開いた。口が大きく開いたが、結局言葉を発することはない。
 ディックはシーツを掴んでいた左手をゆっくり後方へ移動させ、指の腹で弟の肩を撫でた。そこから体の輪郭をなぞり、胸元から脇腹へと手を降ろす。
 この動きの意図を、ジェイソンはもう理解できるはずだ。
 
「ということで、お前は今"お前で初恋をすませた男の部屋のベッド"に"下着姿で寝てる"わけなんだけど、お前も男なんだからこれがどんなにヤバい状況かは理解できるよな?」

 さらに顔を近づけ、耳朶を掴んでいた手で弟の顎を持ち上げた。抵抗はない。ただシーツに沈んだ彼の両腕がピクリと動いたようだった。
 本当ならここで突き飛ばして部屋を出て行くべきだ。ジェイソンの目が服の場所を確認している。この男ならディックを突き飛ばしたあと服を持って部屋を出て行くくらい容易いはずだ。
 
「お前が本気で抵抗したらやめてやるよ。力が入らないとか、頭が回らないとかいうなよ? もうそこまで酔ってないはずだ」

 ゆっくりと顔を近づけていく。息が掛るほどの至近距離でもジェイソンは抵抗しなかった。色づいた唇にそっと吸い付くと、弟の瞳が少しだけ細められる。下唇に吸い付いて音を立て、舌を伸ばして上唇をなぞってやった。
 ジェイソンの漏らした音がディックの口内に入ってくる。
 
「は……」

 呼吸とも、吐息ともつかないそれを飲み込み、開いた口に舌をねじ込む。歯茎をなで上げて更に奥へと侵入し、上あごをなぞると男の体が跳ねた。
 
「ん、ぅ」

 シーツに沈んでいた両腕が動く。青白く照らされた腕がディックの首に伸びてきた。背中に両手の当たる感触。肩胛骨のあたりに触れられ、縋り付くように巻き付く腕にクラクラした。
 
「ジェイ、は……ぁっ」

「ん、ディック、んっ」

 音を相手の口に流し込み、舌同士を擦り合わせる。ざらりとした表面を擦ってから側面をなで上げ、また表面に戻ってピストン運動をくり返す。相手の舌もディックに応えるように動き始め、クチュクチュと音を響かせながら舌同士が絡み合った。最期に下唇を軽く噛んで口を離す。
 弟の口から銀糸が伸びて、解放されたそこから名残惜しそうな音が漏れた。
 
「んぁ」

 舌足らずな声。いつもより少し高めの鼻にかかるような音だ。蕩けた目が恨めしげにディックを見ている。こんな顔のできる男だったのか。甘えるような表情を初めて見る。込み上げる笑みをそのまま口元に浮かべ、ディックの唇がジェイソンの顎に触れた。唇で愛撫するように肌を撫で、片方の手で頬を何度も撫でる。耳朶を弄び髪の間に指を入れ、もう片方の手は脇から腹筋にかけての輪郭をまさぐるように滑らせた。筋肉の凹凸を指の先で楽しみ、骨の形を肌の上から掴んだり挟んだりして、あげく胸部にふたつ立ち上がった茱萸の実を引っ掻いてみる。充血したそれはなかなかの感度を誇るらしく、逞しい胸板についた飾りのわりに、今やすっかりサクランボのような色をしていた。男の腰が軽いアーチを描き、シーツから浮き上がる。
 弟の反応に気を良くしたディックが、上半身をまさぐっていた手を止めた。腫れ上がった乳首をつまみ上げ、擦り上げ、胸筋自体を押し上げるように揉みしだく。その度ジェイソンの体が揺らめき、赤い唇から小さく悩ましげな吐息が漏れた。
 唇は顎から首に至り、チュクチュクとわざとらしい音を立てては白い肌に赤い鬱血痕を残していく。鎖骨の形を舌でなぞり、肩に再び花弁を散らすと、片手でジェイソンの頬を何度も撫でながら、とうとう口づけが胸部に到達する。弄ばれる片割れをよそにぽつんと佇んでいた小さな粒に唇を被せ、舌先で押しつぶしこね回しながら思いきり音を立て吸い付いた。
 ジェイソンの体が仰け反り、大きく開いた口元から悲鳴が漏れる。
 
「ぁっ、はぁあぁっ……!?」

 しばらく両の突起を弄り回していると、弟の手がディックの髪を掴んだ。てっきり引き離されるのかと思ったが、彼は力のはいっていない腕で髪の間に指を入れ、押しつけるでも引き離すでもなく体を震わせるだけだった。
 
「んっ、ふっ、ぅ、う……」

 頭上で啜り泣きともうめき声ともとれない声がする。これが大の男の上げる声だろうか。擦れていて甘美で、鼻に掛る。ホットチョコレートのようにドロリと喉に絡みつくような、甘ったるいバリトン。声がもっと聞きたくて、しばらく夢中になって淡い真珠を責め立てていたが、ディックの両腕がするすると肌の上を滑り、腰に触れたあたりでジェイソンが吐息とは違う音をあげた。
 
「っ、おい」

 少し怖じ気づいた声は、それでも熱に浮かされたように迫力がない。ディックが顔をあげると、泣き出しそうな顔の男と目が合った。キラキラと輝くアイスブルーが眩しい。幼い初恋を思い出させる熱量の輝きだ。それよりももっと艶やかで淫靡な光。なにかを期待するような、縋るような目線。
 知らず口元に笑みを浮かべたディックは、目の前の獲物をいたぶるような声色で嘲笑を吐き出した。
 
「そんな顔で声だけあげられても、もっとしてって言ってるようにしか聞こえないぞ」

 一呼吸のうちに下着を脱がせると、今度こそ衝動に任せて布を床に投げ捨てた。ゆるやかに立ち上がった熱い肉が目を引く。アルコールのせいか、完全に充血してはいないようだ。あまり元気とは言えない海綿体に軽く息を吹きかけたあと、薄い傷痕だらけの足を肩に担ぎ、太腿に頬ずりしてからこれ見よがしに舐めあげる。ビクビクと筋肉が痙攣し、ジェイソンが体を妖しくくねらせた。抵抗はない。ならば続行決定だ。
 サイドテーブルに手を伸ばし、買い物袋を乱暴に掴むと、中にあるものをベッドの上にぶちまけた。十個入りのコンドームとラブローション。まずコンドームをひとつ取りだして右手の中指につけた。薄い膜に覆われた指をローションで濡らす。手首にまで滴るほどの量をつけたあと、左手で目の前に晒された臀丘を掴み押し広げる。中央にある暗色の淫花に、濡れそぼった中指の腹を押しつけた。糸を引き結んだように縮こまっている入り口を濡れた指でゆっくりほぐしていく。皺のひとつひとつを伸ばすよう丁寧に撫でていくと、少しだけ開いた門の向こうに紅い肉壁が覗いていた。
 ジェイソンが少しだけ顔をあげ、昂揚した頬に手の甲を押し当てたままディックを睨む。
 
「なにが抵抗したらやめるだよ。そんなもんまで買って、ヤる気満々じゃねぇか」

「そうか?」

 先程よりは反抗的な響きの声だ。それでも甘いものが混じっている。ディックは笑顔のままくすんだ入り口に中指の第一関節までを押し込んだ。ジェイソンが後頭部をシーツに叩きつけ、汗ばんだ喉を晒す。担いだ足に力が入り、男のつま先が美しいアーチを描いた。
 
「むしろこれを買いに行ったのはお前に逃げ道をやるためだ。買い物してる間にお前の酔いが醒めてたら、こんなことしなかった」

 弟の呼吸は荒く、胸と腹が大きく動いていた。指をさらに第二関節まで押し込める。入り口が締まりこれ以上の侵入を拒んだ。
 ジェイソンの口から途切れ途切れに言葉が吐き出される。
 
「どう、だかっ……」

「もうすっかりいつも通りの減らず口だな、ジェイソン? 反抗的なのは口だけだけど」

「うるせっ、ひっ!」

 指を根本まで入れる。ローションまみれの指はジェイソンを傷つけることなく遍路へと入り込んでいった。少しだけ指をくねらせると、男が派手に息を呑み、両の手でシーツを掴んで小さく呻いた。
 
「力抜けよ」

「やって、る」

「深呼吸しろ」

 口では反抗したくせに、ディックの指令は存外素直にきくらしい。胸元がゆっくりと上下し、薄い唇から呼吸音が漏れた。散々弄られた突起は胸が上下するたび月光に照らされ、こびりついた唾液でテラテラといやらしく光っている。必死に呼吸する男の姿に思わず目を細めたディックは、加虐的な猫なで声でもって弟の耳朶を刺激した。
 
「そう、上手。ゆっくり吐いて、吸って、そのまま続けて」

 幾分か力の抜けた太腿にキスをし、花弁をひとつ散らせた後人差し指をゆっくりと動かす。抜き出した指にさらにローションを追加し、今度は先程より少し早い速度で指を押し入れた。
 
「んっ、ぐぅっ……!」

「ほらジェイ、深呼吸」

 宥めるように足を撫でてやり、人差し指の抜き差しをくり返す。スムーズに指を動かせるようになったあたりで、ゴムの中に人差し指もいれることにした。もう一度指にローションを付け、また淫花を押し広げるところから始める。
 ジェイソンを傷つけるのは本意ではない。どうせならこのまま気持ち良くなってもらいたいし、逃げる口実を与えたくもない。ここまで無抵抗できたのだ。ディックがヘマをやらかさなければこの男は逃げないだろう。
 挿入する指を二本に増やし、繊細な粘膜を傷つけないよう動かしていく。グプグプとローションの泡立つ音がして、慣らされた菊座がすんなりと指二本を飲み込めるようになった頃、ディックはいつのまにか額に浮かんでいた汗を拭い、脱力したような表情の弟を見た。
 なかなかに扇情的だ。弛緩した口元から唾液が一筋零れ唇を濡らしている。アイスブルーの瞳は何処とも知れぬ虚空を見つめ、熱に浮かされたように揺らめいていた。
 このまま犯してしまいたい衝動に駆られるも、さすがに指二本をやっと飲み込めるようになった遍路に、いきなり肉鉾を打ち込むのは酷すぎる。
 
「なあ、お前後ろはこれが初めてか?」

「な、にっ……バカ、言ってンだ」

 コンドームの中に薬指も入れて、再びローションで湿らせる。暗色の肉門はすでにヒクヒクと脈打ち、紅い肉壁の覗く孔から泡立ったローションを滴らせていた。
 
「それはどういう意味で?」
 
 分け入るように三本の指を入れると、ジェイソンの逞しい喉元から「ひっ!」と、平素では想像できないような声が飛び出す。グチュグチュと音を立てる蕾を指でかき混ぜながらディックが言った。
 
「お前、なんか後ろで感じてるみたいじゃないか。普通最初からこんな簡単にはいかないらしいぞ。もう指三本余裕だし」

「っ、る、せぇなっ」

 潤んだ目でジェイソンがディックを睨む。アルコールはほぼ抜けているはずなのに顔が紅い。呼吸は乱れ、首筋から腹部にかけて白い肌に鬱血痕がちりばめられている。逞しく成長した男の中心部にある牡茎は緩やかな角度を保ったままだ。浅黒い色の屹立にディックの左手が絡む。指で血管の浮き出た茎胴を刺激し、手のひらを上下に動かす。赤く腫れ上がった先端の割れ目を指でなぞり、同時に後ろの動きも早めていった。
 
「あっ、んっ」

 ジェイソンの腹部がゆっくりと上下する。足の筋肉が膨張し初め、体に力が入っているようだ。彼の穂先のくびれに指をかけ亀頭全体を手のひらで包み込む。バルブを回すように手を捻ると、弟の体がビクリと跳ねた。

「ひっ

 肩に担いだ足が汗ばんでいく。甘ったるく擦れたバリトンボイスが部屋中に満ちて、水音と一緒にディックの鼓膜を刺激していた。白い体が小刻みに跳ねている。汗が月光に反射し、シーツを握る腕に力が籠った。ローションと汗が白い布にシミを作っている。
 
「なあ、お前、ロイと組んでた時あったよな? その時食われたりしてないだろうな」

 肉壁の中で指を折り曲げ、粘膜を引っ掻く。ヌプリと音がしてシーツの上にローションが溢れた。男根の先から透明な液が出てディックの手を汚す。指を蠢かせて内壁を擦るたびに男のつま先がアーチを描きビクビクと震えた。

「そんなワケっ ねぇだろっ ひっ あっ あぁあ

「これが初めてならお前、こっちの才能あるよ」

「なんだっ それっ んっ あっ あっ

 完全に蕩けた声が水音と混ざり合う。甘ったるい声だ。体格のわりに細い腰が揺らめいてディックを誘っている。声同様すっかり蕩けた蕾から指を引き抜き、担いでいた足にまた口づけを落した。
 
「そろそろいいかな。いれるぞ、ジェイソン」

「んっ ぁっ ま、て よ……

 肩で息をしながら男が起き上がる。ディックが指につけていたゴムをゴミ箱に投げ捨てるのを、薄氷色の瞳が見ていた。ディックが顔をあげ、ジェイソンと視線を合わせる。口元に笑みを浮かべてわざとらしく首を傾げて見せた。
 
「どうした? 指は三本入っても、流石にセックスは嫌か?」

「そうやって挑発すりゃ俺の頭に血が上るとでも思ってんだろ」

 ジェイソンが手に取ったのはコンドームの入った箱だ。そこから袋を一枚取りだし、歯で包装を噛み切る。ゴムを取りだしてなにをするのかと思ったら、あろうことか先端に口付けてこれ見よがしに咥えて見せる。唇の上にゴムを乗せ、ディックの両膝を手で押し広げると、ズボンのボタンを指で弾き、ジッパーを下げて下着ごと脱がしにかかった。露わになった下半身の中央で既に痛いほど勃起した剛直を手に取ると、ジェイソンが上目遣いでディックを見上げる。彼はディックと目を合わせたまま屹立に口づけし、唇だけでゴムを推し進めながら上反りを飲み込んでいく。ペニスの半ばで苦しそうに眉を顰めたものの、根本までゴムを被せた。最期に膜の上から男根を舐めあげ、赤い口元に半月型の笑みを浮かべる。
 
「自分でつけるより、コッチのがイイだろ?」
 
 ディックが喉を鳴らす。こちらも笑みを浮かべてはいたが、その実ほぼ余裕がない。心臓が爆発しそうだ。耳元で鼓動が五月蠅い。今にでも目の前の獲物を押し倒したくて仕方がない。
 
「やっぱりお前、経験あるだろ」

「さあな、どっちだと思う?」

 ジェイソンが今度はローションをとり、手のひらにべったりと垂らしてみせた。ぬらぬらと光る手でディックの芯柱をしごき始める。緩やかな電撃が全身に広まっていく感覚。いつのまにか至近距離にまで近づいてきたジェイソンが、今度は自分からディックに口付けてきた。唇を甘噛みして舌を侵入させ、ディックのものと絡めて音を立てる。手は相変わらず兄の男根をしごいていたが、ディックが手を掴むと素直に動作を止めた。
 ジェイソンの逞しい肩を掴んでベッドに押し倒すと、水色の目が愉しそうに細められる。挑発的な笑みを見た瞬間ディックの頭に血が上り、相手の両膝を掴んでその奥を暴き立てるように押し広げた。
 
「あっ

 誘うような甘い声。充分に慣らし、濡れそぼった洞窟が目の前でぽっかりと口を開けている。ディックは獲物の手でローションまみれになった赤黒い塊に手を添え、導かれるように屹立を孔の中に押し込めた。指の時とは違い、やや性急に奥まで侵入すると、内壁が絡みついて肉を削るような感触がした。括約筋がキュウッ、と締まって直腸全体が生き物のように蠢く。
 ジェイソンの体に力が入り、大きく開いた口元から悲鳴のような声が漏れた。
 
「あ゛ぁ゛あぅおおっ

 貫かれた瞬間の断末魔と共に、男の足がディックの腰に絡みつく。腕がシーツを離し、代わりにディックの首に縋り付いてきた。自然と体が引き寄せられ、お互いの顔が至近距離で向かい合う。快感に弛緩した弟の顔は予想以上に破壊力があり、唾液に濡れた唇を親指で撫でてやると、後口が嬉しそうにディックのソレを締め付けた。
 
「すごい、ジェイッ…… 女、みたいだっ」

 腰を打ち付けると、その度ジェイソンの体が悶え、汗に濡れた黒髪が白い肌に張り付く。内壁をゴリゴリと削られながら蹂躙され続ける獲物がディックを恨めしそうに見た。
 
「ぉっ あっ そ、そういう 時、はっ 女 より あっ イイッ って あっ あぁっ ぉ んっ い う゛ もん だぜっ

「具合は女よりイイ……」

 腰に絡みつく足に力が籠る。ジェイソンは全身を壊れた機械のように痙攣させ、浮き上がった腰が揺らめいていた。その度ゆるやかに充血した鎌首が情けなく震え、涙のように透明な液をトロトロと吐き出す。足の付け根を伝って尻まで至る液筋はまるで愛液のようだ。

「お前っ 最低っ あっ あっ あぉおおぉ゛ あぁっ

 直腸の上方、コリコリと硬い場所を突いてやると弟の体がバネ仕掛けのオモチャを思わせる勢いで跳ね上がる。
 
「あぁああああっ

 首を思いきり引き寄せられ、充血した突起のある胸筋に押しつけられた。その反応に気を良くし、勃起した木の実を再び口に含む。乳首を押しつぶし、吸い付いて刺激しながら、膨らんだ前立腺を執拗に責め立てた。
 
「ひっ あっ あ゛ んぁ でぃっく あっ あぁああ ぉ お゛ あ゛ あ゛ー

 ズブズブと肉を抉る音がする。直腸が波打つように収縮し、ディックの肉竿を締め付けた。先程から奇声を発し悶絶する男は、全身から汗を噴き出させ、ディックの体に縋り付いたままガクガクと小刻みに全身を痙攣させている。
 アイスブルーの瞳が蕩けきり、熱に浮かされたようにディックを見つめていた。恍惚とした顔はともすれば慈愛の象徴のようで、惚けた男の唇を吸えばひどく嬉しそうに笑う。
 
「んっ んぅ でぃっく ぉ、あっ ぉぉ

 先程から彼の全身は震えっぱなしになっていて、口から零れた唾液を拭おうともしていない。潤んだ目がどこを見るともなく泳ぎだし、意味のない嬌声が響く。表情は完全に弛緩しているのに、体のほうは必死にディックにしがみつき、啜り泣く姿はいじらしささえ感じられた。すでに我を忘れ陶酔感の波に呑まれた獲物を、さらに激しく追い立て続け、ディックの中枢もやっと絶頂の波がくる。
 
「あっ、ジェイっ……! ジェイ ジェイソンっ

 名前を呼ぶと臀孔がさらにキツく締まった。お互いに体を痙攣させ、ディックの腰が跳ね上がる。それを押さえつけるようにジェイソンの足が強く絡みつき、結果後口に腰を擦りつけるようにして絶頂を迎えた男は、自分の下でまだうっとりと弛緩している弟の頬をそっと撫でた。
 手のひらで肌をさすってやると、いつもの彼からは考えられないような笑顔を浮かべ手にすり寄ってくる。
 
「んぅ

 その姿を見て、性懲りもなく体の芯が熱くなった。
 
「なあ、お前さっき後ろでイッたよな? ヨかった?」

 するとさっきまで幸せそうだったジェイソンの顔が少しだけ歪み、拗ねたようにディックを見た。
 
「すこし黙れねぇのかよ、グレイソン

 それがやはり平素では想像できないような甘えた拗ね方だったので、焼け石に水どころか火に油を注いだ状態になってしまう。もはや芯どころではなく全身を熱くしたディックは、汗まみれの体を相手に押しつけ相手の腰をゆっくりとなで上げた。
 
「あー、抜きたくない」

 ディックがゆっくりと腰を動かし始めたため、ジェイソンが悲鳴を上げる。

「はぁ!? てめぇふざけんなよ!」

「もう一回する」

 ヌチャヌチャと再び水音が響いてくる。ジェイソンがディックを引き離そうともがくが、既に体が小刻みに痙攣しはじめ、腕に力が入らないようだった。
 かわりにトロンとした目でディックを睨みつけ、困った様な震える声を吐き出す。

「おい正気かよ、あっ やめろ

 迫力を欠いた音を、形だけの異論ごと飲み込むように口付ける。唇を丁寧に舐めてから、赤くそまった耳朶にそっと息を吹きかけた。
 
「お前は一回で足りたのか?」

 ジェイソンの体が震える。もう一度弛緩した口元に吸い付くと、ディックの胸元を押していた腕がすぐに首に巻き付いてきた。素直で大変よろしい。
 脱力した弟の足を再び肩に担いだディックは、既に快感の波に翻弄されつつあるジェイソンを見下ろし笑った。
 獲物を狩る獣の笑顔で、いたぶるように甘い声を出す。
 
「次はバックでシてみようか?」

「好きにしろよ、変態

「その言い方最高にそそる」

 ジェイソンに寝返りを促すと、やはり素直にうつ伏せになった。その耳元にまた口を近づけ、今度は耳朶を甘噛みして反応を見る。
 
「愛してる、僕のリトルウイング」

 ジェイソンの顔が少し動いてディックを見た。彼の手が兄の腕を引っ張り、突然のことに体勢を崩したディックとジェイソンの顔が近づく。
 振り返るように身を捩ったジェイソンが、返事の変わりとでも言う様にディックに軽いキスをした。
 
 時刻は深夜一時過ぎ。月はまだ部屋を照らしている。
 夜明けまではまだ遠い。
[*前]- 3 - [次#]
[しおりを挟む]
目次 戻る
美しくなんて死ねると思うな