3「あ……あぁ〜……思い出した……思い出したくなかった……できればこれが夢であってほしい……」 一言で言うと最悪だ。 ディックは吐き気と頭痛に悩まされながら盛大にため息をつく。酒の間違いでは許されないレベルのことをしでかしていた。 「結婚証明書をどうしたら……離婚? 離婚したほうがいいのか? いや、でも結婚してすぐに離婚っていうのもどうなんだ?」 それを言えば酔った勢いで弟と結婚というのもどうだという話になるが、過去のことはもう仕方が無い。やってしまったものは仕方が無い。 「くそ、とりあえずもう帰らないと。飛行機、飛行機の手配」 フラフラとベッドから立ち上がり、床に落ちた結婚証明書と隣で眠るジェイソンを見比べた。数秒迷って、書類をそっと拾い上げくるくると丸める。 飛行機の手配をしたらジェイソンを起こして、昨日のことを覚えていないようなら事情を説明しなければならない。覚えていたら今後の対応を話し合う。離婚するのかしないのか、そもそも兄弟同士で酔った勢いで肉体関係を持ってしまった状況をどうするべきか。 なかったことにはしたくないし、離婚もしたくないなとディックは思っていた。 自分が酔った勢いで弟に結婚を迫ったのも肉体関係も持ってしまったのも心底驚きだったが、酔った勢いという以外に嫌悪感はない。 つまりきっと、そういうことだ。 もっと違う手順があっただろうとは思う。自覚するにも、関係を持つにも。 けれども過去のことはもう仕方が無い。やってしまったものは仕方が無い。 これからどれだけ誠実な対応をするかが勝負の分かれ目になるだろう。 カジノで勝った金はたしかもう600万ほど残っていたはずだ。結婚証明書を自分の荷物の中にいれたディックは、もしジェイソンがこの状況を嫌がらなければ、300万ずつ山分けになるだろう金で後日指輪を買おうと決心した。 勝った分すべてを使ってしまうことになるが仕方が無い。 ここはラスベガス。一攫千金の街。 一夜にして大金の手に入る街。 それと同時に、一夜にして大金が消える街でもあるのだ。 [しおりを挟む] 目次 戻る |