2018.7.19!

Happy Birthday My Robin!


 ティム・ドレイクが所有するマンションは地下に膨大な資財を注ぎ込んだ"秘密基地"が設置されている。バットケイブのレッドロビン版と言われればそれまでだが、彼が自分なりに自分が最も使いやすい形を追求した結果そうなっただけのことだ。あの洞窟でヒーロー活動をしていた期間が長く、仕事のイロハもそこで教わったのだから、ティムの仕事場だって利便性と使いやすさを追求すれば、必然バットケイブと似たようなものになってしまう。
 活動拠点は常に適度な環境を保つべきであるという概念も、ティムはバットケイブから学び取った。
 故に空調設備による温度管理は病院並みで、照明は周囲の環境のせいで多少薄暗く感じられるものの、不便なほどではない。仕事で二、三日籠もれば、あっという間に季節も日付も分からない人間に成り果ててしまうわけだ。
 所用で基地に籠もりきりだったティムがやっと巣穴から這い出てきた時、世間は七月も中旬にさしかかっており、電子時計は12:50という時間の右上に、小さく7.19という数字を映し出していた。
 なにか忘れているような気がしてぼんやりと立ち止まるも、腹が減っているのと体内時計の大幅なズレによって上手く頭が働かない。
 とにかくデリバリーでマカロニチーズでも頼もうと思い至り、電話をとると見計らったようなタイミングで着信音が鳴り響いた。
 発信者覧にはバート・アレンと表示されている。
 同僚のヒーローであるが、同時に幼なじみと言うべき長い付き合いの男だ。プライベート用の回線にかけてくるということは、プライベートの用事なのだろう。
 通話ボタンを押して末端を耳に押し当てる。

「もしもし?」

『やっほー! 今暇!? 大丈夫? 家にいるんだよね!?』

「いきなりご挨拶だな。家にいるよ。丁度仕事一段落したところ」

『そっか! じゃあ僕らドアの前にいるからさ、入れて欲しいんだよね!』

「僕"ら"?」

『コナー!』

「あぁ、はいはい。それで」

 何の用、と尋ねる前に通話が途切れた。いつものことだが大分せっかちな友人だ。
 幼なじみがふたり揃ってなんの用があるのか、内心首を傾げながらドアを開けると、目の前が黄色一色で溢れかえる。

「うわぁ!?」

 声を上げてから、視界を埋めた黄色がヒマワリだと気付く。青い包み紙に包装された、ヒマワリとかすみ草の花束だ。
 溢れんばかりの夏の香りが鼻腔に広がり、鮮やかな花の横から笑顔の友人が顔をだす。
 ブラウンのセミロングに、イエローの大きな目。それこそヒマワリのような笑顔が、まだ幼さを残す顔いっぱいに広がっている。
 バート・アレンだ。

「ティムすごい顔! 寝不足なんじゃない? 仕事一段落したなら今日はゆっくり寝た方がいいよ! この花束受け取って僕らとパーティーした後の話だけどね!」

 明るい声がティムの鼓膜を揺さぶった。無理矢理押しつけられた花束を受け取ると、バートがズカズカ家に入り込んでくる。手には大きなビニール袋が下がっていて、総菜や飲み物や菓子が大量に詰め込まれている。
 彼のすぐ後に入ってきたのは短く揃えた黒髪に青い目を持つ少年。スーパーボーイことコナー・ケントだ。

「なんだよティム、間抜け面だな。なにキョトンとしてんの?」

「いや、別に」

 顔を覗き込まれたティムが思わず仰け反る。コナーは両手にピザとチキンを五箱ずつと、ケーキをひとつ抱えていた。大半がバートの胃袋に収まる予定のものだろう。
 すでにソファに座って寛いでいるバートが、テレビのリモコンを弄りながらビニール袋の中身を漁る。

「ティムもコーラ飲むでしょ? 僕自分用の奴確保するけど、コナーとティムはそんなに飲まないからふたりで一本でいいよね! コップと皿出したからね!」

 部屋中に閃光が走り、コナーの持っていたピザとチキンが一箱ずつテーブルに広げられた。コナーの腕からケーキが消えた途端、キッチンでバタンと音がした気がしたので、おそらくあれは冷蔵庫に入ったのだろう。
 比喩ではなく、目にもとまらぬ速さでテーブルセッティングをしたバートが、ふたたびソファの上に落ち着いた。

「ほら! 今日はティムが主役なんだから早く座って!」

「え?」

 言われたティムが首を傾げ、コナーが斜め上でからかうように目を細める。バートは大きな目をこぼれ落ちそうなほどに見開いた後、眉尻を下げて情けない声をだした。

「自分の誕生日忘れてたのぉお〜!?」

 うそだぁ! と叫んだバートを指さし、コナーが笑う。

「だから言ったじゃんティムぜってぇ忘れてるって!!」

「やだー! 僕らが来なかったらどうせデリバリーでつまんないもの食べて寝てたんでしょ!」

「俺らが持ってきたのもデリバリーだけどな」

「コナー黙って!」

 バートの一喝に男が肩を竦めて見せた。顔に反省の色はなく、楽しそうにニヤニヤと笑っている。すこし不満げな顔をしていたスピードスターは、特性上心の切り替えも早いのか次の瞬間ニコリと笑い、ティムの背後に回って親友の肩に両手を置いた。

「まあいいや! よかったね、僕らが来て! さ、お祝いしよう!」

「よかったなぁ、ティム! 誕生日寝て過ごすなんてことにならなくて!」

 喜色満面の幼なじみふたりに、疲れた体をソファへ押しつけられる。花束を抱えたまま座ったティムは、大きな窓越しにゴッサムの街並みと、目が覚めるように鮮やかな夏の青空を見た。
 眩しい日差しを遮るように、親友ふたりが窓の前に立つ。

「Happy Birthday My Robin!」

 体の中に溜まった疲れがその瞬間に吹き飛んで、ティムは気がつけば友人ふたりと同様、満面の笑みを浮かべていた。

「Thank you My Heroes!」
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美しくなんて死ねると思うな