Reverseおっかしいだろ」 七月十九日。記念すべき誕生日に、ティム・ドレイクは非常に不機嫌だった。既にブルースやアルフレッドや、カサンドラやステフにはお祝いの言葉と、プレゼントを貰っている。なので、さっきまでは上機嫌だった。 そういえばダミアンも小生意気な前口上とともにプレゼントと一応お祝いだろうと認識できる言葉をくれた。クソガキだが可愛らしい所もわずかばかり残存している。 問題は、今ティムの目の前にいるアッパー系コミュ障星ミリオタ国ストーカー州代表の男である。 「まったくもって可笑しくないだろ! 親友の僕が君の誕生日を祝うのは当然の流れじゃないか! あっ、それとも祝辞が遅すぎて怒ってるの? ごめんごめん、出来れば最後に派手なお祝いをしたいと思って待ってたんだよ! 日付が変わると同時にお祝いするのもいいけど、やっぱり誕生日の最後を飾るのは特別な友人との特別な語らいだろ? そういう素敵な思い出とともに終える誕生日っていうのはきっと君の生涯における美しい思い出ベストテンに入るんじゃないかと思ってね!」 「いや、最悪だよ」 ユリシーズ。ミリタリーオタクで兵器収集家、性格と倫理観と道徳観念が見事に破壊された男。 なぜか今ティムの目の前にいる彼は、親友と称した少年の冷たい声を聞き、なぜか水を得た魚のようにベラベラと勢いよく喋り始めた。 「またまたそんなこと言って! 僕が開発してる兵器の設計図を持って来たんだ! 君と一緒に話がしたくてね! 君が今作ってる兵器の話も聞かせてよ! 兵器っていうよりあれは、超高性能なハイテク万能ナイフのようなものだよね! ボイスチェンジャーの高性能っぷりは目を見張るよ! でも索敵機能がすこし弱いよね。やっぱりブラザーアイを使ったら? 君と僕とブラザーアイなら世界中のどこに敵がいてもコンマ数秒で見つけることができると思うんだ!」 「遠慮する」 「頑なだなぁ! もしかしてブラザーアイを超えるAIを作ろうとか思ってる!? それはそれで楽しい試みだけど、それならやっぱりブラザーアイの解析から入るべきだと思うんだよね。かなり時間がかかるだろうけど、きっと有意義なデータが沢山取れるよ。なにせ未来の君が作った最高峰のAIなんだから! 開発途中の兵器じゃなくてやっぱりブラザーアイの話をしようか? 衛星を使うって言うアイデア自体はバットマンのものらしいけどそれをあそこまで完成させた未来の君はやはり天才と言うべきだと思うんだよね。ところでAIが自我を持ち始めるという問題点について君はどう思う? 僕としては自我を持ち始めたAIは兵器とは言えないと思うんだけど、高度な自己判断プログラムによって複雑な戦局を冷静に出来る可能性を考えたら、まあ一概に否定はできないと思うんだよね。その点ブラザーアイの不可解な行動や予想外の反応なんていうのは自我の芽生えと捉えるべきで、それが複雑な戦局の判断にどう影響するかについては今後のデータ集積が待たれるけど、安っぽいSF映画みたいに人間に干渉してきたりしないためにはやはりこれも古くさい理論ではあるけどアシモフの三原則を利用する他ないのかもしれないね。ただあの三原則は兵器に応用するには致命的な欠陥があって僕はどうにも好きになれないからなにか別の方法を考えてるんだけど、自我というものは制御できないからこそ自我なのであって、ある程度コントロールするためにはどうしても兵器とはかけ離れたプログラムを作るしかないんだよね。ジレンマだよね。僕も一週間程この問題に頭を悩ませてるんだけど、ティム! 君だったらどうやって対応する?」 「帰って」 おっかしいだろ、と、まだ続くマシンガントークをBGMにティムは思う。 なんかこう、折角誕生日なのだからもっとなにか、素敵な出来事とか思わず心が温かくなる出来事とかで一日が終わるべきだろう。 忙しくて家に集まれないバットファミリー全員から短いながらも一応祝賀メッセージが届くとか、部屋に帰ったら今日まだ顔を合わせていない長兄と次男からの誕生日プレゼントらしきものが置いてあるとか、なんかそういう、見ている人間が微笑みたくなるようなサプライズで一日が終わるべきだろう。 誰がこんな心がささくれ立つようなサプライズを誕生日に望むだろうか。 「それでねティム、この設計図を見て欲しいんだ! 君のヒーロースーツにこの回路を埋め込めば飛行機型の戦闘機を君の視線の動きだけで操ることができるようになるんだよ! 瞳孔の動きと兵器の動きをリンクさせる方法については君が使っていたドローンの操作技術を応用させてもらったんだけれどなかなか興味深い技術だよね! ただ遠隔で一斉操作ができないのが難点だけどそっちは別の技術を応用すればいいからね! この技術を見た時君は本当に天才だなと思ったよ君こそ僕の親友に相応しい人間だβ回路に改良を加えた設計図がこれなんだけど問題があってどうしても君の作った回路みたいに美しく纏まらないんだたしかに兵器は実用品だからミニマリズムなんて言葉とは無縁の場所にいるべきだとは思うんだけどやはり実用品だからこそ操作性はシンプルにしておくべきだし故障のリスクは最小限に抑えるべきだし万が一の時は速やかに復旧作業が行われなくてはいけないからそうなってくるとミニマリズムではないにしろ回路も設計もシンプルイズベストではあると思うんだ精密機器の耐久力を上げるためには矛盾しているようだけれども設計をどんどん単純にしていくしかない拳銃なんかの代表的な兵器にあげられるように向上した技術力でシンプルな構造を再現するからこそ故障のリスクというのは少なくなるんであってそのためには君の力が必要なんだよどうやってあんな美しくてシンプルな回路をかけるんだい君の見ている世界が知りたい君の考えていることが知りたい僕の見ている世界も僕の考えていることも教えるからさあ親友同士朝まで語り明かそうじゃないか!」 「いや帰れよ!!」 おっかしいだろ!! 絶叫したティムの言葉は、次の瞬間矢継ぎ早に吐き出されるユリシーズの言葉にかき消されてしまい、正義の理想に燃える少年がバトルスティックを振り回して怒り狂うまでのテンカウントが始まった。 [しおりを挟む] 目次 戻る |