ディックと「ジェイソン、誕生日おめでとう」 窓の外で、容姿端麗な男が、逆さにぶら下がっている。 「……なんでいんだよ」 真っ先にそんな感想が脳裏を過ぎった。 すると、彫刻の様に美しい男――ナイトウイングが、不満そうに眉を顰める。 「だってお前の誕生日なのに、祝いたいに決まってるだろ」 「死人に誕生日なんざあるわけねぇだろ」 「またそんなこと言って」 許可もしていないのに、ディックは勝手に部屋へ入ってきた。不法侵入で警察に突き出してやろうかと思ったが、捕まえるまでが面倒なのでやめておく。 「お前がなんと言おうと、今日はお前が生まれてきた日なんだから、お前の誕生日なんだよ。アルフレッドがお祝いしたがってたぞ」 「墓前にパウンドケーキのひとかけらでも備えといてくれ」 「自分で言ってみろ。そんなこと本当に言ったらあの人泣き出すから」 「……」 なんだかちょっと想像してしまって、嫌な気分になった。眉を顰めているジェイソンを、背後からディックが抱きしめる。 首すじに、兄が鼻を押しつけていた。 「誕生日おめでとう、ジェイソン。お前に出会えてよかった」 抱きしめられる感触から、押し倒される3秒前くらいだと解る。ヒーロースーツ越しの手がジェイソンの服を弄っていた。 「お前、誕生日プレゼントは僕だよとか言ったらぶっ飛ばしてやるからな」 「指輪がいい? それとも首輪? 家でもマンションでもいいけど、島って言われたらちょっと困るな」 「お前ブルースと長くいすぎて金銭感覚麻痺してんじゃねぇの」 「ブルースだったら島でもすぐに買ってるよ」 あの人金遣い荒いもんな。とディックは言うが、ジェイソンに言わせればディックも充分金遣いが荒かった。ロイ曰く、ジェイソンもなかなかのものらしいので、あの家にちょっとでもいたら金銭感覚が麻痺するのだろう。たぶんそういう呪いかなにかがかかっている。 「なぁ、ジェイ。リトルウイング。指輪がいい? 家がいい? マンションがいい?」 「首輪」 予想外の答えだったらしい。ジェイソンの服を脱がそうとする手がピタリと止まり、ジェイソンは自分の首すじから熱っぽい質量が遠のくのを感じた。 「えっ」 「発情期の小鳥ちゃんは首輪つけてちゃんと躾けねぇと、すぐ腰振りやがるからな」 なんだぁ、ととても残念そうな声が背後から聞こえてくる。そうして、あ、と小さな声。 「ケーキ持って来たんだけど食べる?」 「それを先に言えよ」 「まだ保冷剤が一時間くらい持ちそうだから、つい」 なにがついだ。 頭をブン殴ってやると、ナイトウイングが顔を歪めて「痛い」と叫いた。 「続きはケーキ食ってからな」 すぐに表情が変わるのだから、脳天気なものである。 ケーキを乗せる皿と、インスタントのコーヒーを用意しながら、ジェイソンは知らず口元に笑みを浮かべていた。 [しおりを挟む] 目次 戻る |