西方に月が沈むまで

3


 傷が治ったため自室に戻ったディックは、食事を終えてすぐジェイソンの部屋を訪れた。

「入るぞ」

「おう」

 部屋に入ってまず飛び込んできたのは、赤い長襦袢を着た弟だ。畳の上には布団が一組敷かれており、赤い布が白い布団によく映える。
 組み子細工の行灯がオレンジ色の光で部屋を暖めており、畳の上に組み子の文様が映り込んでいた。
 庭側の襖は開け放たれ、山の向こうまで広がる夜空と、暗がりに沈んだ枯山水が見える。石と砂利が月光に反射して青白く光っていた。
 月光は部屋の中にも差し込んでおり、冴え冴えとした色はジェイソンの瞳を思わせる。
 ひんやりとした風が吹き込んでディックの頬を撫でた。
 月と蝋燭に照らされた弟の顔には影が落ちており、彫りの深さが際立っている。
 切れ長の薄氷色がディックを見て笑った。筋肉の付いた太い腕が、酒の入ったひょうたんを掲げてディックを出迎える。
 
「待ってたぜ、ディッキー」

 月明かりと行灯があれど、やはり部屋は薄暗い。
 ディックも布団の上に腰を下ろすと、弟が赤い漆の杯を差し出してくれた。
 兄の杯には弟が酒を注ぎ、弟の杯には兄が酒を注ぐ。
 そうして一杯目を飲み干した後、ジェイソンが気分良く息を吐き、床を叩いた。

「この酒美味ぇなぁ!」

 頬を赤らめた男は、庭を眺めて鼻歌など歌っている。冴え冴えとした月光が滑らかな肌を照らしていた。
 恋人の横顔を見つめ、ディックが目を細める。

「甘い酒だな」

「上等なモンらしいぜ」

 杯はわずかに果物の風味を漂わせている。上等というなら、大吟醸だろうか。
 ジェイソンが杯を押しつけてきたので酒を注いでやると、今度はゆっくり味わうよう口に含んでいた。

「俺これ好きだな。戻ったあとも探してみっかな」

「ライムジュース混ぜても美味いぞ」

「流石詳しいな、元バーテンダー」

 歯を見せて笑ったジェイソンが、ディックの胸を軽く叩く。顔を見合わせて、ジェイソンは三杯目、ディックは二杯目の酒を飲み干した。
 杯を置いた兄が、弟の肩に手を置く。もう包帯は巻かれていない。

「痛くないんだよな?」

 ほろ酔いになったジェイソンは、氷の瞳に不釣り合いな熱を孕ませ、長い睫毛を震わせる。今まで真夏の気配を纏いカラリと笑っていた目が、しっとりとした艶をたたえてディックを見ていた。

「ああ。お前ももう大丈夫だろ?」

 反射した水面のように、虹彩が妖しく揺らめいている。
 この切り替えの速さはなんだろう。
 得も言われぬ魅力に抗いきれず、ディックは恋人に顔を近づけた。

「ああ」

 自分の喉から、熱に浮かされた声が出る。
 酒で濡れたジェイソンの唇は果実のように甘かった。
 自分の唇で柔らかな肌をなぞり、軽く歯を立てて舐ったあと、誘うように開いた口に舌を割り入れる。迎えてくれた舌を愛撫して、肉の厚みを確認するように撫で回した。
 薄く目をあけると、至近距離にうっとりと蕩けた薄氷がある。
 こんなにすぐに、愛しそうに、夢魔はディックを受け入れてくれるのだ。もっとくれと言わんばかりに首に縋り付き、娼婦のように体を絡めてくる。
 口付けが深くなるにつれ、ふたりの呼吸も荒くなっていった。おそらく酒のせいもあるだろうが、いつもより早く体が火照り、衝動を抑えきれそうにない。
 縋り付いてくる弟を押し倒すため体を傾けると、相手も自分から倒れ込み、布団に背中を押しつけた。
 白の上に赤い長襦袢が広がる。太い首筋と、逞しい胸板が赤い布の合間に覗いた。
 ディックの心臓が激しく暴れ出す。今すぐ抱きたい。今日こそ、今日こそ。

「今日こそ、最後までシよう」

 吐き出した言葉には情欲が色濃く浮き出ていた。
 ジェイソンもそれを察したのか、赤い唇を半月型にしならせ、ホットチョコレートのように熱くて苦くて、とても甘い声を出す。

「そのつもりじゃなきゃ、酒と布団用意して待ってねぇよ」

 ディックの手が赤い布の合間から覗く弟の足を掴み、肩の上まで持ち上げた。体をほぼ半円に折り曲げられた男の胸元、赤く隆起した小豆を口に含み、わざと音を立てチュウチュウと吸い上げる。持って来た丁子油の容器から手のひらに油を取り、ししどに塗らした指先で夢魔の菊座をなで上げてやった。

「ぁんっ あっあっ ぁっ んぅっ ん゛ぁっ

 艶めかしい嬌声がその場に響き、ジェイソンの体は微かに踊る。無理な体勢のため逃げることもできないのだ。肩に担がれた足をたまらなそうに蠢かせながら、与えられる刺激に耐えていた。
 すでに出来上がった彼の体は、ディックの指や舌にすぐさま反応し、閉ざされていた菊の門が開かれる。奥で媚肉がヒクヒクと蠢いていた。
 ぬるりと指を侵入させれば、出入り口がディックの指を締め付ける。手を動かす度にジェイソンの体が連動して動いた。

「ひぁっ ンぐっ ぶっ ぅっ あぁああぁっ ぁ゛っ んっ

 淫魔に容赦なく責め立てられた男の声帯は、発情したみっともない声で相手の劣情を煽る。弄ばれた体が、喜悦の波に翻弄され痙攣した。全身を絶え間なく電流が走り、蹂躙されることに未知数の喜びを見出した体が、無様に足を広げた体勢でよがり狂う。白い足に赤い布が纏わり付いていた。
 膨らんだ肉の山脈に囲まれ、ひっそりと佇む好庭花が、丁寧に愛撫してくれた兄の指を吸い込んで締め付けている。媚肉越しに恋人の存在を感じた。指が動く度肌が粟立ち、息が荒れて、全身がひどく切ない。
 血流に乗って体を犯し尽くした恍惚が、そのまま体の一点へと集中していく。いたぶられる菊筒の前方、屹立したホースに熱が溜まっていき、じんじんと痺れ始めていた。

「ぁああぁあっ りちゃーどっ りーちゃどっ そこヤバっ やめっ ストップっ いくっ でるから 苦しっ あ あぁああぁ

 ジェイソンが昂ぶった感情のまま獣のように叫んでいると、淫花に沈んだ指が体内のしこりを強く擦り上げた。

「んふぅっ

 耐えきれず視線があらぬ方向へ向かう。突き抜ける快楽が脳味噌を焼き切り、欲望を刺激した。

「ひぁっ あっ ンぁ

 さらに胸部の頂点で立ち上がる角が、毒の舌で押し潰される。責められた箇所が熱をもち、幸福感と火花が全身を駆け巡った。
 
「はぅあぁああぁあああああああっ

 限界が訪れる。性感帯のなかで唯一触って貰えない哀れな屹立が、ひとりでに決壊して甘茶のような液体を垂れ流した。勢いのない射精でジェイソンの体が軽くなり、開放感と悦楽が男を獣へ貶める。
 無理な体勢のせいで、樹液が下肢から腹部へと流れていった。
 顔をあげて弟の痴態を見下ろしたディックが、無言で白液を舐め始める。
 腹筋に毒の舌を受けたジェイソンは、まだ敏感な体のまま唾液のぬめる感触を受け、長い睫毛を震わせた。

「んっ ふっ ぅっ ぁっ

 体の凹凸に沿って口付けを落とされ、ついにはヘソの中にまで舌を突き入れられて身をよじる。くすぐったさと心地よさと羞恥と幸福感がない交ぜになって言葉にならない。ピチャピチャと水音がするたび、じんわりとした快感が体を支配した。
 ディックが、兄が、犬のように舌を這わせて、ジェイソンの吐き出した精を舐め取っている。
 こんなに優しくしてくれる。恋人だというだけで、愛しているといってくれて、男の自分に可愛いと言ってくれて、みっともなく吐き出したものも綺麗にしてくれる。頭も撫でてくれるし、気持ちよくしてくれる。こんな幸福をジェイソンは知らなかった。
 やがてすべてを綺麗に吸い尽くした淫魔は、不敵な笑みを浮かべたま口を僅かばかり動かし、すっかり脱力したジェイソンの唇に吸い付く。

「んっ

 恋人のキスが嬉しくないわけがない。うっとりした表情で受け入れたジェイソンの口内に、生暖かい液体が流し込まれた。
 唾液のようだが、それだけではない。苦みと栗の香りがして、自分の精液だとわかったときには、もう飲み下す以外の方法が残されていなかった。
 恋人の唾液と、自分の精液が混ざったものを飲まされる。
 屈辱なのか幸せなのか解らない。
 見上げると淫らな笑みを浮かべた淫魔がいた。
 
「自分の、飲んじゃったな

 青い目の奥が嬉しそうに揺れている。
 喜んでくれたのだと思うだけで幸せで、なんでもしてやりたい気持ちになった。
 ただ、心の奥底で、そんなものは俺らしくないと誰かが叫いている。
 その通りだとジェイソンも思ったので、兄の笑顔をなんとか睨んだ。顔も赤いし呼吸も荒いので、迫力など皆無だろう。

「なに飲ませてんだよ」

 答えの代わりに口付けが降ってきた。淫魔の唇にも舌にも唾液にも毒がある。羽のような軽やかさで唇を奪われ、口内を犯された瞬間、ジェイソンは自分らしさなどかなぐり捨ててもいいと思ってしまい、衝動のまま恋人の首にすがりついた。
 こいつが喜ぶならなんだってする
 床に零れた飯を食えと言われても、ディックが喜ぶというのなら自分はやりかねないと思った。空色の目が自分を視姦して欲情してくれるならなんだってする。
 夢中になってディックのキスを受け止めているあいだに、大腿部を掴まれた。押し開かれた腸肛にピタリと熱いものが触れる。すでに解れてオイルにまみれた媚肉が、ここ二週間待ちわびた客人の気配に歓喜の声を上げていた。

「んぁっ

 ヌルリと滑る感触がして、指よりはるかに密度のある代物がジェイソンの体内に入り込んでくる。ディックが指で充分慣らしてくれていたので、それほどの苦痛はなかった。
 大きいから、指より少し苦しいかもしれない。
 それでもやっと繋がれたという感覚が強くて、イカれた脳味噌は幸福感と達成感を性的刺激へと変換してしまっていた。

「んんぁぁあぁ りちゃーどっ りちゃーどきたぁああぁ

 アナルから脳天までを鋭利な飴で貫かれるような恍惚。体の四肢が千切れ飛んでしまうのではないかと思うほどの喜悦。大きな雷に打たれたような衝撃を受け、ジェイソンは自分の体内にいる恋人を感じながら体を大きく波打たせた。

「ぐっ ジェイっ ジェイソン…… キツっ……

 夢魔の菊花はゼリーで出来た蟻地獄のようだ。吸い込むようにディックのものを受け入れた途端、うねりながら絶頂を迎え微かな痙攣で屹立を刺激する。
 せめてもうすこしこの夢魔を貪り食いたいディックは、熱い熟れ肉の誘惑に耐えて無理矢理腰を打ちつける。
 摩擦がディックの眼前に火花を散らせ、腰がガクガクと震えてしまった。
 今までこんな感覚になったことは一度も無い。油断すればすぐにでも達してしまいそうな奔流の中、それでも腰の動きを止められないディックは、切なげに啼く夢魔を見下ろして喉を鳴らす。
 弟は娼婦としか思えない乱れようで、涙と涎と汗を垂れ流しながら、平素からは及びも付かぬ甲高い声を上げていた。

「ひぃいんっ やっ やめっ すとっ ストップ リチャードっ りちゃーどっ あぁっ あぁあっ だめっ しんじゃっ しんじゃうっ しぬっ しぬぅっ りちゃーどっ りちゃーどっ りちゃーどぉおおぉおっ

 体を貫かれる恍惚は、ジェイソンのキャパシティを遙かに超えていた。脳味噌はとっくに焼き切れており、今自分がどういう状況なのかすら判断できない。わかるのは恋人にやっと犯してもらっているという事実だけだ。麗しく愛しい淫魔が自分に腰を打ちつけている様を見て、彼はすぐそれだけわかれば充分かと思い直した。
 熱したはちみつのように甘くて蕩けた声が、ジェイソンの耳まで犯してくれる。

「可愛い 可愛いよジェイソン 僕のリトルウイング ジェイソンっ ジェイっ 可愛い 可愛い 可愛い

「あっ やめっ あ あぁっ りちゃーど すごっ 激しっ 激しっ だめ やっ あっ あぁあっ 死ぬっ 死ぬっ

 淫魔に腰を叩きつけられるたび、ジェイソンの内部が抉られる。内臓を貫かんばかりの勢いだ。熱い飴の刃で貫かれるような、甘ったるい痛みだった。
 抉られるたび幸福が全身を駆け巡っていく。体が揺さぶられて、どこかに飛んでいってしまいそうだった。何度も目の前で火花が散る。
 ジェイソンの体はすでにイキ癖がついてしまったらしく、髪を振り乱してよがり狂った男は、全身をガクガクと激しく震わせた。衝動のまま恋人の腰へ足を絡ませ、締め付ける。
 体を引き寄せられたディックは、その衝撃で緊張の糸が切れた。

「ぅっ……

 小さくうめき声を上げたあと、腰から脳に火柱が駆け上っていく。焼かれた脳から魂が抜けていく感覚。体がふわりと浮き上がった気がした。途端、巨竿が大きく脈打って弟の体内に雄液をぶちまける。
 体の奥に欲望を叩きつけられた恋人は、本当の淫魔であるかのように嬉しそうな声をあげた。

「あぁあぁああッ

 淫靡な穴が媚肉を痙攣させながらきゅうと締まり、役目を終えたはずの牡茎を締め付ける。焦点を結ばない湖面が薄明かりの中で揺れていた。赤い唇はわずかに開き、隙間から意味の無い吐息がもれる。行き場のない手が、皺だらけになった赤い長襦袢を握りしめていた

「あぁ…… あっ……

 壊れたオモチャのように倒れ込んだ夢魔の隧道から、巨大な蛇が這い出してくる。つられて白液が穴の中から滑り落ち、ジェイソンの大腿と赤い着物を汚した。あまりにもふしだらな様相に、ディックの鎌首が再び熱を持つ。
 衝動のまま、脱力した夢魔の体をうつ伏せにさせ、腰を掴んで尻を持ち上げた。

「んぅ

 男の口から、鍛えられた体に見合わぬ甘ったるい声が漏れる。高く掲げた尻に丁子油をふりかけ、擦り込みながら愛撫したディックは、のし掛かるようにして夢魔の体に密着し、逞しい胸筋を両手で揉みしだいた。
 手のひらに充血した突起の感触がある。
 二週間かけて責め続けたそこはわずかな刺激でも敏感に拾い上げ、既に何度も昇天したジェイソンをまた快楽の渦に放り込んだ。

「あっ…… ンあぁっ…… りちゃーどぉ

 はやく貫いてほしいと言いたげに、オイルまみれの尻が妖しくくねる。中央で白濁にまみれた菊洞がぽっかりと開き、隙間から赤い肉が覗いてディックを誘っていた。めくれ上がり、腰に引っかかった赤い布がやたらと目を引き、劣情を煽る。
 魅惑的な誘惑をなんとか振り切った男は、限界に近いほど漲った獣を、白い肉山脈に擦りつけてやった。
 じらされた夢魔は不満そうに腰を揺らし、恨めしげに兄を見る。それでもまだ割れ目と肉を摩擦させるだけに留め、ディックが弟の耳を食んだ。

「僕が何回、お前を抱く妄想をしたかわかるか? 僕が何回、お前を犯したいと思いながら自分を慰めたかわかるか?」

 胸筋を弄んでいた手で弟の逞しい二の腕を掴み、無理矢理引っ張って上半身を立たせる。お互い膝立ちになった状態で、ディックは恋人の首すじに軽く歯を立てた。
 夢魔の体が微かに跳ねる。

「あっ し 知るわけ ねぇだろっ

 以前から性的な目で見られていたのが悦びなのか、肉の渓谷にペニスを擦りつけられるだけで感じてしまうのか、ジェイソンは甘ったるい声でぞんざいな返事をする。

「そうだよな。わからないよな。僕もわからない。数え切れないから」

「か、かぞ え…… あっ そんなにぃ……っ

「嬉しそうだな?」

 兄の問いに、ジェイソンが苦しげな表情を浮かべた。

「う うれしくっ なっ いぃ

「へぇ……? そうは見えないけど」

「そ、それっ それよりぃ りちゃーど 早くぅ

 恥も外聞もない淫猥な懇願を聞いて、やっとディックが動く。巨塊が魚口に切っ先を宛がった瞬間、吸い込まれるように中へと導かれていった。中は熱く、ディックが先程吐き出した精と丁子油が混じって、グチャグチャと好色そうな水音を立てている。
 奥まで一気に刺し貫き、腸を抉るように鎌首を押しつけてやると、夢魔が体をしならせ、髪を振り乱し悲鳴をあげた。

「ひあぁああああああぁっ

 構わず掘削し続けると、水音が激しくなっていく。弟の腰に引っかかった長襦袢が、ドレスの裾のようにヒラヒラ踊り続けていた。彼は体の痙攣が止まらなくなってしまったようで、後ろか胸筋を揉みしだかれて身をくねらせている。そうして直腸を犯されては様々な体液をまき散らし、ディックが心配になるほどイキ続けていた。
 
「ひぃっ あぁあああ しぬっ しぬぅっ たすけてっ りちゃーどぉ たすけてぇ しぬからぁっ イクゥウウゥッ イキすぎてぇええ しぬっ からぁっ だめぇ しぬぅ イクぅうう

 みだりがましい姿がディックの興奮を煽る。これほどまでにいやらしいのに、まだその姿はどこか凜々しく、美しいままだ。
 ヒクヒクと蠢く肉穴を穿ちながら、ディックはどれだけこの夢魔を汚せば、凜々しさと美しさがかき消えるのだろうかと疑問に思った。
 この男の体から、淫らな要素以外をすべて取り除けたら、それを自分が成功させたら、きっとこの上ない快感だと思うのに。
 衝動のまま一際強く内腑を抉ると、弟が小刻みに体を震わせ言葉にならない獣の絶叫をあげた。

「ふぁああぅあ゛あああおあ゛おああぁああお゛あ゛あんっ

 しかしディックはまだ達していないので、脱力しきった弟の体を愛撫しながら、さらに腰の動きを加速させていく。
 纏わり付くような媚肉の感触が心地よかった。耳に届くホットチョコレートの嬌声が美しい。一突きするごとにすぐさま軽い絶頂を迎えるジェイソンの後口は、サディスティックな行為を歓迎してディックのペニスを締め付けた。
 月光のなか、美しいアーチを描く弟の背中には、赤い布が絡みついている。淫猥な眺めだ。ディックは愛おしそうに目を細める。

「お前、本当に可愛いなぁ

 突き上げられるごとに狂おしく身悶える夢魔は、汗ばんだ尻朶を、ディックに擦りつけるかのような、卑猥な動きで迫り上げた。ジェイソンは立て続けに昇天を経験し、すでに半ば白目を剥いている。
 脱力しきり、肩で息をする恋人の腕を掴んだまま、ディックが背中から布団へ倒れ込む。そうしてジェイソンの腰を掴むと、夢魔の体が気持ちよさそうにびくりと震えた。

「んぅ

 甘ったるく啼く弟が自分と向き合うように、繋がったまま体勢を変えさせる。それだけでまた体を硬直させる夢魔を見上げ、ディックは低い声で囁いた。

「なあ、ジェイ。お前は本当に可愛いよ。だから僕は、お前を見る度に抱きたいと思ってたし、お前を犯したいと思いながら一緒に仕事してたし、夢でも妄想でも何回も何回もお前を犯した」

 もはや忘我の彼方に飛び立ち、帰ってくる様子のないジェイソンをディックが下から突き上げる。
 夢魔の体が妖しくくねり、汗と嬌声を吹き出させた。

「ひん゛っ ぁああぉぁあおあ あーっ あーっ あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ

 ジェイソンの絶叫はもはや言葉の体をなしておらず、汗と唾液と涙が首筋を流れていく。熱病患者のようにガクガクと体を震わせる様は異様で、目線はどこを向いているか解らず、他人が見たら完全に病気か、壊れてしまったと思うだろう。
 ディックには、そのような姿になってもまだ凜々しさを保つ弟の姿が神々しく感じられた。今自分がこの雄々しい男を貪り食っているのだという感覚に、肌が粟立つ。

「でも、今のお前は、その数え切れない妄想よりエロくて、可愛くて、イキやすい、最高の恋人だ……愛してる、僕のリトルウイング

 視線の合わなかったジェイソンの目が、グルリと動いてディックを見据えた。口元に好色な笑みが浮かび、脱力していた夢魔の腰が突然動き始める。
 薄氷はこの上なく嬉しそうに細められ、睫毛が汗と涙に濡れていた。紅潮した頬と、ホットチョコレートのように甘く絡みつく声が、今が最高に幸せだと告げている。

「おれもっ おれもあいしてるっ あいしてる りちゃーどっ すきっ すき、りちゃーど おれの おれの でぃっきーばーどぉおぉ

 ジェイソンの両手が、ディックの両手に指を絡めた。赤い長襦袢の裾が兄の腕に触れて擽る。激しく動き始めた夢魔の腰が、ディックの全てを吸い取っていった。
 激しく上下する男の体が結合部分からバチュンバチュンと激しい水音を立てている。
 嬌艶の化身かと見紛うほどの乱れっぷりで、美しく微笑んだジェイソンが、ディックに噛みつくようなキスをした。
 夢中になって恋人の口内を貪る夢魔の尻朶を掴んだディックが、白い肌を撫で回して稀に叩くと、その度ジェイソンの甘い管がキツく締まり、激しく痙攣しながらうねる。緩く気を遣っているのだろう。勃起した触覚からトロトロと熱いしたたりを吐き出していた。それでも腰を動かすジェイソンが、兄と硬く繋いでいた手を放し淫魔の胸筋に手を伸ばす。充血したかぐろい実を指の腹で引っ掻いた。
 彫刻のような顔が歪み、青空の目がジェイソンを見る。

「あぁっ ジェイっ こらっ ジェイっ

 この淫魔が、気持ちよさそうにしてくれるのが嬉しい。
 感極まったジェイソンは何度目かのエクスタシーに体を震わせ、兄の首に縋り付いて口付けを落とした。

「んっ りちゃーどっ んぁっ りちゃーど すき っぷは すき あン りちゃーど すきぃ

 ぬらぬらと蠢くジェイソンの体が、ディックにぴたりと吸い付く。体全体が吸盤になったかのようだった。胸に立ち上がったサクランボ同士がこすれ合い、お互いの体に甘い刺激をもたらしている。腰に引っかかった赤い布が動きに合わせて蠢いていた。夢魔が娼婦のように身体全体を波立たせ、ディックの決壊を誘発する。
 ふたりで喘ぎながら絡み合う中、もうすぐで達してしまいそうな兄が、最後の意地で弟の尻を強く掴んだ。
 途端、ジェイソンの体に強い電撃が走る。
 脳天まで突き抜けるような火花が、大きくあいた口から飛び出した。

「ひぁあああああああああああああああっ

 艶やかな獣の絶叫だ。絶命の瞬間を思わせる叫び声がディックの鼓膜を震わせる。同時に、彼は突然起き上がって、自分に乗っていた弟を押し倒した。
 ジェイソンの上半身が畳の上に乗り出し、下半身だけが柔らかい布団の上に乗っていて、ディックに激しく責め立てられる。
 赤い布が逞しい足に絡みついていた。白い布団、白い肌、赤い布。ひどく淫らな色合いだ。
 着物がはだけて剥き出しになったジェイソンの背中は畳に擦れて少し痛そうだった。ただ、夢魔はその緩やかな痛みさえ快感だと思っているらしく、眉を顰めて目を細めながらも、この上なく嬉しそうに笑っている。
 ディックが弟の足を抱え込むようにして下半身を持ち上げた。
 今度は斜め上から突き刺すように熱い隧道を貫くと、夢魔が耐えきれずに畳を掻きむしる。

「りちゃーどだめぇえええっ あぁあああぁしぬぅうぅッ あぁああぁああだめ壊れるぅう ぁああああああぁああっ

 髪を振り乱して体をしならせ、もはや何度目かも解らぬ絶頂に喉や背筋はおろか、全身の筋肉をおののかせるジェイソンの姿は、おそらくディックしか見たことがないだろう。
 人生の中でこんなに優越感を覚えたことはない。
 今この瞬間、腕の中で乱れている恋人は、ディックだけのものなのだ。
 この淫魔はディックだけのものだ。
 ディックに犯されるためだけに存在する、ディックだけの魔性。
 気がつけばディックは、腹を貫かんばかりに弟を責め立て、夢中になって貪りながら発情しきった声をあげていた。

「ジェイ ジェイ かわいい かわいい かわいいよ ジェイソン 僕のジェイソン かわいい かわいい 愛してる 愛してるよ、ジェイソン あぁ かわいい かわいい かわいい かわいい

 ジェイソンの裸身が捩れ、極限までしならせた体から汗が零れる。淫肉も連動するようにうねり、とうとうディックに限界が訪れた。

「くっ あっ あぁあああぁっ ジェイソンッ 出るッ だすぞっ

 同時に、ジェイソンも火がついたように暴れ出し、甘ったるい絶叫を上げる。

「あっ あっ あっ あっ あぁあああっ 出されるっ だして リチャードっ イクっ イクイクイクイクッ あっ あぁああああああああああぁ

 ふたり分の絶叫が部屋中に響き渡り、同時にジェイソンが兄の顔を引き寄せた。汗まみれの唇に吸い付きながら、乱れきった赤い長襦袢を引き寄せディックの額をそっと拭う。
 うっとりと蕩けた薄氷は、体内に吐き出される射液の感覚に酔いしれているらしく、長い足が逃がしてなるものかと兄の腰に絡みついていた。
 ジェイソンは夢見心地な表情のまま、労るような動作で兄の汗を拭いていた。優しく口付けをする上半身とは裏腹に、彼の内奥は恋人の屹立を包み込んだままビクビクといやらしい痙攣を起こしている。
 やがてディックが欲望の全てを吐き出すと、お互い名残惜しく思いながらも火照った体を引き離した。
 ズルリと肉が引き抜かれ、精水が赤い虚から流れ出す。その感覚すら愛おしいらしく、ジェイソンの赤く腫れた唇が切なげに震えた。

「あっ……

 交わっている最中の、獣の咆吼とはまた違う、甘ったるい声だ。
 まだ恍惚としているジェイソンが緩慢な動作で上半身を起こし、恋人の唇に吸い付く。優しく味わうような口付けだった。
 そうして用意してあった布を引き寄せ、ディックの体を拭き始める。
 ディックも弟にならって布を引き寄せ、逞しい体を抱きしめた。身を寄せ合うようにして汗や精液を拭き取り、布の後を追いかけるようにしてお互いの体に唇を這わせていく。
 ディックがジェイソンの額にキスをし、ゆっくり頭を撫でた。

「足、あげて」

 情事の時は従順な弟が、恋人に言われたとおり片足をあげる。するとジェイソンの足を肩にのせたディックが、夢魔の裂溝に指を割り入れた。

「んぁっ り、りちゃーどっ なんっ でぇっ

「掻き出さないと体に悪いだろ? 腹に力入れろよ」

 グチュグチュと水音が響き、ジェイソンは兄に言われたとおり下腹部に力を入れる。
 ダラダラと白い液体が落ちてきた。残っている分を排出させるため、兄の指がさらに奥へと入り込んでいく。

「ひぁあっ あぁあっ もっ もう いいって なぁっ あっ んぁぁあ ゆるしてぇ

 汚れを拭いたはずの体からまた汗が噴き出してきた。苦しそうによがる弟の首筋に、ディックが優しく吸い付く。

「腹壊すから もう少し我慢しろ

「んっ でもっ りちゃーど

 お互いの肌がまたしっとりと混ざり合っていった。甘えるように身じろいだ弟がひどく愛おしくて、ディックはまたジェイソンの額にキスをする。

「なあジェイソン むこうに戻ったらブルードヘイブンで一緒に暮らそう

 うっとりと蕩けていたジェイソンが、目を見開いた。
 強く首すじを吸われ、「あっ」と甘ったるい声を出した夢魔の体を、ゆっくりとディックの唇が登っていく。
 耳にやわらかな肉が押しつけられ、ジェイソンの体が僅かに震えた。
 ディックが熱したはちみつを弟の脳裏に流し込む。

「お前と一緒の部屋で、一緒に飯食って、一緒にテレビ見て、一緒に笑って、セックスしたい

 精液を掻き出す指が折れ曲がり、ジェイソンは目を見開き仰け反った。

「ひぃぃいぃぃっ

 声が擦れてしまっている。体をガクガクと震わせながら、ジェイソンがディックの首に縋り付き唇に食いつく。
 目は潤み感極まった様子で、頬を紅潮させて恋人の体にすり寄り、甘えるようにキスをしたまま声を出した。

「おれも おれもぉ りちゃーどとぉ ずっといっしょにいたい

 鍛えられたジェイソンの足が、ディックの足に絡みついてくる。完全に密着した体を弟が妖艶にくねらせ、ディックの中心部がまた熱を帯び始める。
 誘うような動きを見せられ、太腿の付け根で男根を挟み込まれたディックが喘いだ。

「あっ ダメだろジェイ せっかく 掻きだしたのに また シたくなるから あっ」 

 無意識にディックの体も動き始め、兄の反応に夢魔が幸せそうな笑みを浮かべる。

「また掻き出しゃいいじゃん おれ りちゃーどのゆびすき

「こらっ あっ ジェイ しらないからな 明日起きられなくても

 もはやふたりとも理性などかなぐり捨てている。口だけで弟を咎めたディックは、獲物の首筋に吸い付いて甘ったるい断末魔を聞いたあと、弟と抱きしめ合うようにしてそのまま布団に倒れ込んだ。

「あっ りちゃーど あっ あっ

「ジェイ リトルイング 可愛い 可愛い ジェイ ジェイソンっ

 ふたり分の蕩けた声が闇の帳に溶けていく。既に行灯の蝋燭は消えており、開いた襖の奥から差し込む月明かりだけが、部屋と恋人たちを照らし続けていた。
[*前]- 3 - [次#]
[しおりを挟む]
目次 戻る
美しくなんて死ねると思うな