こりない「神父様、花屋のフローラから花束貰ったんだけど、飾ってくれる?」 夕刻。ジェイソンの目の前に差し出されたのは、白いバラとガーベラ、そしてスズランでできたブーケだった。差し色は葉の緑のみで、それ以外は純白。花びらが夕焼けの赤に照らされ、ひどく美しかった。 「貰ったというにはあまりにも印象的な花束ですね。まるでウェディングブーケだ」 「神父様にあげたいって言ったらこれにしてくれたよ」 「……そ、うですか……」 フローラになんだと思われているのだろうか。思わず頭を抱えたくなったが、ブーケに罪はない。素直に受け取って花瓶に生けた。飾るのはリビングの目立つ場所でいいだろう。 「ねえ神父様、バラとガーベラと、スズランの花言葉知ってる?」 「バラ五本は『あなたに出会えた事の心からの喜び』、白のガーベラは『純粋』、スズランは『幸福が訪れる』、『清らかな愛情』」 「さすが神父様! なんでも知ってる!」 「なんでもは知りませんよ。その口ぶりだと貴方も知っていたんですね」 「フローラに教えてもらった」 フローラはジェイソンのディックの関係をなんだと思っているのだろう。 今度こそ頭を抱えてしまった神父は、嬉しそうに笑う金目の助祭を横目で睨む。 「こりない人ですね。清貧・従順・貞淑を守らなければならないと以前も言ったはずですよ」 「自分の心に従え、とも言ったよ」 「……私は、私の心に従って、清貧・従順・貞淑を守ります」 「僕は僕の心に従って、貴方を愛する」 「ディック、私も貴方を愛しています。神を愛し、自分の息子を愛するように愛しています。愛と欲は切り離して考えるべきですよ」 「欲も心のうちだよ神父様。それに、貴方とキスをして肌に触れてひとつになりたいって気持ちがなぜ欲だと思うの? 愛を確かめ合う手段だろ?」 「思いやる気持ちと相手への尊敬さえあれば、愛は充分育まれます」 「ねえ、特別になりたいって気持ちはエゴかな? 欲かな? 貴方の特別になれたら、僕はとっても幸せな気持ちになれると思う。神父様を世界で一番幸せにしてあげたいと思ってる」 「ディック、私はもう充分幸せです」 「そうかな?」 青白いディックの指が、ジェイソンのカソックに触れた。首元からするすると下りてきて、首に下がった十字架をすくいあげる。 「貴方の心が、本当はなんて言ってるのか知りたいな」 ジェイソンの顔が熱を帯びる。全身が沸騰したように熱くなって、神父は思わず梟から距離を取ってしまった。 「……本当にこりないですね、貴方は!」 それだけ言うのが精一杯だ。心臓がうるさくて、呼吸が乱れている。肩が無意識に上下していた。 ディックはジェイソンの様子をじっと見つめたまま、口元に僅かな笑みを浮かべている。 金色の目が、獲物を狙う梟のようだと思った。 「神父様も、こりないね」 なんのことか、ジェイソンは怖くて聞けなかった。まだ心臓がうるさい。呼吸を整えるのにもうしばらくかかりそうだ。 おそらくディックは気付いているのだろう。だからあんな目でジェイソンを射貫いてくる。 もう少しで獲物が手中に落ちると、確信しているのだ。 「……今日の夕食は、マッシュルームのカニ詰めですよ!」 「やった! 僕大好き! 神父様愛してる!」 「軽々しく愛と言わないでください!」 「ごめんなさーい」 神父様の心臓が持たないもんね、と言われてしまい、ジェイソンが思わず梟を睨み付ける。 迷子だった元暗殺者は、満面の笑みで肩を竦めただけだった。 [しおりを挟む] 目次 戻る |