一年が入部し、新生霧崎第一男子バスケットボール部が始動した。例年と比べ少し少ない新入部員、内約半数はやる気が無く早々にサボる者も居た。主将と副将、マネの三人で話し合った結果、そういう者は「部室を使わせない、試合に出さない、マネ不在時にマネ業をする」を条件に在籍は許可した。唯一の活動内容であるマネ業すら怠った場合、秘密裏に退部させるつもりだ。霧崎は正当な理由が無い限り帰宅部は不可、勝手に帰宅部となっている生徒は殆ど無い内申点がゼロになる。こっそり退部は担任も許可しているので問題無い。
そして『悪童』のバスケ──ラフプレーを取り入れたバスケの練習もじんわりと始動した。前から時折原ちゃんや康くん等『悪童』の悪癖に興味を示す部員に教えていたのは知っている、だがこうも早く練習メニューに組み込んで行われると思わなかった。夏以降──まこちゃんが主将になってから始まると予想していたからだ。大々的にラフプレーを掲げてはいないが、二、三年の間で明らかに通常とは違う練習が行われている。と言っても同士討ちなんて馬鹿げているので、怪我をする部員は居ないけど。
「ほんと意外」
「先輩達がほぼ異を唱えなかったのは少し意外だったな。これがお前の言う花宮恐怖政治か?」
空になったボトルをこちらに投げ渡して、康くんが愉しげに言った。
「少しは。でも恐怖だけじゃ統制は取れない、世界史でもあるじゃん」
「歴史的恐怖政治は失敗の連続だが……花宮は結構な独裁者だと思うけど?」
「圧政は好んでないと思うよ。まこちゃんは強制してない、康くんだって自分の意志で選んでる」
「そうだな。ラフプレーは俺自身が興味を持って、行おうとしているものだ」
「ラフプレー以外でも」
「……」
「元からそういう人と関わってるのもあるんだろうけど」
「まぁ今ツルんでいる人間は馬が合っているな」
「うん。もしただの独裁者ならもっと露骨に圧力を掛けるだろうし、態々面倒な猫を被ったりはしない。彼が好きなのはゲームだ、チェスとかそう言うの。ほんとに思うが侭にしたいなら人形遊びでもしてるよ」
「……お前がそれを言うのか」
「?」
「お前は花宮の言う事を拒否した事は有るのか? 無いだろ」
「いくらでもあるよ。私は健ちゃん曰く『花宮に傾倒してる』らしいけど言いなりじゃない。そもそも少しも自分で動かない人間、面白くないって切り捨てるでしょ。一しか出来ない人間に一を言って二じゃアウト、あまりに退屈で面倒だ。彼が認めるような、琴線に触れるような……元々三か四程度出来ていた人間が、自分の手で十出来るようになるのは楽しいし、中身のある駒が、それでも自分の思い描いた筋書き通り踊るのは愉しい」
そうして、最後は壊して嗤うのだ。
「あぁその気持ちは解るな。なら長く付き合いのあるお前は、三から一を言われて二十も三十も出来ていると言う訳か」
「いや、私は……」
零……なんじゃないかな、と思う。逆だ。一も無い、零。そこから始まった。全く何も無いから、まこちゃんは私に手を差し伸べてくれたんじゃないかな。チェスの駒を集める所から始めるような人だ。何も無い人間なんて、きっと初めてだっただろう。集めるどころか、自分で好きに作り上げる所から始められるのだから。
あれ? これって結局、思うが侭に人形遊びしてるって事になるのかな?
「まぁ良いや……あくまで私の印象だから忘れて」
「気になるだろ、それとも最初から十出来ていたか?」
「さぁ……とにかくこれは恐怖政治じゃない、『類は友を呼ぶ』だよ。そうそ、座右の銘、ふふ」
「まさにそれだな、ウチは冷めてるの多いから。これも作戦って割り切って受け入れてる部員が大半」
隣に来た主将が話に加わった。
強制では破綻するそれ、スムーズに行われているのは類が友を呼んだ結果だ。勿論まこちゃんが類を集め、じわじわと地盤を整え、受け入れさせたのもあるだろう。けれどそれだけでこうはならない。彼自身、ここまで上手く転がるとは思わなかったんじゃなかな。中学時代は部全体での組織的なラフプレーは無かったと思う、あれば母校が叩かれるだけで彼個人が『悪童』と呼ばれる筈が無い。
今居る霧崎は、冷めている生徒──努力と根性、正々堂々、スポーツマンシップ、そういったモノを好まないどころか嫌う生徒が多い。解らなくもない。才能は努力でねじ伏せられるモノでは無い。どんなに努力した秀才も、同じように努力した天才には敵わない。なら馬鹿正直に真っ正面から努力するより、少しでも自分の得意な方法、やり易い方法で勝負すべきだ。勝つための手段は選ぶな、だが努力の方向性を見極めろ。頭を、使える物を、全て使え。脳筋は要らない。
「ルールの穴……ですらないけど、ファール取られなければアリだよなぁ」
「取られなければファールじゃないですからね」
私達の場合、それがラフプレーだっただけだ。ほんとはもっと良い方法があるかもしれない。正直、客観的に見て回りくどい──リスクが付き物で敵が無駄に増える茨の道。それでも現時点でこれが一番近道で、しかも受け入れられ、更には健ちゃんのように「スリルがある」と愉しむ人間も少なからず居るのだから申し分は無い。ほんと、類は友を呼ぶ。
勿論難色を示す部員も居た。強制ではないので、彼らを否定したりレギュラーから外す気は無い。だがそういった部員はたまたまなのか、レギュラーどころか一軍にも居なかった。部の実力者であり権力者の主将・副将が提案しているのもあるだろう。強い者を認め、強い者に従う。
「故障してくれりゃ即交代、長引けば次当たる時も楽だしな……っても俺は夏で引退するけど」
「主将結構言いますね」
「その恩恵を授かった人間だからさ。俺も元々『悪童』の事は知ってたし、潰された奴も見てる。気付いてキレて殴り掛かった奴は居たけど、俺はあの時先輩が応急処置されてんの見て『そういう方法もあるか』って思ったんだよね」
「先輩が、ね。主将は年功序列、嫌いですか?」
「口が滑ったな……あぁ大嫌いだよ。努力で全てどうにかなるとは思わないけど、努力もせずにたかだか一、二年の年齢差だけで格付けられるのは嫌だね」
「例えそれで自分が格下になっても?」
「自分が格下になっても。じゃなきゃ霧崎なんか来ないよ。バスケ……部は入ってみたらまさかのガチガチ縦社会だったけど……バスケにしろ学力にしろ、それならもう一つ二つランク落として一番になれる所に入るわ」
「確かに」
「だろ? とは言え、簡単に格下になり下がる気は無いからな」
「恩恵、恩恵ね……お主も悪よのぅ?」
「はは! お代官様程では……、で良いか?」
「それじゃマネが一番偉くなっちゃう」
なんて冗談を言いあう。監督が辞めてから年功場列が無くなり、部の風通しが良くなった気がする。絞める部分はしっかり絞めるし、先輩をナメている訳ではない。けど雑用は全て後輩の仕事、先輩の言う事は理不尽だとしても絶対、そういった悪習が無くなった。ただ緩んでいるだけかもしれないが。
だらける一年を叱り飛ばしに行った主将の後ろ姿を見る。『悪童』に潰されて、選手生命を絶たれた人間も居るかもしれない。でも主将のように、アホみたいな決まりから脱して救われた人間も居るのだろう。正と悪は立場が変われば逆転する、見方を変えれば形が変わる。
「お前今日はよく喋るな」
「え。そ、うかな……ごめん」
自覚が無くて少し恥ずかしくなる。
「別に責めていないさ。花宮のラフプレーが見られるようになってそんなに嬉しいのか?」
「あー原ちゃんに聞いた? んー……」
まこちゃんのラフプレーが見られるようになる、しかも他の部員は乗り気だ。彼のスタイルが、私が良いと思ったモノが受け入れられている。きっとこれから沢山格好良い姿が見られて、沢山愉しいモノが、潰れゆくくだらない青春が見られる。もう二年だし監督も居ないので、マネでもベンチに入れる。
それは確かに嬉しいけど、
「皆レギュラー入りしたから。改めておめでと」
言うと康くんは少し驚いた。
つい先日した軍振り分け及びレギュラー昇格試験、前から入っていたまこちゃんは勿論、瀬戸古橋原山崎も無事レギュラー入りを果たした。決定は主将・副将、意見が別れた際の多数決要員としてマネで行った。結果は私なんて必要ない、二人の満場一致。彼らの代わりにレギュラー落ちした三年も居るが、実力の差はすぐ解る。反対や文句は無かった。
「そんなに浮かれる事か? まだスタメンでは無いんだぞ」
「そうだけど。まぁまこちゃんも私も、贔屓なんてしてないから自信持って」
「お前達がそんなバカな事をすると思っていないから安心しろ」
「ふふ。大会、ちょっと楽しみだね」
「そんなにか」
「そんなに」
「……俺達よりお前の方が嬉しそうだな」
クスクス笑っていると軽く頭を撫でられた。
三年が引退するまで、皆がスタメンになれるかは微妙なラインだ。それでもやはり、仲の良い人間がレギュラーになる事は嬉しい。自分がレギュラーやスタメンに選ばれても、試合に勝ってさえも何も思わないのに。そのどれよりも、とても嬉しかった。
∇ ∇ ∇
「黒子君てば結構度胸あるじゃない?」
「流石はあの帝光のレギュラー張ってたただあるか」
「屋上はもう入れないので。と言うか、帝光でレギュラーじゃなかったとしてもあれくらいは出来ます」
「そこ意地張らなくても良いだろ、なんの抵抗…………は!? 元 帝 光 中レギュラー謎の 抵 抗、キタコレ!」
「伊月黙れ、一年が引いてる」
「とにもかくにもぉ……火神君、河原君、黒子君、福田君、降旗君。以上一年生五名の入部を許可します! ようこそ、誠凛高校男子バスケ部へ!」
相田先輩──カントクに続いて、先輩達が歓迎の言葉を掛けながら笑う。
仮入部期間が終わり、屋上での目標宣言をクリアした僕達は無事バスケ部へ入部した。目標宣言が出来なかった僕、校庭に書いたアレはどうやら気に入られたようだ。今日から練習が本格始動する。
新設校の誠凛は先輩達が全員二年で部員の数も少ないからか仲が良く、カントクと主将の日向先輩は厳しいけれどガチガチに絞めた張り詰めた緊張感は無い。笑顔も、冗談も、弱音も、激もあるけれど、皆がやる気に満ちていて。とても良い空気だ。早くもここに来て良かったと、良いチームに巡り会えたと嬉しく思う。そして、
「だから言ったじゃねぇか、ちゃんと入部出来るってな。ったく、屋上入れなくなったくれーでウジウジしやがって」
「ウジウジなんてしてません。ただちょっと……大丈夫かなって不安になっていただけです」
「それをウジウジって言うんだろ!」
「わっ黒子、火神怒らすなよ!」
「一年! 入部早々仲が良いのも威勢が良いのも良いけど、ちゃんと気合い入れて練習に集中しろコラ!」
火神大我君──新しい光に出会えた事も。
カントクの読みとる眼という特殊な能力と、仮入部期間の練習から測られた僕達の正確なポテンシャル、それを加味して設定された練習は既に死を覚悟するギリギリの量と質だ。きっと強くなる、そんな練習がまた出来て嬉しいと思う。強くなるんだろうけど。
「久しぶりに、吐きま、し……た」
「久しぶりって……黒子本当に帝光のレギュラーだったのか?」
「あ゙ー……マジスゲー疲れたぜ、体力には自信あんだけどな」
「死ぬかと思った、俺朦朧とした意識の中で去年死んだペットの金魚見たわ」
「俺は既に一回死んできた……」
カントクは厳しいけれど、なんて話じゃない。仮入部期間があったとは言え、初日にしてこれは厳しいどころの話じゃない。いかにも体力バカそうな火神君でさえ死んでいる。
「俺らも去年そんなだったわ。でもこれでカントクはちゃんと考えてメニュー組んでるから安心して感謝しろよ」
「そーそー! めちゃくちゃしんどいのに、なんだかんだ次の日に残らないんだよねー、疲れ。クールダウンがスゲーのかなぁ?」
「で、気がつくと疲れない体になってるんだ」
「よく考えられてるよな、オーバーワークにならないようにさ」
一年全員、部室でへばっていると先輩達が苦笑いした。
「主将、そう言えば伺いたかったんですが、」
「うおっ!!?」
「今日から部活開始じゃないですか」
「あ、あぁそうだな……てか急に背後から現れるなって」
「部員はこれで全員ですか? 女性でその、カントク──相田先輩は監督ですが、マネージャーは居ないんでしょうか」
もしかしたら仮入部期間だから居ないだけかもしれない……なんて、今日の正式入部まで無理矢理都合良く考えていた事を訊く。すると小金井先輩が、ニヤニヤしながらのしかかるように肩を組んできた。
「なになに〜? 黒子ってば意外と女子マネ狙いなの?」
「いえ、そう言う訳では、」
「カントクは狙っちゃダメだからね〜。まーでも解るよ、運動部っつったら可愛い女子マネージャー! 潤いが欲しいよね、笑顔でボトル渡されたいよね、黒子クンも飄々としてそうでオトコノコだもんねっ!」
「ええと、」
「解ります! カントクが笑顔でボトル渡してくれたら可愛いと思うんですけど、なんかぶん投げられそうで……」
「だな、仮入部と今日で悟った。寧ろ頭からドリンク掛けられそうだ……可愛いのに勿体無いよなぁ」
「ダァホ! カントクをやましい目で見てんじゃねーよ一年!」
「ぶふふふ! 日向センパイ怖っ!」
怒る主将に小金井先輩が笑い、他の先輩達と降旗君達が生暖かい視線を送った。僕と火神君は視線の意図が解らず、お互い顔を見合わせ首を傾げる。
と、火神君が急に呆れた顔で、心底バカにしたように吐き捨てた。
「つーかお前、『キセキ』倒すとか日本一とか言ってたクセに女目当てかよ」
「違いますってば……」
そういう意味では無いのに、そのまま「くっだらねぇ……便所」とのろのろ立ち上がる。弁解の余地くらい残して欲しいものだ。「火神、遠回しに俺を貶すなよ……」好きな人に言われた言葉が入部動機の降旗君が流れ弾に当たり落ち込んだ。すみません、君を貶す訳ではありませんが、僕も正直あまり一緒にして欲しくないです。
「女性目当てではなくて。少し、探している人、と言うか……」
「ほーほー、詳しくお聞かせ願おうじゃないかっ! センパイに話したまえ!」
「男バスのマネをやっていそうな方だったので気になっていて」
「やっていそう?」
「はい。マネかどうかは解らないんですがバスケに詳しいようで、中学の、帝光の試合も観戦していたそうです。『キセキの世代』の事も知っていました」
『キセキの世代』の単語に反応したのか火神君は一瞬足を止めたが、バタンと部室を出て行った。ちゃんと最後まで聞いて欲しい。これでは勘違いされたままになりそうだ。
「へ〜女バスは? ウチの女バス同好会だけども」
「それが僕より頭一つ分、は言い過ぎでしょうか……背が低く細い方だったので、彼女自身が選手には見えなくて。なにより『キセキ』の彼らが入学した高校の殆どに、男バスの知り合いが居ると言っていました。だからマネかと」
「へぇ、そりゃまた小さ……てか顔広ぇな。そもそも誠凛なのか?」
「解りません」
「は? なんだそれ」
「どーゆーコト?」
「三月に会って高一だとしか……多分都内の高校だとは思います。『種田さん』と言う方なんですが、どなたかご存知ですか?」
「皆知ってるか?」
「知らないなぁ。去年も今年も、俺のクラスには居ないよ」
「(ふるふる)」
「オレも知らないなー。水戸部も知らないってさ」
「種田…………種田、なぁ……」
「伊月知ってんのか?」
「うーん……知ら…………ないと思う。うん、知らないな。誠凛じゃないんじゃないか?」
「そうですか」
残念ながらどうやら種田さんは誠凛では無かったようだ……流石にそこまで偶然は重ならないか。『キセキの世代』の皆が行った高校の内の四校のバスケ部に知人が居て『幻の6人目』である僕と出会う、その時点で既に凄い偶然なのだから。
「まだんな話してたのかよ」トイレから戻った火神君の冷たい目が突き刺さる。そろそろ勘弁してくれませんかね。
「都内って事と、学年と名前しか知らないのかぁ。前途多難な恋だな」
「ですからそう言うのじゃありません」
「いやいや〜。だってウチのマネだったら良いって思ったんでしょ? そうじゃなきゃ訊かないでしょ!?」
「それは彼女がバスケに詳しそうで、親切で気遣いの出来るとても優しい人だったので、マネだったら心強い味方だと思ったんです。それに──……」
それに、僕に、気付いていたから。
「そーれーにー? 可愛かったとか!? 美人!?」
「……それはよく解りません」
「バッサリ! うわ〜よく解んないってなにそれ、スゲー気になる!」
表情の変化は少なかったものの、大丈夫かと訊く柔らかな微笑みや、友人が載っていると喜ぶ無邪気な笑顔は、異性として……は僕には解らないけど人として魅力的だったと思う。安心したし、目を奪われた。だが一瞬見えた怖いくらいの無表情、あれが可愛いや美人、魅力的といった印象を打ち消す。
「てかなに、試合会場で一目惚れして声掛けたとか? その度胸でナンパか!? いや三月に会ったなら違うか……」
「ですからそういうのじゃありませんって。ちょっとした縁で会って……恩人と言いますか、それだけです」
「でも探してるって、つまりもう一回会いたいんだろ?」
「恋はいつの間にか、自分でも気付かない内に落ちるモノって言うからな。はっ! 俺の胸に落っこちて 恋、」
「伊月黙れ」
「じゃぁもうそれで良いです。先輩達面倒臭いです」
「真顔でキレるなよ、悪かったって……てかLINEとか訊かなかったのか?」
「思い浮かびませんでした」
「うーん……ダメだこりゃ」
頭を抱える先輩達。呆れていた火神君はこれまた呆れた顔で口を開く。
「まーたウジウジしてんのか。しかも、今度は女相手に」
「はぁ。してませんよ」
「会いてぇの?」
「また会えるなら会いたいですね」
「ふーん。こんだけ惚れてねぇって言っておいてかよ?」
「本の好みもそこそこ合いましたし。それに、その……試合中の僕に気付いていたので、少し、気になって」
「は……?」
「「「「「く、黒子に、気付いた!!?」」」」」
そもそも恋愛はよく解らないし、と思いながら答えると、僕以外の部員の驚きの声が部室内にこだました。種田さんから聞いた時は僕も驚いたけど、他人にここまで驚かれると少しショックだ。『“幻”の6人目』なのにどうやって気付いたんだ、もし他校のマネならヤベェな、カントク達みたく何か特殊な眼の持ち主かも、その人も影が薄いとか。ざわざわと予測を立て盛り上がる皆を見て、まぁ仕方ないかと思い直す。
「んなに会いてぇなら、その内会えんだろ」
「適当ですね、希望的観測ですか」
「キボー? は? 良く解んねーけど、男バスのマネだろ? 都内なら試合で当たったりすんじゃねーの」
「マネかどうかも解りません」
「んな自信持って言う事かよ! どっち道、試合観るような奴ならまた来るんじゃね? 会場で会えんだろ」
「なるほど」
「日本なんてアメリカに比べたら小せぇんだしウジウジすんな、面倒くせぇ」
「帰国子女は言う事がビッグですね」
ちょっと規模が大き過ぎてアホっぽいですが。と言うか、ウジウジしてませんってば。
でも火神君の言い分はもっともな気がした。僕に気付いた種田さんなら、例え僕が彼女を会場で見付けられなくても、向こうから気付いて見付けてくれるかもしれない。彼女が忘れているかもしれないのに、少しだけ、そんな淡い期待を抱いた。