君と僕の平行線


「一人で何してんの?」
「わあっ!?なんだ遙真くんかぁ…びっくりした」

遙真が声をかければ心寧はびくりと大きく肩を震わせ驚きを全身で表現する彼女は慌ててこちらを振り返って、声をかけてきた相手が遙真だとわかると安堵したようにゆっくり息を吐いた。小動物並にビビりな彼女を驚かせないように声量には気を遣ったつもりだったのだがそれだけ心寧が集中していた証拠だろう。

「……えっと今度の球技大会の練習を…私、ソフトボール下手くそだから」

コソ練の場所に人目につきにくい校舎裏を選ぶのがまた彼女らしい。

「ああ、だからコソ練してるんだ。てか下手なら他の出来そうなやつ選べば良かったじゃん」
「それはそうなんだけど…ラクなのは人気でね、じゃんけんに負けちゃって。みんなの足引っ張らないように練習しておかないと」
「つっても球技大会でしょ。適当にやればいいのに真面目だねぇ」

たかだか球技大会にそこまで真剣に取り組む人も少ないだろうに。ふにゃりと屈託のない笑顔を浮かべる心寧を眺めながら遙真は静かに息を吐いた。

────同じ顔なのに……

心寧は驚いたり青くなったり困り顔を浮かべたり、表情をくるくると変える。もし心湖に心を許されたら彼女もこんな風に色んな表情を見せてくれるだろうか、と遙真はここにはいない双子の姉に思いを馳せる。そんな女々しい考えを振り払うように遙真は足元に転がってきたボールを拾い上げ心でも取れるように大きくなりに投げる。

「わととっ」

わたわたと忙しない動作でなんとかボールをキャッチして心寧は嬉しそうにはにかんでいる。
あの子だったらいちいちこんな風に練習しなくとも簡単にやってのけてしまうのだろうな。いま一緒にいるのは心寧のはずなのには気付けばあの子のことばかり考えてしまう。

「ボール取る時に無意識に目瞑ってる。そんなんじゃボールキャッチ出来ないよ」
「ううっボールがこっち来ると怖くてつい・・・。あの、遙真くんが暇な時があったらよかったら教えてもらえないかな、あっ本当にすっごく暇な時があれば……」
「はぁ。 前にやり方なら教えてあげるって言ったでしょ」
「っ、ありがとう!」

心寧はふわっと花が咲くように笑う。
二人とも未だ自分に対する警戒心は残っていけれど遙真が何かして屈託なく笑ってくれるのはいつも心寧だ。 きっとこれから先も恋焦がれてやまない心湖が自分に笑顔を見せてくれることはないだろう。
こういうところで双子の違いを感じてしまい胸が痛む。 あの子の笑顔を見たことがないんだから比べようがないのに、そう自嘲してプレザーを渡り廊下の手すりに掛けると遙真は心寧の元に戻っていった。



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