story.10

中々退きそうにない彼等の様子にシルヴィアがついに我慢の限界を超える時が来た。

ざわざわざわ!!

『ああもうっ!!あなた達いい加減にしてちょうだい!!!』
「「「「「!!」」」」」
『これじゃあ、いつまで経ってもドフィの所へ行けないわ!!さっさと離れないと撃つわよ!?鬱陶しいのよ!!!』
「「「「「怒ってるあなたも素敵だあァァァァッ!!!{emj_ip_0834}{emj_ip_0834}{emj_ip_0834}」」」」」

シルヴィアがついに我慢の限界を超え、二丁拳銃を構えてキレ気味に言うと、今まで蟻の如くシルヴィアに群がっていた海兵達は一斉に道を開けた。その際、全員口を揃えてシルヴィアへのラブコールを忘れない。先程までの、言葉が誰一人揃わないで聞き取れなったのが嘘の様だ。その反射神経と協調性をもっと別の事で発揮するべきだが、ここまでくればもう呆れて何も言えなくなるというもの。

もう考えるのも疲れるので、シルヴィアは海兵達が退いた事で開いた道を通り、その長い腕を広げ、身長の差を埋める様に膝をついて待ってくれているドフラミンゴの元へ、満面の笑顔を浮かべて駆け足で寄って行く。
その時、シルヴィアの満面の笑顔を見て鼻血を噴いて倒れて行く海兵が、戦闘とは別で血の海を作っていくのが見えたが、ドフラミンゴもシルヴィアも気にしなかった。最早、自分には彼しか見えていない。

──パフっ

『ドフィ!!会いたかったわ!!』
「おれもだシルヴィア!!今日は散々だったなァ!!フッフッフッ!!」

パフっという可愛らしい音を立てながら、ドフラミンゴの広げられていた腕の中へ飛び込んだが、ドフラミンゴはそんなシルヴィアを難なく抱きとめてくれ、膝をついていた地面から自分を抱いたまま立ち上がってくれた。そしてもうこの場にいる必要もないので、鼻血を噴いて倒れている海兵達をそのままに、立ち去る為にドフラミンゴが歩き出した。その時、前方から見知った人物が現れた。その人物とは──


「シルヴィアちゃん久しぶり〜!!最近、全然会えなかったから寂しかったよ……って、うわっ!!なんだこの血溜まり!?何の騒ぎ!?」


大将青雉と言われるクザンだった。
クザンは、最初はシルヴィアを見て嬉しそうに声を掛けてきたが、自分達の後ろに鼻血を噴いた事で倒れている沢山の海兵を見て驚愕したようだ。
そして、次にドフラミンゴの方を疑いの目で見ていた。どうやらドフラミンゴがやったと思っているらしい。その事にシルヴィアが気づき、苦虫を噛み潰したような顔わした。そして、ドフラミンゴの疑いを晴らす為に口を開くが、彼の方が早かった。

「おいおい、おれの仕業じゃねェぞ!!コイツら全員、おれの可愛いシルヴィアチャンの可愛い笑顔見て勝手に鼻血出してぶっ倒れやがったんだよ!!フッフッフッフ!!」
「…あァ、なるほどね。なんか想像ついたわ。
でも、本当かシルヴィアちゃん?」
『ええ、ドフィの言う通りよ!!だから、そんな目でドフィを見ないでちょうだい、クザン!!今回は完全にわたしの所為なのだから!!』

ドフラミンゴが否定したにも関わらず、半分納得したようだが、まだ疑いが完全に消えなかったらしいクザンは、シルヴィアにも聞いてきた。その事に眉を顰めながらもシルヴィアが肯定したことにより、やっとドフラミンゴへの疑いは消え、今度は申し訳なさそうにシルヴィアを見て謝罪してきた。

「それはごめんな、シルヴィアちゃん。中に海兵が少ないと思っていたら、まさかここにいたとは予想外だった。──もしかして、ここへ来た時はいつもこんなん?」
『ええ、大体いつもこうよ。みっともなく鼻血を噴いて倒れたのは初めて見たけどね。彼等は鬱陶しいくらいわたしに群がって来るけれど、仕事や特訓はどうしてるの?暇なのかしら?』
「フッフッフッフ!!暇なわけねェよなァ!!?ただでさえ、あと数日後には例の"公開処刑"の事があって今まで以上に海兵共の特訓を厳しくしてるはずなんだからなァ!!フフフフフ!!」

シルヴィアは普段温和で滅多に怒ることはない。だが、シルヴィアは先程の出来事と、ドフラミンゴが疑われた事に腹立たしく思い、自分でも珍しく思いながらもクザンを挑発するような言い方をした。そんなシルヴィアの様子を見て、ドフラミンゴはニタリと音が出そうな程に口角を最大まで引き上げていた。ドフラミンゴは、シルヴィアが滅多に怒らないためか、自分が怒ると今みたいにニタリと笑い、何故か嬉しそうにする。

だが、クザンはそうではなかった。シルヴィアの珍しく怒ってる様子に驚愕しつつも、困惑している様子だ。普段なら反論しているドフラミンゴの挑発にも、そう出来ない程に。そんなクザンの様子に申し訳ないと思いつつ、1度こうなってしまってはシルヴィア自身でも止められそうになく、口が勝手に言葉を発していく。

『このみっともない様子じゃ、あなた達の鍛え方がまだまだ甘いのがわかるわ。女を見に行かす暇がないくらい、わたしが直々に地獄を見せてあげましょうか?』


──ドカアアン!!

「「『!!』」」

突然、禍々しい程までの殺気と何かが迫ってくるのを感じ、クザンとドフラミンゴは咄嗟にその場から飛び退いていた。シルヴィアはまだドフラミンゴの腕の中にいるため、必然的に彼と一緒に飛び退いたことになる。
そして、今まで自分達がいた所には凄まじい破壊音がした。正確に言えば、シルヴィアとドフラミンゴがいた場所だ。狙いは自分達らしい。辺りは白い煙で包まれた。

「黙って聞いちょればおどれら好き勝手言ってくれるわい、海賊風情が!!そんなに暴れたいんじゃったらわしが相手しちゃるけぇの!!」

その言葉と共に白い煙の中から現れたのはら大将赤犬のサカズキだった。サカズキは腕にマグマを纏っている。
シルヴィアはドフラミンゴの腕から飛び降り、二丁拳銃を構えた。

「サカズキやめろ!!今回は完全におれ達に非がある!!」
「おどれは黙って見ちょれ!!おどれがそんなんじゃけぇ海賊なんぞに舐められるんじゃ!!
──そんなガラクタ、わしには通用せんぞシルヴィア!!」
『この二丁拳銃をガラクタ呼ばわりなんて失礼しちゃうわ!!今までの二丁拳銃と同じにしてもらっちゃ困るわ!!』

──ガガガッ

シルヴィアはそう言い、サカズキに3弾打った。その3つの弾はサカズキの頬を擦った。
自然系の能力者には本来、武器などの物理攻撃は身体を通り抜けるのに、ローズクイーンにはそれがなく、サカズキの頬を弾が擦っている。確実にあたっている。

「そんなガラクタじゃァ通用せん言いちょるじゃろうが!!みっともない悪足掻きはやめんかい!!」
『あら、みっともないのはあなたの方じゃない!!気づいていないの?』
「赤犬、お前の言ってたガラクタで頬から血ィ出てんぞ!!フフフフ!!」
「「!!」」

どうやら、本当に気づいていなかったようだ。その様子にほくそ笑んだシルヴィアの後に、ドフラミンゴが続けて可笑しそうに言うと、サカズキは頬へと触れた。
そして少量の血がついた手を見て、驚愕していた。クザンも同じ様に驚愕している。
サカズキの頬には、猫に引っ掻かれた様に三本綺麗に並んで傷が出来ていて、血が出ている。

『うふふっ、これでわかったかしら?二丁拳銃がただのガラクタじゃないと!!』
「シルヴィアちゃん、その二丁拳銃はいったい…!?」
『そう簡単に全て教えてしまうとつまないと思わない?』
「なんじゃと…?」
「フフフフフフフ!!最高だ、シルヴィア!!!」

種明かしすると思われたシルヴィアのまさかの挑発的な言葉に、周りは様々な反応を見せた。クザンは呆然、サカズキは怒り爆発寸前という様子だったが、ドフラミンゴは賛称してくれた。

「なら無理矢理にでも聞くまでじゃ!!」
『やれるもんならやってみなさい!!』

サカズキはマグマを纏い、シルヴィアは白狐の姿になった。
白狐の姿─頭に白く大きな耳が生え、手触りが良さそうなふさふさの白く長い十本の尾、鋭く尖った黒く長い爪、黄金に輝く金色の瞳に変わりこの姿がシルヴィアの本来の姿である。
この姿は完全に戦闘体制に入ったことを意味する。

そして、二人が同時に飛び出そうとしたその時──




「お前ら何をやっているんだ!!!」

サカズキとシルヴィアが激しくぶつかり合うかと思われたその時、怒号が響いた。それはセンゴクの怒号だった。
彼の登場にシルヴィアとドフラミンゴは舌打ちした。クザンはほっとしている様子で、サカズキは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「おいおい、今からおれの可愛いシルヴィアが、赤犬と楽しい殺し合いをするいいとこだったってのに、邪魔するんじゃねェよセンゴク!!」
「黙れドフラミンゴ!!!」
『ちょっとセンゴク、ドフィに乱暴な言い方止めてちょうだい!!彼の言う通り今からがいいところだったのに!!』
「貴様も黙れシルヴィア!!!中にいる海兵が少ないと思って出てきてみれば…なぜこんな事になってるか知らんが、大事な例の処刑が間近な時に無駄な争いをするな!!!サカズキとクザン、貴様らもだ!!!」

センゴクの言葉に4人は揃って苦虫を噛み潰したような顔した。

「ドフラミンゴとシルヴィアは部屋へ戻れ!!クザンとサカズキには後で説明してもらうぞ!!特訓や仕事をしていたはずの大量の海兵達が気絶してることもな!!」
「そこの海兵共はシルヴィア見たさに特訓を投げ出した挙句に、シルヴィアの笑顔見て鼻血を噴いて気絶した奴らだぜ!!フフフフフ!!」
「なんだと!!?本当なのか!!?」
「……あー、信じたくないのも無理ないが事実みたいだ、センゴク。今回はおれ達に非がある」

センゴクの否定を求めるように見つめている顔を見て、サカズキもクザンもセンゴクから顔を逸らし一瞬沈黙したが、サカズキが何も言わないのを見兼ねたのか、クザンが非常に言いにくそうに言った。
そんな様子の彼等にセンゴクは嘘じゃないという事がわかったのか、この世の終わりのような顔をした。

「な、なんということだ……!!上になんて報告すればいいと言うんだ……!!!」
「なんと言えばいいかだと…!?フフフ!!定直に言やァいいじゃねェか!!フフフフフ!!」
『そうよ、ドフィの言う通りだわ』
「それが出来ないから困ってるんだ!!いいから貴様等はさっさと部屋へ戻れ!!」

ほくそ笑んだシルヴィアと、ニヤリと笑いこの状況を楽しんでるドフラミンゴに、センゴクは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

シルヴィアは先程にサカズキとの戦闘をセンゴクに止められ、すっかり興醒めしていたので、素直に部屋に戻ることにした。
ドフラミンゴに姫抱きしてもらい、部屋へ歩き出した彼の胸に顔を埋め、心地良さから自然と瞼が重くなり目を閉じた。