story.9

シルヴィアが海軍本部マリージョアへ到着したということで通話を終了して迎えに行くために、部屋を出て海岸に向かった。先程まで電伝虫を通じてやり取りをしていた時の、シルヴィアの事を思い出しながら。

彼女はどうにも様子が可笑しかったのだ。上手いこと誤魔化されたが、明らかに何かがあったに違いない。だが、これだけは言えるが、愛していると言った言葉は本当の事だろう。それは決して自惚れなのではないはずだ。
シルヴィアは恥ずかしがって滅多に自分から愛情表情をしないため、言われた時は思わず息を呑む程驚いたが、それと同時に歓喜した。そのため、ドフラミンゴは今非常に機嫌が良かった。あまりにも機嫌が良すぎてそれが全面に出てるのか、途中すれ違う名前も知らない海兵が気味悪そうに見てくるのがわかった。今のドフラミンゴはそれすらも気にもならなかったが。
だが、次に耳に入った言葉には思わず反応してしまい、気づけば立ち止まって聞き入ってしまっていた。

「おい、聞いたかよ!!あのシルヴィアさんが本部に来たらしい!!今海岸はシルヴィアさん見たさに集まった海兵で溢れてるらしいぞ!!」

少し離れた所で、これまた名前も知らない数名の海兵が、自分の恋人の噂をしてるのが聞こえた。

「まぢか!!おれ、1度もシルヴィアさん見たことないから見てみたいな!!」
「そうか、お前は最近本部に来たからまだ見たことないのか!!あの人は中々見れるもんじゃないから1度は見た方がいいな!!」
「噂によれば海賊女帝に負けてない程の美人なんだろ!!?」
「おれは海賊女帝よりシルヴィアさんの方が美人だと思うぞ!!」
「フッフッフッ!!お前らよくわかってんじゃねェか!!」
「「「「ド、ドフラミンゴ!!」」」」

ドフラミンゴは気づけば海兵達に近ずき、会話に混ざっていた。自分の愛する女が話題の中心なので反応しない訳がなかった。それが褒められているとなれば尚更だ。
だが、海兵達は突然のドフラミンゴの登場に警戒していた。ドフラミンゴは彼等のそんな様子を見て可笑しそうに笑った。

「おいおい、何もしねェからそんな警戒すんなよ、フフフフ!!おれはただ自分の女が話題になってたから気になっただけなんだからなァ!!フッフッフッ!!」
「「「!!?」」」
「自分の女!!?あの噂は本当だったのか!!」
「シルヴィアさんがドフラミンゴと付き合ってるっていう噂がまさか本当だとは…!!」
「フッフッフッ!!この中にはアイツに手ェ出すようなバカはいねェだろうが一応忠告しておくが──シルヴィアに何かあったらおれが容赦しねェからなァ!!フフフフフフ!!」

ドフラミンゴはそう言うと、今度こそシルヴィアを迎えに行くために歩き出した。背後では、先程シルヴィアの噂していた海兵達が息を呑んだのがわかった。

──シルヴィアは息を呑む程に美しい!!あんだけ美しかったら触れたくなるのは仕方ねェことだ!!だが、アイツに触れて良いのはおれだけだ!!他の誰にも触れさせてなんてやらねェよ!!フフフフフ!!









ドフラミンゴがシルヴィアがいる海岸に着くと、ここへ向かう途中ですれ違った海兵が噂していた通り、沢山の海兵で溢れていた。全員がシルヴィア見たさで集まった者達で間違いないだろう。これじゃ簡単には通れなさそうだ。シルヴィアを中心で集まる彼等は、まるで餌を見つけて集まる蟻の様だ。

ざわざわざわ!!

──チッ!!邪魔くせェなァ!!

そう思ってしまう程だった。ざっと見ても500人以上はいるだろう。これだけの人を惹きつけるシルヴィアはさすがだが、邪魔すぎるのが問題だ。更には全員が全員、彼女に何か言っているがこれだけの人数がいれば何言ってるか聞き取れない。
何も今回が初めてではない、彼女が来るといつもこうなのだ。だが、前回本部に来た時より集まる人が増えている。それだけシルヴィアの影響力は凄まじいという事だろう。

ざわざわざわざわ!!

「コイツら特訓はどうしたんだァ!?こんなんで正義を掲げて、海賊や山賊から市民の平和を護ろうとしてんだから笑わせてくれるぜ!!フフフフフ!!」

みんな揃いも揃って目をハートにし、鼻の下をだらしなく伸ばしてシルヴィアに群がってる姿は、とてもじゃないが正義を掲げて市民を護る海兵には見えなかった。あまりのだらしの無さに声を出して言ってみたが、この騒がし過ぎる程に騒ぎまくってる彼等には聞こえなかったようだ。それもそれでどうかと思うが。

ドフラミンゴが声を出した所で、この騒がし過ぎるこの中では自分の声が彼女に聞こえるかわからないので、"イトイトの実"の能力を使うか、"覇王色の覇気"でも使って気絶させてしまおうかとドフラミンゴが思った矢先で、シルヴィアが自分に気づいたようだ。

ざわざわざわざわ!!

『ドフィ!!迎えに来てくれたのね!!』

何故だかわからないが、これだけ騒がしくてもシルヴィアの声だけは聞こえた。それは彼女の声が、それ程までに大きかったからではない。かと言って、よく通る声をしているが、それでも500人以上が騒いでいる中では聞こえるはずもない。

──フッフッフッフ!!これが愛のパワーというやつかァ!?フフフフフ!!

ドフラミンゴはそう思ったが、内心で爆笑した。自分はこんなこと思うような奴ではないはずだ。ただ、今回は状況が状況なだけに、そう思わずにはいられなかったのだ。まさか自分がこれ程までにシルヴィアに惚れているとは思わなく、ドフラミンゴは彼女への愛の深さを改めて知ったのだった。