これは天竜人達がシロノ国に到着する前の数時間前のお話──…
ここは天竜人達が住む聖地マリージョアである。
聖地マリージョアに存在する天竜人のうちの一家のドンキーホーテ家では、慌しく動き回る2人の人物がいた。
──ドタドタ
「んぅ──…なんだえ?」
ドフラミンゴはリビングの方で響く大きな足音で目が覚めてしまった。隣に視線を向けると、まだすやすやと寝ている弟のロシナンテがいた。
そして、再び寝ようとしたが──
──ガタガタ
「……」
うるさくて寝れそうにないので、ドフラミンゴは寝るのを諦めてリビングへ行って音の発信源を確かめることにした。
リビングへ行くと、何やら慌しく奴隷を使わずに何かをしている父と母がいた。どうやら音の発信源はこの2人のようだ。
「母上に父上、なにしてるんだえ?」
「起きてしまったかドフィ!うるさくしてごめんな」
「今日は皆で他国へお出かけするから準備してるの」
ドフラミンゴが起きたという事で、1度準備をする手を止めた父と母がそう言ったが、直ぐまた準備を再開した。
「どこに行くんだえ?」
「シロノ国っていう白狐一族の者達が住んでる所だ」
白狐一族、ドフラミンゴはその一族の存在は以前父から聞いていたので知っていた。ドフラミンゴ達天竜人と同じこの世で最も気高い血族だと。
「なんでその国に行くんだえ?」
「白狐一族の次期当主が決まったからお祝いに行くんだ。私の友人の娘がそうで、その子はお前と同い歳の可愛い女の子だと聞いている」
ドフラミンゴは父の話に出た自分と同い歳の女に素直に興味が湧いた。あの白狐一族の長になる者がドフラミンゴと同い歳の女とは、一体どんな人物なのだろうと。
「仲良くなれるといいわね、ドフィ」
「そうだな、お前とロシーにはその子とは仲良くなってもらいたいものだ」
そう優しく微笑んで言った母と父に、ドフラミンゴは無言で頷いたが内心は不安だった。今まで奴隷の者としか家族以外で接したこともなければ、友達という者はいた事がないし、ましてや身分が同じの同い歳の女の子が相手とは、尚更どう接したら良いか全然わからなかったのだ。
「……仲良くなれると思うかえ?」
「あァ、きっとなれるさ」
そう言って父に力強く頷かれ、ドフラミンゴは先程までの不安が消え、まだ見ぬ相手へ思いを馳せた。その思いは一つ、その子と仲良くなりたいという思いのみ。
「おれも準備手伝うえ!!」
無性にその女の子に早く会いたくなり、ドフラミンゴは気づいたらそう口にしていた。そんなドフラミンゴに父と母は驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうな顔に変わった。
「驚いたな!まさかお前がそう言ってくれるとは!」
「嬉しいわ!よろしくねドフィ!」
「おれはなにすればいいんだえ?」
「そうだな…じゃあ、まずは寝巻きから着替えるのが先だな」
「わかったえ!!」
ドフラミンゴは大きく頷き、パタパタと足音を立ててロシナンテとドフラミンゴの部屋へと行き、着替えを始めた。
「ん──…あにうえ?」
その時、今まで寝ていたロシナンテが起きてボーッとした顔で、着替えているドフラミンゴを怪訝そうに見てきた。
「ロシー、出掛けるえ!お前も早く着替えるえ!」
「え?…どこに行くんだえ?」
そう聞いてきたロシナンテに、ドフラミンゴが先程父と母に聞いた話を聞かせた。
するとロシナンテは少し不安そうにしているが、それでも嬉しそうに笑顔を浮かべている。それでロシナンテはドフラミンゴと同じ気持ちなのだと気づいた。
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あれから準備を終え、ドンキーホーテ一家は海岸で控えさせてあった豪華な船で聖地マリージョアを出て、無事にシロノ国へと到着した。
「いつ見ても美しい国だ」
「ええ、本当に」
父と母がそう話しているのが聞こえた。ドフラミンゴもシロノ国を見て、あまりの美しさに口を開け呆然とした。この国は花や木などの植物も、建物も、生き物も全て白かった。陽の光に照らされてキラキラ輝く光景は実に美しかった。
「──天竜人のご一家よく来てくれました。この度は遥々聖地マリージョアより来て下さりありがとうございます」
ドフラミンゴが呆然としていたら、知らない男の声が聞こえてそちらに視線を向けると、そこには白い着物というものを着て、やけに髪が長くて背が高い若そうな男がいた。父はその人物を見ておお!と嬉しそうな声を上げた。
「おお!!アランダイン、久しぶりだな!!」
「ホーミング、久しいな。家族共々よく来てくれた」
父と、そのアランダインと呼ばれた人物は嬉しそうに笑顔を浮かべて再開を喜んでいた。どうやらこの人物が父が言っていた友人だとわかった。それがわかって周りにきょろきょろと視線を回してみたが、ドフラミンゴと同い歳くらいの女の子は見当たらず、それが酷く残念に思った。ドフラミンゴは早く会いたいのだ。
「ドフィ、ロシー、この人は白狐一族の五代目当主で私の友のアランダインだ。お前達挨拶しなさい」
「はい、父上。
──アランダインさん、ドフラミンゴです。よろしくお願いします」
「ろ、ロシナンテです!よろしく、おねがいします!」
父に言われ、ドフラミンゴはアランダインに頭をペコッと下げ自己紹介をした。その後にドフラミンゴの姿を見ていたロシナンテも、母から少し離れてドフラミンゴの見様見真似だろうが、緊張しながら挨拶をしていた。
するとほう、とアランダインという人が声を出した。
「さすがホーミングの息子達だ、よく出来た子達じゃないか」
「そうか?そう言ってくれると嬉しいな!」
父がアランダインの褒め言葉に喜んでいたが、ドフラミンゴには最早そんなことどうでもよかったのだ。そんな事よりも──
「アランダインさん、あなたの娘さんはどこだえ?」
心で思う前に口が先に出ていた。すると、父と母とアランダインさんが驚いた顔をしていた。ドフラミンゴ自身もこれには驚いていた。確かに早く会いたいとは思っていたが、無意識に口から出る程とは思わなかったのだ。
そこでふと弟のロシナンテへ視線を向けると、ロシナンテも長い前髪から覗く目で真剣な眼差しでアランダインを見つめていて、ロシナンテもドフラミンゴと同じ気持ちなのだということがわかった。
──ロシーには渡したくないえ!!
まだ会った事もない相手なのに強くそう思った。可愛い弟のロシナンテにこんなこと思うなどどうかしてると思ったが、この気持ちは変わらなかった。
この胸の中に渦巻いているこの気持ちはなんというのだろうか?
「──ドフィはそこまでアランダインの娘に興味があったのか!」
名も知らない感情にドフラミンゴが気を取られていると、父の声が聞こえてハッとした。
「それは嬉しい事だな。この国には同い歳の子供は何人かいるんだが、当主以前に私の娘という事で身分の違いを感じて、本当の意味で友人にはなってもらえてない様だから、君が娘の良き友人になってほしい」
「はいっ!!もちろんです!!」
アランダインの言葉にドフラミンゴが笑顔を浮かべて頷くと、アランダインと父と母が嬉しそうにしてくれた。それを見て、ドフラミンゴも嬉しくなった。
「お、おれもアランダインさんの娘さんとっ…な、なかよくなりたいっですっ!!」
「ロシー、お前もか!!」
「ありがとう、よろしく頼むよ」
ロシナンテの言葉にも父と母とアランダインさんは嬉しそうにしていたが、ドフラミンゴはやはりちっとも嬉しくなくて、取られたくないとそう強く思ったんだ……。