そして、出会う前はまさか千郷が来たと露知らず、最初インターホンが鳴った時はいつも通りこの建物の持ち主の下に住むお登勢という名前のババアが、家賃を回収しに来たと思って、最悪な出会い方をしてしまった。最悪な印象を植え付けてしまっただろう。正直タイムスリップというものが存在するのなら、あの時に戻ってやり直したい。だが、そんな事を思ったとしても仕方ないだろう。これからその最悪な印象を良い印象に塗り替えるしかない。
そうと決まれば、まずは千郷の本来の目的の依頼内容を聞くとしよう。女性は仕事が出来る男性へ、良い印象を持つ筈なのだ。千郷に銀時は仕事が出来る男だということを見せつけ、良い印象を持たせる。これに限るだろう。
「それで千郷ちゃん、依頼ってのはいったい何なんだ?」
『大した依頼ではないのですが、実は──…』
「……何だろ。わかりたくもないのに銀さんが考えてる事が、僕には手に取るようにわかってしまいましたよ…」
「奇遇アルな、新八。私もヨ」
依頼内容を話だした千郷と、今までのだらしない顔を一変させ真剣な顔で聞いている銀時。そんな銀時の横で、神楽と新八が銀時の下心を読み取り、彼を白けた目で見て呟いていた。
『──という事なんですが、お願い出来ますか?』
「今日泊まる宿と、明日から住み込みで働ける仕事探しの事ならこの銀さんに任せなさい! そんなもん得意中の得意だ! 大船に乗った気持ちでいてくれていいんだぜ」
『本当ですか!? 頼りにしてます! よろしくお願いします!』
銀時が胸をドーンと張って言い放った。そんな銀時の言葉を聞いた千郷が、ぱあっと顔を輝かせキラキラとした眼差しで銀時を見詰めてきた。横から新八と神楽からの冷たい視線をビシビシと感じるが、そんな事今の銀時には気にならなかった。
「あーあ、銀さんあんな事言っちゃって…どうするつもりなんだか」
「知らないネ。放っとくアル」
そんな新八と神楽の呟きが聞こえ、銀時はハッとした。確かに自信満々にあんなこと言ってしまったが、宛がある訳ではないのだ。下のババアが経営しているスナックは千郷みたいな可愛い子が来たとなれば歓迎してくれるだろうが心配だから却下だし、真選組も住み込みで働いてくれる女中は募集してるだかろうがこれも色々な意味で心配だから却下だ。そんな事、飢えた狼の群れに兎を放り込む様なものだ。
そこまで考えて、銀時は自分の顔が段々と青ざめていくのを感じた。全身から嫌な変な汗が流れているのも感じる。自分の知り合いの所には録な働き先がなかった。
『あれ? 銀さんなんかちょっと顔色が悪くありません? 大丈夫ですか?』
「え゛っ!? あ、あはははっ!! ぜ、全然大丈夫大丈夫!!
し、新八! 神楽! お前ェらちょっと来い!!」
もうこうなったらこの2人に頼るしかない。銀時は千郷に一言待ってる様に告げ、新八と神楽の肩を掴んで奥の部屋へと引き連れて移動した。しっかりと襖を閉める事は忘れずに。
そして銀時は、神楽と新八の方に向き直り、2人の肩をガシッと掴んでぐわっと詰め寄った。
「おいお前ェらなんか良い所知らねェか!? 何かあるだろオイ!!」
「はあ!? 僕達が知ってる訳ないじゃないですか!!」
「そうネ!! 知ってる訳ないアル!!」
「いやいや、本当は知ってるんだろ!? 頼むから教えてください!! 300円あげるから!!」
銀時は必死だった。あそこまで堂々と言って、今更撤回するのだけは何としても避けたかった。もうこれ以上、千郷に最悪な印象を持たれたくなかったのだ。
「往生際が悪いですよ銀さん!! 諦めて千郷さんに正直に話しましょう!!」
「そうヨ!! その場の感情に身を任せるからそるなるネ!! 一時の感情に身を任せる奴は身を滅ぼすアル!!……あれ? 私今良い事言ったネ」
「ふ、ふざけんなァァ!! 良い事でもなんでもねェんだよ!! しかも一番当てはまる奴に言われたくねェよ!!」
「何言ってるネ!! 私はいつでも冷静アルヨ!!」
「冷静ィ!? どこかだ!!」
こうして神楽の言葉にツッコんだ銀時と、銀時の一言にムッとした神楽とで始まった言い合いが少しの間続いたのだった。
「ハア……どっちもどっちでしょーが」
そんな2人を見て新八は額に手を当て深い溜息を吐き、そのやり取りを見ていた。
TO BE CONTINUED