母の本丸を引き継いだのは、私が8歳の頃だった。仕事の都合で父が私の面倒を見れない時に何度か遊びに行っていた為、初対面というのは余りなく皆もスムーズに受け入れてくれた……と思う。
尤も、彼らがどういう存在なのか、母がどんな仕事をしていたのかを知ったのは私が中学生になった頃だ。その辺りから少しずつ簡単な雑務をする様になって、そこで色々と知ったのだ。今までは母の初期刀がやってくれていて、高校生になって正式に審神者となった私は彼に助力を乞いながら審神者の職務を全うしている。未だたどたどしい私を、彼らは微笑みながら見守って手伝ってくれている。これからも、迷惑を掛けるだろうな。
けれどもきっと、彼らは何も云わない。私が、母の子供だから。
それが酷く虚しく感じるようになったのは何時からだろう。私を見ているようで、見ていない彼らに。彼らにそんな意図はないかもしれない、ただ私がそう感じるだけで。だけど、それでも、私を突き刺す棘には変わらない。
仕方がない事だとは解っている。だって、彼らは母によって顕現された刀なのだ。老衰ではなく、事故で亡くなった母の死を受け入れがたいのだろう。……それでも、
「……主?どうかしたのかな」
「あ、ううん……何でもない」
学校まで迎えに来てくれた近侍に声を掛けられて、私は我に返った。
学生でもある私は本丸から学校に通っており、護衛として授業が終わる頃に近侍が校門まで迎えに来てもらうことになっている。私の近侍、山姥切長義。本丸で暮らすようになってからずっと世話を見てくれた刀だ。母の近侍を担当していたらしく、だからこそ、本丸に来たばかりだった私の世話をしてくれたのだろう。
ずっと傍で、優しくしてくれたヒト。だから、私が彼に恋するなんて。当然の結果だった。
――でも、この想いは、届かないのだ。
「そういえばもう直ぐ誕生日だったね。何か欲しいものはあるかな?」
「……、考えとくね」
咄嗟に出そうになった言葉を私は噛み殺した。
私の欲しいモノ。一番欲しいモノは、あるんだ。けれど、それが絶対に手に入らないモノだと知っているから。私は俯いて唇を噛みしめる。悪くない、彼が悪い訳じゃない。悪いのは私の方だ。こんな想いを一方的に抱いた私が悪いんだ。
「……あのね、長義。母さんの話、聞きたいな」
またかい?と困った様な表情を浮かべる長義に私はうん、と頷いた。
だってね、母の話をする時だけ、私には一度も向けたことの無い顔をするんだ。懐かしそうに、愛おしそうに。
母にだけ向けられただろうその想いが私も欲しくて。それは私のモノではないと知りながら、今日も私は、母の話を振るのだ。