「――噓つき。」


※転生ネタ/国広がモブ♀と結婚する



長義!と声を掛けられ端末機器スマートフォンから顔を上げた。タキシードを着た従兄弟が驚いた様子でこちらに駆け寄って来るのが見える。
「少し時間に余裕が出来たからな。長居は出来ないが」
「……そうか。それは残念だ」
何故ここに、と呟く国広にそう返答すれば国広はふっと寂しそうな表情を浮かべた。そんな従兄弟の姿に溜め息を吐き、主役がそんな顔をするなと額を弾いてやる。痛いと小さく呻く声にフンと笑えば、国広は何時もの調子を取り戻したのかお前は変わらないなと呆れたように、だが何処か嬉しそうに微笑んだ。
「…………それにしても、あんなに俺の後をついて回って何時か俺と結婚するって言い出すんじゃないかと周りからひやひやされていたお前が、恋人をつくって結婚までするとはね」
「そ、それは昔の話だろう……!忘れてくれ!」
「……あぁ、そうだな。昔の話だ」
顔を真っ赤に染め恥ずかしそうに慌てる国広の姿を眺めながら、長義は視線を国広の指先へと向ける。今はまだ左手の薬指には何も嵌っていない。けれど、本当にこいつは結婚してしまうんだなと漠然とした――、
……いいや、やめておこう。
だって、もう、終わったことなのだから。
「さて、俺はそろそろ行く。邪魔したね」
「――長義!」
お幸せに、と祝福を言葉を投げ国広に背を向ける。扉へ向かおうと足を踏み出した瞬間、何処か焦燥感を滲ませた声と共に腕を掴まれた。振り解くことも出来ただろうが、敢えて足を止めて振り返る。なんだ、と視線で問えば、国広はハッとしたように手を離した。
「その、また、逢える……だろう?」
「……何を云っているのかな、お前は。俺が死んで消えるとでも?」
呆れた様にじろりと国広を見遣れば、国広は慌てて首を横に振った。違う、何となくお前が、と言い淀む姿に何度目かの溜め息を漏らす。全く、妙なところで無駄に勘が冴えてるのは相変わらずのようだ。
ふい、と顔を逸らし、再び出口の方へ足を進める。待ってくれ、と呼び止める声に今度は振り返らず、ただひらりと手を振った。
そうして数歩進んだ辺りでジャケットに仕舞っていたスマートフォンを取り出し、連絡帳を開く。画面をスクロールしていき、国広の名前を見つけると画面を長押しする。画面に表示されたごみ箱のアイコンをタップすれば、削除しますか?とポップアップが出てきたのではいを押そうとして、ふと、もう一度だけ後ろを振り返った。あのホテルで今頃、式をあげている頃だろうか。無意識にはは、と乾いた笑いが零れる。
「だからあの時云っただろう、偽物くん。」
再び画面に視線を戻し、長義はもう迷うことなく、はい、を押した。



***




「――山姥切、好きだ」
「……今の状況解ってて云っているのかな」
本丸に襲撃してきた時間遡行軍は全て殺した。だが大将である審神者は遡行軍によって斃され、他の刀達も折れた。かく言う自分達も重傷を負っており、折れるのは時間の問題だ。そんな状況下で告白など、馬鹿げている。
「解っているさ。俺もお前も、もう、永くはない。……山姥切は知っているか。俺達が折れて、人間に生まれ変わる事があると」
「……お前は本気でそれを信じていると云うのか」
そうだ、と答える声は穏やかで落ち着いていた。愚かだな、と長義が答える前に、そっと国広が手を重ねてきて、ふっと柔らかく笑う。信じている、だからお前も信じてくれと、云うのだ。
「…………仮に俺達がヒトのように生まれ変わったとしても。記憶もあるとは限らない」
「嗚呼、そうだな。だが俺のこの想いは変わらない――例え刀であった頃の記憶がなくても、何度でもお前に好きだと云おう」
「…………まぁ、そこまで云うのなら。信じてやらないこともないかな」
もし本当に人間になって、お前がまた好きだと云ってきたのなら。その時は、