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鷹の目があればいいのにと思う。俺がルークになってからはその目は失われてる。だから前世の様に直ぐに人の位置が解らない。
それなのに、よく黒子を見つけれたな。そう思ったけど、あの店員は別に驚いた様子はなかったし、黒子の姿に気づいていたと思う。若しかして、影が薄くなくなった?そうでなきゃ、今の俺じゃあいつを見つけられない。
「……あの、ルーク様?」
「ッ、ンでだよ!」
お前も、そうなのか。
掴んでた黒子の手を離して、俺は振り返るとあいつを睨みつけた。黒子は一瞬肩を震わせて小さく済みませんと呟く。
違う、俺が欲しい言葉は、そんなんじゃなくて。
冷静さを取り戻すと、周囲の見回す。目的通り、人の気配がない場所に来れたらしい。
「俺は!ルークじゃねぇってのに……!」
この躯はルークのモノだ。その躯に俺が精神だけ入り込んだだけだ。尤も、この世界はゲームの筈だから、何でそうなったのかが不思議だし、有り得ない事だけど。
「……お前の、名は?」
「え、あ、はい。テツヤです」
……名前も、姿も同じ。
目の前のこいつが黒子テツヤなら。記憶がないのは、俺がルークに転生したように、黒子もここに転生したのだろうか?もし、そうなら。
「……なぁ、黒……テツヤくん。バスケって言葉、聞き覚えない?」
「バスケ、ですか……?」
深く考え込む黒子の様子からして、覚えていなさそうだ。あんなにバスケ好きだったのに、忘れたんか。
「……済みません」
小さく首を横に振る黒子を見てずきりと胸が痛んだ。
あいつは何も覚えていない。バスケも忘れている。真ちゃん達キセキの世代も、あいつの相棒も、全部。
「……そっか。なぁ、城か邸で働いてる?」
「はい。ルーク様が行方不明になられる前から、お邸で」
……つまり、アッシュがルークとして過ごしてた時からか。俺より先にこっちに居たって訳。
でも、黒子って今何歳なんだろう?俺と同じか若干下に見えるから8から10の間、だよな?何歳から働いてんだろ。
「ならさ、俺の話し相手になってよ」
それなら、いつか、こいつの記憶が戻るかもしれない。