すなほなひながファミレスで駄弁ってるだけ
「粋くんってば何時まで経っても全然手を出してこようとしないんだけど、どうすればいいかな!?」
は? と先程セルフサービスで汲んできた水を吹き出しそうになった。隣に座っている柊迫も俺と似たような表情を浮かべている。
「……ねぇ、ほなさん。相談したいことって、そっち系の話? ならなんでおれも呼ばれたの。秀さんだけでいいでしょ」
「え?」
「え?」
大里が驚いた様に目を瞬かせた。反対に柊迫は不機嫌そうにコップの水を飲む。正直、俺も大里と同じ気持ちだった。春宮とは付き合ってないのか? と大里の代わりに訊けば、柊迫はますますその顔を歪ませた。
「ちょっと、秀さんまでそんな事云わないでくれる? 大体、おれみたいな陰キャが臣さんに釣り合うわけないでしょ」
「だが実際、お前たちの距離感は近いだろう」
「うんうん! 臣くんってば侃くんが別の人と話してたらすぐ拗ねちゃうもん!」
拗ねるって……、と不機嫌そうだった柊迫の顔が困惑したものになった。……成程、どうやら柊迫は春宮の好意に気づいていないらしい。あんなに解りやすい春宮のアピールも、柊迫は受け流していたというより理解していなかっただけのようだ。ここに伊佐達がいなくて良かったな、と同じくここにはいない春宮の事を思う。伊佐と反郷は間違いなく、春宮を揶揄い倒して遊ぶだろう。そうなれば面倒なことになるのが目に見えている。
「……まあ、兎に角。おれは役に立ちそうにもないから秀さんに任せる」
「おい」
面倒ごとを俺だけに押し付けるなと隣の後輩に云えば、本人は猫のようにつん、とそっぽを向く。はぁ、と溜め息を吐きつつ視線を正面に戻せば、大里は先程と同じように何かいい案はない?! とこちらを見ていた。
「……大体、そういった話はこんな所で話すことではないだろう」
「うーん、でも学校じゃ粋くん達に聞かれるかもだし……」
相談したいことがあるからファミレスに行こう、と部活終わりに誘ってきたのは大里だった。反郷には聞かれたくない話だと云われれば何も云えない。その時点で面倒ごとの予感がした俺と柊迫は断ろうとしたが、あそこのファミレスでバナナフェアがやってると大里に云われた柊迫が釣られた。その柊迫に引っ張られたのが俺で、なんだかんだ三人でファミレスにやって来て、今に至る。……俺は柊迫に巻き込まれただけだから柊迫が面倒を見ろと云いたい。
「確かに。粋さんってほなさんが居るところならたとえ火の中水の中草の中森の中って感じだよね」
それは春宮もそうだろう、と思っていれば臣くんもそういうところあるよね、と大里が呟いた。おかげでまた柊迫が眉を顰めたが、先程とは違って無言だった。恐らくだが、柊迫自身も想像がついたのだろう。最終的にはぁ、と柊迫が溜め息を吐いた所で注文していたものが運ばれてきたので一旦会話を止めることにした。
「……で、秀さんなんかいい案ないの? おれ早く家に帰りたいんだけど」
「俺だって帰りたいんだが。……別に、繋がる事だけが全てではないだろう。傍に居るだけでも満たされるものだ。それに、反郷が最後までしないのはお前の事を大事に思っているからこそじゃないのか」
それぞれが頼んだデザートを食べ終えた所で、柊迫が話の続きを促す。バナナフェアのデザートを食べるという目的を果たした柊迫は早く帰りたいという意思を隠そうともしない。俺に丸投げするんじゃなくてお前も答えたらどうだと思ったが、まあ俺としても早く帰りたいからこれ以上柊迫に構うのは止めておく。
「……うん、解ってる。でも、その先にいってみたいって思うことは悪い事なのかな」
「それは……反郷にそう伝えたらどうだ」
「云ってるよ! 云ってるけど……」
俺の返答に大里は解ってはいるけど、と気が落ちた様子でテーブルに視線を落とした。大里の様子からして反郷は頑なに手を出さないらしい。だからね、と大里が続ける。何か意識させる方法とかない? と顔を上げながらそう云われ、結局話は振り出しに戻ってしまった。
「……、……壁ドン、とか」
前に伊佐にせがまれてやった事を思い出す。とある乙女ゲームに出てくるキャラに、俺に似ているキャラが居たからといった理由でその乙女ゲームをプレイした伊佐が実際にやって欲しくなったとかなんとかで。無論そんな事やるわけないだろうと無視していたが、余りにもしつこいので一回だけという条件付きで仕方なく付き合ってやったのだ。結果、やってやる前より五月蠅くなったが……閑話休題。
「壁ドンかぁ……前に粋くんがやったことあるよ。壁ドンって何? って粋くんに訊いたらやってくれたんだよね」
「それ、その後自分もやってみたいってほなさんも粋さんにやった?」
「え、侃くん何で解ったの!?」
今まで黙って聞いていた柊迫に、大里が驚いた様子で再び目を瞬かせた。俺でも想像がつく。きっと反郷は伊佐がよく云う、嬉しさのあまり昇天しそうとか云ってそうだ。そんな反応してるのに先に進むのは耐えるのかと意外だが。
だから意味ないんだ、他にはない!? と話を促す大里になんて答えるか悩んでいると、ボソッと柊迫が心底めんどくさそうに呟いた。
「もうさ、ほなさんが粋さん押し倒しちゃえばいいんじゃない? あの人、基本ほなさんに何されても喜ぶじゃん」
「えっ! オレが粋くんを……!?」
目をぱちぱちさせる大里にうんそう、と柊迫が頷く。まぁ、確かに。抵抗はされないだろう。だがやんわりと何かしら理由をつけて躱され言い包められそうではある。が、それを素直に云うとまた振り出しに戻るだろうから柊迫の案に乗ることにした。
「いいんじゃないか、それで」
「そっかぁ……、うん、ならオレ頑張ってみるよ! ……それでさ、参考までに聞きたいんだけど、秀くんは最後までいったの?」
「……、……まぁ、一応は」
正直、答えたくはなかったがここで濁してもはっきりさせるまで訊いてくるだろう。そうなれば何時まで経っても帰れないと思い渋々答えた。え、嘘、と驚いた様に呟いたのは柊迫で、反対に大里は目を輝かせ、ずいっとこちらに身を乗り出してやっぱり!? と声を上げた。じゃあさ、と続けられる言葉も予想できる。……だから答えたくなかったのだ。
「云っておくが、あいつから誘ってきたんだ。アドバイスは出来ない」
「うん、だよね。秀くんから誘うなんてイメージないもん」
解ってるから大丈夫、と残念そうにしつつも大里はスマホで色々調べてみる! と答え、すぐに切り替えた。頑張ってね、と気のない返事をする柊迫の言葉を耳にしつつ、ふと気になったこと尋ねた。
「柊迫、春宮に壁ドンされた事があるのか?」
「……何でそう思うわけ?」
え? と驚く大里と同時に、柊迫はじろりとこちらを見遣った。俺が壁ドンの話を出した時、何か考え込んでいそうな顔をしていたのが気にはなったのだが、どうやら心当たりがあるらしい。はぁ、と溜め息を吐きつつ別に、と柊迫は口を開いた。
「壁ドンってあれでしょ、壁際に追い詰めて手を突くやつ。前に似た感じで臣さんにカツアゲされかけたのを思い出しただけ」
「えぇっ、それ絶対カツアゲじゃないよ、普通の壁ドンだって!」
「カツアゲだってば。なんで臣さんがおれに壁ドンするの。理由がないじゃん」
普通の壁ドンとはなんだと思ったが、大里の云う通りだろう。理由がないと思っているのは柊迫だけだ。
「……で、なんて答えたんだ?」
「え? 嗚呼……その日は財布持ってくるの忘れてたから今日はお金持ってないって云ったけど?」
「それ、臣くん落ち込んだんじゃない?」
「落ち込んだかは知らないけど、溜め息は吐かれたかも。そんなに買いたいものがあったのかな」
ここまでくると流石に春宮に同情が湧いた。大里も同じ様で、臣くん可哀想! と呟いている。可哀想なのはおれじゃない? カツアゲされかけたんだけど? と柊迫は反論しているが、間違いなく、可哀想なのは春宮の方だろう。……今度差し入れとしてお菓子でも作って渡そうか。