めんどうになって春宮を好きなモブ♀にマウントとってみたら後悔した柊迫の話
「侃くん、今日なんか元気ないけどどうかしたの?」
「……別に、何でもないから。気にしないで」
部活の休憩中、思わず溜め息を吐いていると不思議そうな顔をしたほなさんがやってきた。体調でも悪い? と訊いてくるのを違うから、と否定する。そもそも体調悪いなら臣さんが黙ってないでしょ、と云い返せば確かにそっか、と漸く納得してくれた。
……うん、まぁ悩みの種は臣さんにあるんだけど。
ちらりとそちらを見遣れば、臣さんは和さんと粋さんに絡まれていた。所謂だる絡み。触らぬ神に祟りなし。二人に見ている事に気づかれないよう、おれはそっと視線を外す。
最近、やたらと女子に絡まれる。ただの同級生とかじゃなくて、臣さんを好きな女子にだ。いや、別にそれは前もちょくちょくあったけど。でもそれは中学時代のバレンタインの時のような、臣さんに告白したいから校舎裏とかに呼び出して、とか代わりにラブレター渡して! という臣さんへの橋渡しだ。良くも悪くも、おれ自身への感情はない。だけど最近の臣さんを好きな女子達は明らかにおれを目の敵にしている。ほんと、女子って怖い。今まで人を都合のいい仲介役として利用しといて、あっさり手のひら返しとか。
こうなった原因は解っている。切っ掛けは、臣さんのおれへの構いたがりをクラスの男子が見て彼氏かよ、と揶揄った事だ。おれは当然そんなわけないでしょ、と慌てて否定したが、肝心の臣さんはお前らには関係ないだろと否定も肯定もしなかった。それを見て? 聞いて? からきらきら女子達はおれに対して臣さんから離れろとやたら絡んでくるようになった。うん、凄い不思議。臣さんを好きな女子達って、おれの方が臣さんに引っ付いているように見えるらしい。実際は逆だし、そもそも、臣さんの性格からして本当に迷惑ならウゼェ離れろって云ってると思うんだけど。
はぁ、と再びおれが溜め息を吐いた所で部活の休憩は終わりを向かえた。
***
「だからさ、いい加減にしてくれない? 春宮くんも迷惑がってるの解らないの?」
「……」
本日の臣さん好き女子からの小言だ。それはこっちの科白なんだけど、と心の内で呟く。毎日毎日飽きないよね、感心する。でもほんともうやめて欲しい。臣さんが傍に居る時は一々廊下とか踊り場みたいな別の場所に呼び出す彼女達のせいで、教室に戻るたびに機嫌が悪い臣さんと対面しないといけないし。機嫌が悪い臣さんの相手するの物凄く疲れるのに。
それをここ最近毎度毎度繰り返されて、そろそろ我慢の限界だった。もういいや、なんでおれがこんなにストレスを抱えないといけないのさ。
「――今日の放課後さ、図書室に行ってみたらいいよ」
は? と呟き返すクラスメイトの女子に背を向け、教室へ戻る。放送で先生に呼び出された臣さんはまだ帰ってきてないみたいであの不機嫌そうな顔は見当たらない。自分の席に着いてはぁ、と息を吐いた所でおれはスマホを取り出した。次の授業までまだ時間があるから動画サイトで猫動画でも観ようかな、と思ったところでスマホの画面に影が差した。どうやら臣さんが帰ってきたみたいで、おれの癒し時間は数分も経たずに終わってしまったようだ。
「ねぇ、臣さん。おれ今日、部活行く前に寄りたいとこあるから」
「はあ? 何処にだよ」
眉を顰め怪訝そうな顔をする臣さんをおれは無視した。無視して猫動画を見始めればおい無視すんな、とか色々云われたが、無視。結局、理由を訊かなくても付いてくるって知ってるから。
***
そして約束の放課後。教室を出て図書室に向かう途中でちらりと背後を振り向けば、今日おれを呼び出した女子がひっそりと追いかけてくるのが見えた。臣さんは気づいてるのかな、まぁどうでもいいや。
放課後の図書室はテスト期間中ならちらほら人もいるが、それ以外だと人気はない。運動部の掛け声や吹奏楽部の練習の音が聴こえるぐらいだ。図書室の扉を開けてさっとその身を滑り込ませる。入口近くだと他の人にも見られるかも、と念のため図書室の奥の方の本棚へと向かう。手前の本棚の角を曲がった所で立ち止まり、臣さんを呼ぶとその首に腕を回した。は? と驚いた様子の臣さんを無視しておれの方へ引き寄せると、口を軽く重ねる。恥ずかしいから直ぐに離したけど。背後で大きく目を見開いておれ達を見てるクラスメイトが見えた。
――要は、おれ達付き合ってるからあんたの入る隙間なんかないですけど? 的なやつ。……あ、これだとおれが無理矢理迫った、とか云われるかも。うん、何も云われない事を願っておこう。驚く臣さんが見れたってのが今回の収穫ってことで。そっと首に回してた腕を放して離れようとした所で、それより先に早く臣さんにぐいっと腕を掴まれた。え、とおれが理解する前に引き寄せられて、今度は臣さんから口を塞がれる。一瞬、何が起こったか解らなかった。我に返って慌てて離れようとするも何時の間にか頭の後ろに回された手がそれを許さない。息が苦しくなって思わず口を開けば、すかさず舌が入ってきた。歯列をなぞられ舌を絡め取られ、口内を好き勝手蹂躙される。時折漏れる臣さんの吐息混じりの声に背筋がぞくぞくした。こんな深いのは何度かやっていて初めてじゃないから臣さんはおれの弱い所なんて知り尽くしていて、だから簡単に力が抜けてしまうわけで。漸く解放された時には腰が抜けていた。そのままずるずると座り込んでしまうおれに視線を合わせるようにしゃがんだ臣さんはぺろりと口を舐める。その姿は同じ男のおれから見ても色っぽい。
「……っ、ちょっと臣さん! ここ、学校なんだけど……!?」
「あ゙? 先に吹っ掛けてきたのはどっちだよ」
それは、と言い淀みながらもちらりと背後にいるあの女子の方へ目を向ける。もうその姿は見当たらなかった。……うん、知ってた。おれとしてはここまで見せるつもりはなかったのに。
「……部活、遅れるでしょ」
「あー……、……今日お前んち泊まりに行くわ」
「はぁ!?」
冗談でしょ、と思わず声を上げれば、明日学校はねえだろと云い返される。ちょっと、と文句を云おうとした所でまた口を塞がれてしまった。さっきと違って触れるだけの軽いもので、直ぐに離れたけど。
「煽った責任はちゃんととれよ?」
「…………」
楽しそうな笑みを浮かべて告げられた言葉に頬が引き攣った気がした。――うん、おれが間違ってた。
こうなるなら女子達に絡まれた方がまだマシだ。もう絶対やらない。