アイラブユー、





 土曜日の夜。久し振りに釣りにでも行くかと天気予報を見てみれば、どうやら明日は風が強いらしい。仕方ない、諦めるかとブラウザを閉じスマホの電源を落とそうとした所で柊迫からメッセージアプリに連絡が来た。どうやら明日、相談したい事があるらしい。春宮ではなく俺にか? と訝しく思ったが、まあそれなら春宮に関することなんだろう。なら面倒な事になりそうだと理由を付けて断ろうとしたが、俺が返信を送るより先に集合場所と時間を指定してくる。お休み、と加えて送られてきたそれは決定事項だと云わんばかりだ。……仕方なく解ったと返事を返し、そのままアプリを落とすとスマホの電源を切った。

***

 指定された駅前近くのファミレス前で柊迫と落ち合い、店内に入る。時間帯的にまだ混み合う前ですんなりと席へ案内された。注文を済ませるとセルフサービスの水とおしぼりを取りに行き、それらを持って席に戻る。それから直ぐにぽつりと柊迫は口を開いた。
「臣さんとはさ、セフレ関係なんだけど」
「――は?」
 思わず先程汲んできた水を吹き出しそうになった。だが目の前に座る柊迫は至って真面目な顔だ。
「……本気で云ってるのか? 付き合ってる、ではなく」
「そうだけど?」
 何云ってるの、と柊迫は心底不思議そうに首を傾げる。……春宮とは長い付き合いらしいのに、何故こういう時だけ柊迫は春宮への理解力が下がるのだろうか。思わずそう考え込む俺を、それはどうでもよくて、と柊迫の声が現実に引き戻した。
「なのにさ、臣さん、普通にキスとかしてくるんだよね。セフレってそういうのしないんじゃないの、可笑しくない?」
「……そもそもセフレだなんて爛れた関係になる事自体間違ってるだろう。大体、何故俺なんだ」
「だって秀さん、和さんと付き合ってるでしょ? ならそっち系の話、話しても大丈夫かなって」
 ぐ、と口を閉ざす。……柊迫の云う通り、俺は伊佐と付き合っている。だがそれを云うなら大里と反郷もそうだが……まあ、相談相手には向かないだろう。大里はまだ兎も角、反郷は寧ろ面白がって引っ掻き回しそうだ。だから俺が選ばれたのだろうが、正直勘弁して欲しい。
「色々云いたい事はあるが……春宮はそうは思ってないからじゃないか」
「……え? それって付き合ってるって思ってるって云いたいの? そんなわけないじゃん、臣さんがおれみたいな陰キャ好きになるわけないし」
「……なら逆に訊くが、春宮みたいな奴が好きでもない人間にそんな事まですると思うか?」
 それは、と柊迫の顔が困惑したものになった。春宮は自分が興味を持った相手に対してはかなり世話焼きだ、それは柊迫が一番よく知っているだろうにそれでもまだ柊迫は納得していないらしい。……この様子では何を云っても信用しないなとこの件に言及するのは止め、俺は溜め息混じりに口を開いた。
「それで結局、春宮にどうしてもらいたいんだ。やめて欲しいのか」
「……どうだろ。わかんない。別に、嫌ってわけじゃないし。……ただちょっと、戸惑ってるだけ」
 少し迷うような間が空いた後、柊迫はぽつりと零す。そんなに気になるなら春宮に直接訊いてみればいい、と云えばえ? と俯いていた柊迫が顔を上げてこちらを見遣った。
「俺はそんな爛れた関係について詳しく解らないから何とも云えないが、する人はするんじゃないか。俺としては好きでもない人間に春宮がそこまでするとは思えないが、そんなに気になるなら本人に訊けばいい」
 とは云ったものの、春宮は柊迫が自分達の関係を躯だけのものだと思っていると知ったらまあ、怒るだろうな。あんなに解りやすく春宮はアピールしているのに柊迫だけが全く気づく気配がない。だが柊迫は本人に怒られないと気づかないだろうから、丁度いい。今日にでも訊いてみたらどうだ、と柊迫を促す。明日は祝日で休みだし、もし次の日柊迫が動けないような事があっても大丈夫だろう。春宮の事だから絶対手加減しない。
「え、今日? ……まあ今日逢う約束してるけど」
「なら丁度いいんじゃないか。俺に相談しようと思うぐらいに気にしていたんだろう」
 困惑した表情を浮かべる柊迫にそう告げると柊迫はまぁ、と一応納得した様子を見せた。秀さんがそこまで云うなら、と渋々了承したような口振りだったが、まあいいだろう。これ以上俺から云うことは何もない。
 暫くして運ばれてきた料理を食べ終えた所でスマホが鳴った。ちらりと画面を見てみると伊佐からだ。トーク画面を開いてみればしゅーちゃん今ヒマ? とスタンプ付きで送られてきている。
「……もしかしなくても、和さん?」
「もしかしなくても伊佐からだ」
「うわ、秀さん絶対おれと居るってことは云わないで。和さんのことだから次に逢った時泥棒猫だなんだってだる絡みされて面倒だから」
 画面を見つめる俺に問い掛けて来た柊迫へそうだと答えれば、げ、とあからさまに顔を顰められた。……気持ちは解る。俺としても、柊迫と二人きりで逢っていたと春宮に知られたら面倒な事になるだろうから御免被りたいところだ。
 取り敢えず伊佐にはまあ暇だとだけ返し、スマホを仕舞うと伝票を片手に立ち上がった。レジで支払いを済ませ店の外に出ると面倒だから絶対に今日の事は云わないでよね、と柊迫から念を押される。それじゃあ、と云いたい事を云い終えたのかさっさと去っていく柊迫と別れ、数歩歩いた所でまたスマホに通知が来ていた事を思い出す。スマホを取り出して確認すれば案の定、伊佐からだ。今からタコパしない? という内容だったので昼はもう済ましたと返信する。直ぐに既読が付いたと思ったら今度は着信が鳴った。
「なんだ」
「なんだ、じゃないんだけど!? しゅーちゃん普段よりお昼食べる時間早くなーい!?」
「まあ、外で食べたからな」
 なんで僕も誘ってくれなかったの!? と何時も通り大袈裟な反応をする伊佐に対して適当に返事をしながら歩く。最終的に夕方に伊佐の家やる事が決まり通話を切った。……何事もなければいいがな。何時ぞやのオーブンの件を思い出しながら、俺は溜め息を吐いた。

***

 次の日、朝起きてスマホを見てみれば柊迫から連絡が来ていた。秀さんの所為で酷い目にあったと送られてきたそれに、俺が予想していた通りの事が起きたのだと察する。まあこれで柊迫も理解した筈だ、こうでもしないとお前は気づかないだろうと返した所で背後から抱き着かれた感覚に肩を揺らす。振り返ると眠そうに目を瞬かせる伊佐が居た。
「おい、重いんだが」
「ん〜……? 恋人に向かってそれひどくなぁい……? っていうかしゅーちゃん、今日祝日よ? まだ寝ててよくな〜い?」
 はい、おやすみー! と後ろから引っぱられ再びベッドに沈み込む。そのまま俺の隣に寝転び強く抱き締めてくる所為で身動きが取れず、数秒も経たずに耳元近くから聞こえてきた寝息に本当に寝たのかと呆れるしかない。……こうなっては動けそうにないと観念し大人しく目を瞑ると、俺も微睡の中に落ちていった。