毒を孕む





「相手の行動を可愛いと思ったら負けなんだって。……つまり、そういうことだよ」
何時頃だっただろうか。貴方に恋をしたようです、とフリンズに告白されたのは。急にそんなことを言い出したものだから、驚きすぎて言葉を失ったことを覚えている。俺なんかより相応しい人がいるから、と断ろうとする前に返事は急ぎませんと云われてしまい何も云えず、それ以来逢う度にあの手この手で口説き落とそうとしてくるのだ。
勿論、そんな気など全くなかった。何時かテイワットから去る身としては誰かとそういう関係になっても、何れは置いていくことになるのだから。……そう、思っていた筈だったのだが。
「成程。ところで……そういうこととはどういうことですか?」
「……ねぇ、それ絶対わざと訊いてるよね?!」
己の負けだ、そう思って受け入れようと決心したのに返ってきた言葉がこれである。本気で云っているのなら兎も角、そうでないことは顔を見れば一目瞭然だった。思わずじろりと睨み上げるも、おや、なんの事でしょう?と肩を竦められる。
「僕はただ、直接的な答えが聞きたいだけですよ」
「っ……嗚呼もう!俺も好きだよ!」
「ふふ、そうですか。ではこれで両想いですね♡」
半ば自棄に叫ぶように告げれば、白々しく吐かれた言葉と共に酷く上機嫌そうに細めた目の奥で金色が鈍く光った。手を取られ恭しく指先へ口が落とされる。そのまま薬指の付け根に噛みつかれ、鈍い痛みが走った。
「僕は浮気を許せる程寛容ではありませんので……どうかゆめゆめお忘れなきよう」
薄くなってきたらまた刻みましょうね♡とまるで指輪のようにつけられた歯形を撫でるフリンズを見て、もしかして選択を間違えたのかもしれないと若干後悔を抱く。けれどその考えを見透かすかのように痕をなぞっていた指先に力が籠り、逃がさないとばかりに指が絡められた。
「ですから他に好きな方が出来たら仰って下さい。息の根を止めにいきますので♡」
「……うーん、照れながら云う科白じゃない……」
どろどろに煮詰めた甘い毒を注ぎ込むように囁かれる言葉はどこまでも甘く優しい。何時か、骨の髄まで溶かされそうだと思った。
――まあ、でも。それも悪くないかな、なんて思い始めている時点できっと手遅れだ。
だからちゃんと、そのあいを以て、俺を縛り付けていてよ。