チョコレート





「空さん、昨日は想い人や恋人にチョコを渡す日だったそうですね」
「え?うん。……よく知ってたね?」
塵歌壺にある自分の部屋で昨日パイモンと自分用に作ったチョコレートケーキの残りを食べていると、突然そんな言葉を投げかけられた。吃驚しつつも手を止めて振り向けばそこにはやはりフリンズが立っており、何処か不貞腐れたような表情を浮かべながら腕を組んでこちらを見下ろしていた。
「でもお世話になってる人とか仲が良い人に渡すのもありらしいよ。義理チョコとか友チョコっていうんだって」
「成程。……いえ、そうではなく。何故僕にチョコを渡してくださらなかったのですか?」
「……、え!?」
驚きのあまり思わずフォークを落としてしまった。慌ててそれを拾うのと同時に貴方の恋人は僕でしょう、と拗ねたような声が落ちてくる。それとも、と何時の間にか間近に立っていたフリンズが屈んで顔を近づけてきた。
「もう僕のことは飽きましたか?それとも他に想う方がいらっしゃるので……?」
「そんな事ないよ!ただフリンズって人間が好む食べ物を美味しいとは思えないって前に云ってたから……」
だから用意しなかったんだよ、と説明すれば驚いたようにフリンズが僅かに目を見開く。そういうことでしたか、と小さく呟くのが聞こえてきた。
「……えと、その。今から作ってこようか?」
まあもうチョコレートを渡す日は過ぎちゃったけど、と内心で付け加える。
本音を云えば確かに渡したいとは思っていた。けれど上記の理由もあって自分とパイモン用だけ作ることにしたのだが。少し戸惑いつつも問いかければ微かに期待するように金色が揺れるのが見えた。だからじゃあちょっと待っててね、と椅子を引いて立ち上がる。それをじっと静かに見つめてくる視線を感じながらフリンズの横を通り過ぎて部屋の扉に向かう。部屋を出る直前に振り返るとその視線はやはり変わらずこちらを見据えていて、小さく笑いを零してから扉を閉めるのだった。