おやすみ、よい夢を。
ふと意識が覚醒して目を開けると、見覚えのない天井が視界に映った。同時に自分が
取り敢えずもう少し調べてみようと思い立ち上がろうとしたところで目が覚めましたかと声が掛かった。はっと顔をそちらに向ければ、何時の間にかフリンズがそこに立っていた。
「……フリンズ?此処って……、」
「僕のランプの中です。覚えていませんか?貴方はワイルドハントとの戦いで深手を負って、僕が咄嗟にランプの中に保護したんです」
傷は癒えたのに中々目を覚さなかったもので心配しました、と目の前までやってきたフリンズが手を伸ばし頬へと触れてくる。そのままするりと撫でるのをぼんやりと眺めた。……何かを忘れている気がするのだが、思い出せない。思いだそうとすると砂嵐のようなノイズが頭に響き、思考が鈍る。
「大丈夫ですよ。……全て上手くいっていますから。ほら、まだ無理はしない方がいいです。さぁ横になってください」
「う、うん……」
云われるままに寝台に倒れ込む。躯が重いのか動きたくないのか解らない。……これで、本当にいいの?
頭の片隅で警鐘が鳴り響いている。やっぱり、と起き上がろうとすればどうかしましたか、と覗き込まれて動きを封じられる。フリンズ、と自然に口から零れ出た声は酷く小さい。何でしょう?と云われても続く言葉が見つからず、何でもないよと答えるしかなかった。
「何もないのでしたら休むといいでしょう。……また後で様子を見に来ます。何かあればすぐに呼んでくださいね」
きっとこの判断は間違いだ。でも、他にどうすればいいというのだろう。少なくとも今の状態では何も出来ない、だから今はフリンズの言葉に従って、次に目を覚ましたら考えよう。そう考えて目を閉じる。
そして再び暗闇と静寂が訪れた。
*
「ねぇ、フリンズ。……そろそろ戻らないと」
あれから何度か目を覚ましその度にフリンズに促されて眠りにつくそんな日々が数日続いた。不思議な事に空腹を感じることはなくて娯楽もフリンズが用意してくれた本などでそれなりに満たされている。時間の流れが解らない以外、正直不便はしていなかった。だがずっとこのままでいい筈がなく、それに外の様子も気にかかる。だから流石にそろそろ外に出たいと寝台に腰掛けたままそう告げれば、テーブルでコレクションの宝石の手入れをしていたフリンズが手を止めた。
「……何故でしょう?」
「何故って……、」
予想外の言葉に思わず困惑してフリンズを見返す。戸惑っている間に目の前に立たれ、そのままやんわりと肩を押され寝台に押し倒された。え、と声を洩らすと同時にフリンズが覆い被さってくる。訳が解らずただ見上げていれば、そっと頬を撫でられた。
「貴方が心配することなど何もありません、大丈夫です。……ですから暫く眠っていてください」
ね?とゆっくりと言い聞かせるよう言葉を重ねられ、頬を撫でていた手が目元を覆う。あ、と思った時には既に遅く、視界が真っ暗になると同時に意識がぼんやりと霞んでいく。駄目だ、このままじゃいけない。待って、と襲ってくる睡魔に耐えながら手を伸ばせば、その手すら絡め取られてシーツの上に縫い付けられた。
「……嗚呼、少し騒がしくなってきましたね。少しの間大人しくしていて下さい。――良い夢を」
耳元に囁かれた言葉と共に口づけられる感覚がする。それを最後に意識は深く沈んでいった。