ヴィクトル分史(行き違った歯車)





※これは本編(長編)で少し話に上がったヴィクトル分史での夢主について書いた話です

※ヴィクトル分史という事で、全体的に暗く死ネタありの後味の悪い終わり方

※話が進むにつれ視点が変わります。夢主(1〜4p)→リドウ(5p)→ルドガー(最後)

※以上が大丈夫な方のみ、どうぞご覧下さい





















私は一体何者なのか

その答えを見つけられないまま

私の旅は唐突に終わりを告げた



信じていた希望と、守ってきたものがあっけなく崩れ消えていくのを

ただ、ただ、見て絶望するしかなかった















私がエレンピオスに住み始めてどれくらい経ったのか……そう思い出しても、その前にどんな道を歩んで来たのか、わからない。つまり記憶喪失というもの

記憶の手掛かりを探るためにクランスピア社のエージェントになり、色んな人達と出会った

心強い旅の仲間達、恋仲になった上司、そして………一人の少女


その少女の名前はエル。菫色の綺麗な瞳が印象的だった

彼女は大切な人との約束でカナンの地を目指しているのを知った時に、私達にオリジンの審判を越えなければならない任務が課せられた

私は記憶の手掛かりになりそうなら、何でもした。いや、正しくは“黙っていても何もならないから、とりあえず何かする”って気持ちだったな

そんな乗り気なようで乗り気じゃないような気持ちで同行した旅は、最初不安だらけだったのにいつの間にか仲間達と他愛のない話をして一緒に笑ったり、困難に立ち向かって互いの信頼を高めたり。と………楽しく過ごしていた



それが………唐突に終わってしまうなんて



カナンの地へ行くためには5つの道標が必要で、残り最後の一つを手に入れようとした時………

その時、選んだ選択のせいで




エルは死んでしまった




その選択をしたルドガーも、見守っていた私達もそれが正しい道だと思ったのに、こんな……こんな事になるなんて……

更に追い討ちをかけるように突き付けられたのは、私達が生きているこの世界が今まで破壊してきた世界と同じもの


つまり、ここもいつかは破壊されてしまう分史世界だったという事だ


旅をする理由を失った私達はそのまま解散し、各々の故郷や元の生活に戻って行った







トリグラフに戻った私は前のようにクランスピア社に勤務したけど、仕事がまるで手に付かない

こんな事したって無意味なもの

今、こうしてる間に正史世界のエージェントが来て、ここが全て破壊されてしまうかもしれないから

無意味。無意味。全て何にもならない


そう思っていたら、やがて体を動かす事さえも面倒になり無断欠勤を何回か繰り返して家で引き込もったり、外でぼんやり外を見てる日が続いた




「(私がやってきたのは何だったんだろう?最初から何をしても無駄だったなら……いっそ………)」




………そんな日々を過ごしていると、上司であり恋人である彼が支えてくれた

彼……リドウもまたクルスニク一族で分史対策エージェントとして活躍していたが、この世界が分史世界だと判明してからそっちの仕事はあまりしなくなり、医療の方に専念してる

そんな彼がある日




「リル。俺はお前と一緒にいたい。お前の残りの人生を俺にくれ」




真剣な眼差しで、指輪を差し出しながら私にプロポーズをしてきた

交際してから早いような結構経ったような月日の中で、大好きな彼からの言葉はすごく嬉しいけど………




「そんな事したって……」




どうせ、すぐ消えてしまうもの

無意味


私はすっかり消極的で、すぐ否定してしまうようになってしまったな

それも、ここが分史世界だって知って、エルがいなくなってから……

そうだ。あんなに一生懸命で頑張っていたエルに酷い結末にさせてしまった事を思うと、幸せになっていいのか思い悩んでしまう


私が首を横に振ろうとした時、リドウはため息を吐く




「じゃあ、お前はこの世界を破壊しに来た正史世界の人間を恨むのか?」

「それは……」

「破壊した奴に不幸になれ。と願うのか?」

「私は……今まで破壊してきた立場だったから、破壊する時の心の痛みもわかります。それに分史世界は存在したってどの道、平和に続くわけでもないので破壊されても仕方ないって思ってます。だから、不幸になれとか思ったり恨んだりは……しないです」

「だろ。なら、あのガキだってその事を多かれ少なかれ理解してるはずだ。だから、その事に関してリルがいつまでも思い悩むの方が無駄ってわけだ」




彼の口調は「まるで仕事のミスをいつまで引きずってるんだ?」って言うようで、そんな軽いものじゃない!と怒りの気持ちが沸いたけど…………たしかにそうだ


この世界はどう足掻いたってすぐ終わってしまうものだが、だからといって破壊しに来る正史世界の人間を恨むつもりはない

エルも……そう思っているのかな……?


まだ考え込んでるとリドウは続けて「いつか終わるってわかっているのに、何もしないまま終わりが来るのを待つのか?……いつものお前なら悔いが残らないように1日を大事にする。チャンスがあるなら迷わず掴む!って姿勢だったのにな」と言ってきた

………そうだ。エルがいなくなってから後ろばかり見て後悔し続けて、目の前の楽しい事やチャンスを払っていた

この払っていたものも、後に「やっておいた方が良かった」と後悔するようになるなら……



その時、私は何もかも無駄だって思うようになったのはエルがいなくなった事のせいにしてて、本当はこれ以上後悔したくないって恐怖心からだったと気付いた

私は……エルに対して申し訳ないと思いながら自分の恐怖心を誤魔化していた。これこそがエルに酷い事をしてたんだって悟ると、涙が溢れてきた




「エル………ごめんね。ずっと……迷惑かけてた……」




リドウはそんな私の様子を見て、ようやく自分が間違っていたのを自覚したなって言うように私の頭を撫で、改めて指輪を差し出してプロポーズの言葉を言った




「………世界が終わるまで一緒に。ですか?」

「リルが望むなら、終わっても一緒でもいいさ」




相変わらずキザな台詞を


いつもならそんな辛口が言えるけど、今の私はただ黙ってその言葉に頷き、涙でぐちゃぐちゃになってるのを承知で、めいいっぱいの笑顔をする

そして、指輪を受け取った


top