ヴィクトル分史(行き違った歯車)





私とリドウが結婚して十数ヶ月が経とうとしていた


住んでいる場所はリドウのマンション。私の住んでいたマンションと比べたらこっちの方が広くて住みやすいから、迷うことなく同意して引っ越したわけだ

慣れないけど、それなりに楽しい結婚生活

交際していた時から互いの家に泊まり合ったりしてたから、好きな料理、好きなテレビ番組、部屋の何処でくつろぐのが好きか……とかの生活の仕方がだいたい分かっていたから、ギャップに驚いたり困難したりする事はあまり無かった


だけど当初は“夫婦”って自覚は薄く、最近にやってからようやく自覚するようになった気がする

それも……




「あ。もうこんな時間!急がなきゃ……でも、ゆっくり動かないと」




お昼に友達と会う約束をしていたんだけど、そろそろ行く準備をしなければならない

いつもの私ならギリギリの時間になってドタバタしてしまうけど、慎重に動かなければ………




「さ、出かけようね〜」




私は、大きくなったお腹を撫でながら話しかけた


そう。私は今、リドウの子を妊娠している


この子のお陰で私はリドウとの夫婦の自覚や、母としてたくましくなろうと強く思うようになった

元気に産まれてきますように……毎日そう願いながら過ごすのも、決して当たり前じゃない

こうして平和なのは、すごく確率の低い奇跡だと思ってるから……



私は今日も一日を大事にしようと、今日が来てくれたのを感謝しながら出掛けた
























「ラル!ごめん、待った?」

「大丈夫よ!そんなに待ってないわ」




昼にトリグラフ内にあるカフェで待ち合わせしていた友達ってのは彼女……ラル・メル・マータの事だ

彼女とは私達が旅を終わらせ絶望していた時に出会った

ルドガーが副社長として取り引きしていた会社の代表がラルで、彼も後に紹介された私達は彼女に驚いた


何故ならラルの容姿が……死んでしまったエルと酷似していたから


これは、エルが引き合わせてくれたものなのか?って変に運命を感じてしまっている私達に、ラルはとても親身に話を聞いて励ましてくれた

その中で、私は彼女と友達になり、ルドガーと彼女は惹かれ合い、私とリドウが結婚した後に結ばれた

これは私にとっても、すごく喜ばしい事だ




「リル!またお腹大きくなったわね!」

「うん!だいぶ張ってきたから、この子は大きい子かもしれないな〜」




それなりに服の上からも大きさがわかるくらい膨らんだお腹を見て、ラルは嬉しそうに撫でる

彼女もまた、私の幸せを我が身のように感じてくれていた




「予定はまだ先?」

「うん。まだ先になるって」

「早く会いたいな〜」




ね〜?と私のお腹の中の子に話しかけるラル




「そう言うラルだって、どうよ?」

「どうって?」

「私達のを喜んでくれるのは嬉しいけど、子供が好きなら自分達だって……頑張らないといけないんじゃない?」

「それはそれ。これはこれ。なの!」

「何それ〜!」




ラルだってルドガーとの子供を頑張らないといけないんじゃない?って言うと、彼女はとりあえず今は私とリドウの子供を見たいと、夫婦事情を照れ隠ししながら言った

可愛いな〜そんな風に嬉しそうに笑うラルに何度元気付けられたか

きっと、彼女とルドガーの子供は二人に似て可愛くて、活発で優しくて………あのエルみたいになるんじゃないのかな?

なんて、ちょっと複雑に思った時、私達に一人の人物が近付く




「やぁ。ラル、リル。二人で女子会?」

「ルドガー!ちょっと早めのママ会……かな?」

「そういうとこ〜!」




ルドガーだった。彼もまた副社長としての仕事の中で休憩として外に出てきたとこらしい




「ママ会か……」

「早すぎかな?」

「いや、ただリドウも同じ気持ちなんだなぁって」

「え?何々?同じ気持ちって」




いきなり気になる事を言われて、思わず目を丸くしてどういう事なのか聞いた




「あいつ、休憩中に人知れず父親用の育児雑誌を読んでいたからさ」

「ええ!それ本当?」

「ああ。見つけてしまった時に思わず声掛けたら“リルの料理を子供に食べさせないために乳児用の食事を勉強中だ。決して今から楽しみで準備してるわけじゃない”って」

「うわ〜なんかそれムカつく〜。私の料理の腕前を信じてないな〜」




ルドガーから職場でのリドウの様子を聞いた私が口を尖らせて不満気を分かりやすく表していると、ラルが「まぁまぁ」と私を宥めた



「素直じゃないけど良い旦那さんじゃない。なんだかんだ言ってDr.リドウってリルの事を大事に思ってるし」

「そうかな〜?」




育児雑誌を読んでるってのはたしかに私にも嬉しい事だ。だけど照れ隠しなのか本心なのか読んでる理由が私の料理を食べさせないために。だなんて……

結婚してから料理の腕は確実に上がったのはリドウも認めてるはず。だからなんだか納得いかないなー

私が頬を膨らませて不満垂れてると、それを見て笑うルドガーとラル

そんな二人を見て、そういえば……ってルドガーに話しかける




「ラルにも聞いたけど、お二人さんはいつになるのかな〜?」




そう。さっきラルに尋ねた事をルドガーにもニヤニヤしながら聞く

彼も私とリドウの祝福だけで、自分達も子供がほしいって話を聞かないからね




「えっと…………いつになるんだろうな?」

「ルドガーまで私に聞いちゃう?」

「アハハハッ!私も楽しみにしてるからね!」




ルドガーもまたラルと同じように照れながら笑い、彼女に目をやると私が問いかけたものをそのまま横に流す

……たしかにこれは一人で決める事じゃないし、ましてや人に言われてする事じゃない

二人の事情だとわかってるけど、いつか二人に産まれてくる子供を楽しみにしてるって言った




「あ、そうだ!せっかくだから写真撮りましょ」

「ここで?」

「ええ。この瞬間は今しかないもの」




なんでも、お腹の子は日に日に大きくなっていくから、その経過も思い出に撮っておけば将来子供に「あなたがお腹にいた時はこんな感じだったよ」って教える事ができるから

……そうだったな。記憶喪失という事で両親との思い出もない私には、親子の会話やどんな風に接するのかも忘れていた

たしかに、漫画やドラマなど様々な物語でも親は子供がお腹にいた時から写真を撮ってる

私も将来、子供に………

そう思うと、今から楽しみになったきた


私はラルの提案に賛成すると、ルドガーがカメラマンになってくれた




「ルドガーは写らなくていいの?」

「ちょっと早めのママ会なんだろ?ならその記念にって事で俺は遠慮するよ」




そっか〜。じゃあ次はリドウも含めて二つの家族同士で撮ろうって約束をした


ルドガーが構える最新式のデジタルカメラのレンズに向かって


私とラルは笑顔になる


将来、これを見てくれる子供のために



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