ヴィクトル分史(行き違った歯車)










「どうして……どうして、こんな事に?」




大勢の人達と同様に黒い礼服を身に纏い、向かった先はクランスピア社内にある広い空間。そこは今一時的に………リドウとリルの葬儀場になっている

俺はラルの手を引いて彼らの棺の前に行くと、その場で泣き崩れてしまった




「こんな事……ひどすぎるわ……!」




俺はラルの背中を擦って落ち着かせようとした




「強盗ですって……」

「奥さん妊娠中でDr.リドウも楽しみにしてたってのに……気の毒すぎるわ……」

「犯人はまだ捕まってないらしいわね……」




後ろから聞こえてきた参列者の会話に世間ではそう言われてるのかと、黙って聞くことしか出来なかった

一般人が知る限りでは……“リドウ夫婦は強盗によって殺害された”とされている

帰宅してきた夫婦にたまたま鉢合わせてしまい、犯人は口封じに二人を殺害。警察が駆けつけた音を聞いて金品を盗まずそのまま逃亡……らしい




「この度は、我が社の優秀エージェントであるリドウ君とリル君夫婦の葬儀にご参列頂き―――――」




互いに肉親が居ないリドウとリルの葬儀の喪主は、必然と上司であり会場を貸しているビズリーが執り行っていた

ビズリーからの言葉を聞いて涙を流す参列者達をざっと見る




「リル……可哀想に。怖かっただろう」

「あのご夫婦には、天国でのご冥福をお祈りしましょう……」




その中には、かつて一緒に旅をした仲間も参加していた。アルヴィンはリルの事を思い悔しそうに言葉を呟き、ローエンはガイアスから頼まれた手紙と供物を捧げると、冥福を祈ると言った後に俯き目頭を抑えた

レイア、エリーゼ、ジュードは来た時から涙が止まらず、ずっとすすり泣いている


そして、そこに平然と参列者として葬儀を見守る…………ユリウスに目が行った



これは調べれば、骸殼能力を持つエージェントがやった事だってわかるはずだ

それをあえて行わず、こうして“強盗による殺人事件”として処理するなんて……




「(やっぱり………ビズリーもユリウスも……!)」




全てはこの世界を救うための、小さな犠牲としか見てないんだな……!

周りを欺きながら、自分勝手な正義を押し付けて……!


以前からクランスピア社はビズリーを筆頭に、分史世界に取り組んできたが、その時から疑惑はあった

多くは語らず、俺達を……何も知らない奴を利用してる。と

もし、そうじゃなければ、ビズリーはユリウスの罪を追及し、ユリウスもまた何か事情があると話があってもいいはずだ

それらが無いと言う事は……




「(クソッ………!)」




俺は悲しみに包まれる会場の中で、一人底知れず怒りを燃やし、後悔の念が渦巻いているのを感じた

リルが亡くなる前に、昼にクランスピア社で会ったのを思い出す

あの時、彼女はいつもと様子が違い、変な事を聞いてきた。その事が引っ掛かり様子を訪ねに行った時には既に遅く……こんな最悪な結果になってしまった




「(俺がもう少し早く行っていれば………いや、それよりも昼に会った時に何があったのか詳しく聞けば………!!)」




かつて一緒に旅をした仲間として、同い年で同じ会社に勤める同僚として、そして愛しいラルの共通の友人として、俺はリルが死ぬ前に何か出来たのではないか?と、やり場のない怒りと後悔が今にも爆発しそうになる

するとラルはゆっくり立ち上がり、いくらか涙は落ち着いた様子を見せる

俺はこの感情を堪え、彼女に静かに言った




「ラル……この事は俺達にとっても凄く残念な事だ。彼らのためにも、俺達は彼らの分まで……幸せになろうな」

「ええ……」




彼らの死をいまだに信じられない様子のラルだが、俺は元気付けるように……この先に待ち受けるものに気をつけようって意味を込めて言うと、ラルはその意味を全て理解したかどうか分からないが複雑そうな顔をしながらも頷いてくれた

そして、俺達はリドウとリルに最後の別れの挨拶を告げ、葬儀場を後にした




これから気を付けなければならないな………敵は身近にいるものだから




ふと、見上げると、日の光を隠すように雲が何重にも重なった暗い印象の空



そこから微かに滲む光が………僅かな希望として降り注いでくれるよう願いながら、先行きが不透明な道を歩いた







END

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