鱗粉の幻夜(鱗粉の幻夜)
翌日、ルドガーは何も無かったように起きてきて昨日の事を聞くと、「頭痛は覚えてるけど何か話しかけられたような………ごめん。あんまり覚えていない」と言い、結局ヴィクトルさんがルドガーの身体に入っていたのか分からずじまい
そして、エルが目を覚ますと、当たり前ながら分史世界の亡霊に取り憑かれていた記憶はなく、普通にホテルに寝泊まりしたと思っているらしい
でも
「あのね。昨日の夢にね………パパとミラが来てくれたんだよ。2人共エルを心配してくれて“何も怖いことはないからね”って言ってくれたの!」
と、嬉しそうに話してくれた
それを聞いて私は涙が出そうになるのを堪える
やっぱりあのミラは夢じゃないし、ルドガーの中に一時的にヴィクトルさんが居たんだと思うと、とても嬉しくなった
エル………あなたには私達みたいな仲間が近くにいるし、遠くから見守ってくれている大切な人達がいるよ
そう思うと心が暖かくなった
そして…………あのホテルの黒い噂
リドウと一緒に過去の事件をよくよく調べると、最後に自害した犯人達は皆カジノやオークションに行った人達だとは最初の調べでわかったけど、後に“カジノやオークション参加者という事で有り金はほぼ無くなっている。なのに落札品や景品が見当たらず”という事実が判明する
まぁ結局、あの絵に潜んでいた分史世界の亡霊の仕業で身体を乗っ取られて犯人に仕立て上げられて、最後はその乗っ取った身体の持ち主を殺害した線が濃厚
でも、そこに目を付けたのが、ホテルのオーナー
彼はその絵が人に取り憑いて殺す呪われたものだと知ると、それを利用してオークションを開き、絵を落札させた人間を殺させ、金品を窃盗して。そしてまたオークションで持ち主が居なくなった絵を出品して……なんてサイクルを繰り返すとんでもないヤツだった
ただ、あまりやりすぎると、絵の呪いの噂が広まり、ホテルの客足が遠退きオークションでも落札されなくなる。だからオーナーはホテルのリューアルと同時にあの絵は商品じゃなく、展示物として飾る事に
そうして……あの絵の中の分史世界の亡霊に自分で好きな時に良さそうな人間を狩りさせ、動かなくなったところで部屋にオーナーが侵入して前のやり方同様に、金品を盗み荒稼ぎをしていた
オーナー自身はその事について無罪を主張してるけど、いずれその証拠やら何やらを私が資料として用意して、まとめた後はルドガーの許可をもらって警察に連絡する事になっている
だから、オーナーはどっちにしろ逃げられないな
「あー………なんか長かったなぁ」
そういう私はクランスピア社内の自分の机の椅子に座ったまま伸びをして、凝り固まった身体を解しながら分史世界の亡霊について考える
たしかにあの分史世界の亡霊は異様に身体や魂を欲しがっていた。つまり、本当の肉体や実態を手に入れたかっただろうな。と思った
分史世界の核である時歪の因子はクルスニク一族………かつてはこうして地に足をつけ暮らしてた人間だからね………
「(それをオーナーの私利私欲の為に利用されて……なんか可哀想だな)」
誰も望んでないけど、思わずそう考えていると
「よ。リンゴ巻きまんじゅう」
そう言いながらリドウは私に自販機の飲み物を渡しにきた
「うるさいですよ。悪趣味パッツン野郎」
リンゴみたいに顔が赤くなったとこと布団でぐるぐる巻にした記憶を掘り起す嫌なあだ名に私も反撃としてアルヴィンが言っていた言葉をそっくりそのまま渡す
するとリドウは「言うようになったな…」と変に関心していた
「当たり前ですよ〜何年あなたと居ると思ってるんですか」
まるで夫婦みたいな言い方だけど、仕事でもプライベートでもよく居るからあながち間違いじゃないかもな
なんて笑っていると
「これ、頼まれていたやつ」
そう言って飲み物と一緒にある資料をくれた
それはあのホテルのオーナー宅から見つかった金品の保証人の照らし合わせ。この資料によると………やっぱり保証人は違う人の名前で盗品である事がこれで判明した
「よーし、じゃあ早速まとめてルドガーに報告だ」
「最近、張り切りすぎてないか?俺も手伝うぞ」
「あら、お優しい事」
「当たり前だろ。愛しの彼女の為なら俺はこの身をいくらでも捧げられる」
「あーはいはい。どうせ報酬を自分の方へ横流しするための口実ですよね」
「チッ。バレたか」
「バレバレですよ〜」
そういうやり取りをしながら今回はリドウと対等に任務が出来ていたし、またこういう機会があればリドウと二人で頑張りたいなぁって思った
酔っ払い演技のアルヴィンへの返事だったりとか、私の姿をしていても偽物だと分かって誘いを断ったとか。そういう話しを聞いて、陰ながら嬉しく思いながら任務していたのはナイショね!
END