鱗粉の幻夜(鱗粉の幻夜)
「はぁ?何言ってるんだリル!」
それを近くで聞いていたリドウが呆れた声を出す
私だって確信したわけじゃない。だけどもしかしたら………そう思うと、確認したくてつい尋ねてしまう
すると…………
「エル?そうね…………たしか、あのお兄さん達がこの身体の事をそう呼んでいたわね」
「!!」
「なんだと…!?」
なんと、女の人はそう認めた
私とリドウが驚いていると、ルドガーが口を開く
「突然………後から妙な霧が襲いかかってきて、エルの身体を乗っ取ったんだ……!」
だから、ルドガーは攻撃しないようにお願いしたんだ
「どう?この子、あなた達にとっても大切な存在でしょ?私に攻撃出来ないでしょ?だから………大人しく私にあなたの魂を頂戴」
得意気にそう勝ち誇ったように話す大人の姿のエル
なるほど。この中身がさっき私に入ってリドウを誘惑して殺そうとした正体不明のやつか………
でも、この女の人の身体がエルのものだと分かったリドウは無闇に攻撃できずに遠くから様子を見ている
……おそらく反撃の機会を伺ってるかもしれないけど
「(一体……どうしたら……)」
私自身は反撃出来ないまま、魂を取られるの?
そう身構えて居ると………
「………うっ!?」
突然、大人の姿のエルは苦しみ出した
「………?」
すると、私を拘束していた黒いドロドロがゆるくなり、足元に落ちていく
「今だ!」
そうして素早くそこから逃げ出し、リドウの元へ走ると、私と同じように拘束が解かれてルドガーとユリウスさんも合流した
「急に力が弱くなったな」
「あぁ。一体何故………うっ!」
すると、ルドガーが急に手で頭を抑えて地面に膝をつく
「ルドガー!?どうしたの!?」
「きゅ、急に頭痛が………それに……こ、こえが………」
「声……?」
一体何の話をしているのだろうかと思っていると
「きゃあああああ!!!」
大人の姿のエルが一層に高い叫び声を上げて………そのまま地に倒れた
「え?何?一体何が……?」
そう思ってエルを見ていると………彼女の身体からホタルのような光の細かい球体が溢れ出てきた!
ま、眩しい!!そう思って目を瞑り、光が収まった頃を見計らって目を開けるとそこには……
「え!?」
「なっ!」
「これは……」
予想外の人がいて私やリドウ、ユリウスさんは声を出して驚いた
そこにいたのは
「ミ……ミラ?」
そう、私達の前に現れたのは
細かな光の球体が集合して人の姿を作っている幻に近いものだろうけど……
それは紛れもなく、あの分史世界で出会って一緒に旅をして私にとっての料理の先生な
分史世界のミラだ!
そのミラの右腕には元の子供の姿に戻ったエルがいて、左の手には青い煙みたいな物体を掴んでいた
「あの、ミラ……ミラ……だよね?」
そう尋ねるとミラは黙って頷き、微笑んだ
本当に……あのミラ………
まさかこうして会えるなんて思っていなかったから、涙が出そうになっていると
頭痛を訴えていたはずのルドガーは立ち上がり、剣を構えるとミラが左手で持っている青い霧を目掛けて………横に一線、刃を払った
『ぎゃあああああああ!!!』
その声と共に青い霧はまるで砂のように崩れ落ち、その姿を消した
「ルドガーやったね!…………あれ?」
ルドガーにこれでエルはもう大丈夫だね!って話そうと近付くと、なんだかいつものルドガーとは違う大人っぽい落ち着いた微笑みを浮かべている
そして、よくよく見ると、ルドガーの持っている武器がなんだか光り輝いてるように見える
まるで………骸殻化した時の武器のように
そう考えているとミラは優しくエルを木の根本に寝させると、やがてミラの身体が光の粒子になって天に登り、ルドガーは突然その場で気絶して倒れた
「あ!ミラッ!」
「ルドガー!」
ユリウスさんがルドガーに駆け寄り、大丈夫か様子を伺う中、私はミラが消えていく空にその名前を投げる
………返事もないし何も会話が出来なかった。もう見えなくなったけど……私は夢でも見てるのかな?そう思ってリドウを見ると
「あの正体不明のやつは………前に話した分史世界の亡霊だな」
「分史世界の亡霊?………ああ。あの話ですね」
その分史世界の亡霊というのは最近出来た言葉である
あの審判の時にたしかにルドガーは分史世界を全て破壊した
でも、オリジンの審判はかなり昔の時代から行われており、その度にエルみたいなクルスニクの鍵や私みたいにオリジンに選ばれたものが沢山いる
その影響が重なると、稀に時歪の因子が消えずに残り、周りの微精霊達を吸収しながら正史世界に現れる事があるらしいけど………そっか。あの絵に潜んでいた正体不明の青い霧もその類だったのか
「分史世界の亡霊。実態も持たずにただ存在し続けていたい気持ちが暴走しているか………え、じゃあミラも……!?」
「それはないだろ。仮にもあいつは偽物とはいえマクスウェルだったんだし、あいつの世界の時歪の因子はあいつの姉だろ。そんな暴走する亡霊なら、真っ先に一番に恨んでいる俺に来るはずだ」
「あー………ミラから恨まれている自覚あるんですね」
それに関しては私は複雑に思いながら答える。やっぱペリューンの事があるだろうし、忘れるわけないよね
でも、あの時と違って今リドウはだいぶ角が取れかけてると思う。前までは任務の邪魔なら子供だろうと容赦無しという態度でエルに攻撃しようとしていたけど、今回はエルが身体を乗っ取られているのが分かると、あまり攻撃をしなくなった。これは十分大きな成長だと思う…………って、私は何目線だ?
まぁそれよりも………
「あれが時歪の因子って事は、やっぱ骸殻化しないと破壊出来ませんよね?もしかして、その理由でミラがこの世界に姿を現したんですかね?」
今の話を聞いて考えた事を話すとリドウも「その可能性はあるな」と話してくれた
「それにさっきのルドガー君………まるで俺達よりも年上に見えたな」
「え、えぇ……たしかに」
「ルドガー君が骸殻みたいな武器を使えたのって…………あいつの中に分史世界での自分が入ったからじゃねぇのか?」
「分史世界のルドガー………まさか!」
大人で骸殻使えて分史世界のルドガーと言えばヴィクトルさんだ。でも、まさか………また救けてくれるなんて事ある?
「(もし、それが事実だとしたら………私が助けられたのこれで2回目だな)」
前に私が無茶をして命を落としかけた時にオリジンの結晶で戻ってこれる方法を教えてくれたミラとヴィクトルさん
…………まぁ。今回は私のピンチってか、エルのピンチに駆けつけてくれたんだと思うけど
でも………
「ありがとう………」
そう思いながら私は深い夜空に向かってミラとヴィクトルさんにお礼を言った