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死骨ヶ原の事件から数ヶ月が経ち、暑さが本格的になりはじめた7月のある日、私は暮らしてるアパートの一室で外出の準備をしながら迎えが来るのを待っていた
迎えに来るのは父方の叔父とその娘。娘ってのは私より3歳年下の従姉妹に当たる子だ。小さい頃から交流がある叔父さんと従姉妹と今日は久しぶりに外食をしようと約束をしていたから遅れないようにしなくては……
そう思いながらどのアクセサリーを着けようか考えてると、点けていたテレビから「速報です!」と慌てたニュースキャスターの声が聞こえた。何事かと思いテレビに目をやると
今日、都内で行われていたソロマジックショーにて主催のピエロ左近寺さんがマジックの最中に事故に遭い死亡した。と
左近寺さんが………マジックをしてる最中に事故?
ニュースキャスターが言うに、左近寺さんは大きな岩に見立てた箱の中に入り、火をつけて脱出をするマジックをしたそうだけど、何故か失敗してそのまま左近寺さんは火によって焼死したそうで、今会場に警察の調査が入ってるらしい
その時、詳しい事が分からないままのニュースキャスターの元に、また別の驚愕的な新たなニュースが舞い込んだ
「つ、続けて速報です!4月に死骨ヶ原で殺人事件を起こし、旭川留置所に身柄を拘束されていた高遠遙一被告が留置所から脱獄しました!速報です!4月に……」
「(高遠さんが………留置所から姿を消した………!?)」
何故、今日はこんなにも衝撃的な事故や事件が起きるのか………何が起こってるのか考える中、私はすぐにあの時の……連行される前に言った高遠さんの言葉を思い出した
『左近寺には近宮玲子“本人”が裁きを下すでしょう!燃え盛る炎の鉄槌をもってね……!』
あの言葉と、今日の左近寺さんの事故死と、高遠さんの脱獄は………何か関係している?
まさか、事故死と見せかけて高遠さんが最後の仇討ちをする為に脱獄を?そして左近寺さんを?でも、それだと“近宮さん本人が”って言うのが何を指してるのか分からない。高遠さんの脱獄と左近寺さんの事故死が関係無いものだとしたら………
…………
「(駄目だ。いくら考えても分からない。これから警察が調査を進めていく内に何か分かるかもしれないから、あれやこれや推測しても仕方ない事だわ)」
…………本当に?
「………」
その時に私の中で、私自身がある言葉を問う
………本当に警察が解決してくれると思う?
「(…………警察は調査すると言いながら、何年も解決しない。近宮さんの事もだし、“私の事”も)」
そう。私はある理由から警察をあまり信頼していない。そして、ずっと抑えていたある言葉が………私の中を駆け巡った
“左近寺が死んでざまぁみろって思ったよね?”
“高遠さんの殺人は……………復讐を成し遂げた凄いものだよね?”
「(認めたく……ないのに)」
そう、私はあの事件については、殺された幻想魔術団のメンバーに非があったとずっと思っている
それは私以外にも千鶴や金田一君たちも思ってる事だと思うけど、高遠さんのあの殺人は…………認めたくないけど、復讐出来て凄いし、成し遂げて羨ましいと私は思った。これは誰からも賛同されないし、そんな考えは捨てるべきだと分かっているから、この気持ちを表に出したくなかった
だから……
「(だから……早く忘れないと)」
私は普通にまっとうに生きるって決めたから
すぐに私は今支配している嫌な考えを振り払い、外出準備を思い出して取り掛かろうとした
そう思ってテレビの電源を落としたと同時にテレビ横に置いていた電話が鳴った
この時間に誰だろう?もしかして叔父さんから遅くなる連絡かしら?と受話器を手に取ると………
「こちら粟田さんのお電話で間違いありませんか!?先ほど――――」
それは都内の病院から叔父と従姉妹が乗った車が事故に遭い、2人は緊急搬送されたと知らせる内容だった
電話を受けた私はすぐに家を飛び出し、2人が運ばれたと連絡のあった病院へ急いだ
病院の入り口が開いて手術室の前に行くと
「一華!」
「千鶴!」
そこには私の到着を待っていた千鶴がいた
そう、この病院は千鶴の親が院長で経営していて、彼女自身も看護師として働いてる場所だ
白衣を身につけ、心配そうに私の肩を抱く千鶴に少し寄りかかりながら息を整え、叔父と従姉妹の無事を祈った
だが、私に告げられたのは受け入れたくない残酷な現実だった
数時間待って私に告げられたのは………叔父と従姉妹の死
「厚志叔父さん………蘭子ちゃん………」
私は2人の名前を呟いてその場に崩れ、千鶴と涙を流した
「ご遺族の方ですか?すみません………手を尽くしましたけど、もう………」
手術室から出て来て私に謝罪したのは、担当したであろう手術医の男性
………謝らないでほしいわ。手を尽くしても駄目なら、医者を責められない
私は小さく首を横に振ると、すぐに警察の方へ事情聴取として連れていかれた。事件か事故か調べるためとはいえ、警察のお世話にはもうなりたくなかったのに……
叔父と従姉妹を失った悲しみもあるけど、どこか諦めたような、心にぽっかりと空白が出来たような感覚のまま私は警察から聞かれた事を答えた
―――――その頃、警察署にて
電話が数々鳴り響く中、刑事の剣持は資料に目を通しながら部下や同僚に指示を出していた
「高遠の行方はまだ検討つかないのか!?クソ……絶対に逃がすな!」
数時間前に金田一達と左近寺のマジックを観ていて事故を目撃していた剣持は、その左近寺の事故の調査資料を自分でまとめながら、高遠の脱獄について旭川留置所からの電話で頭が混乱しそうになっていた。そこへ……
「剣持さん!先程起こった車両転落事故の調査と遺族の証言をまとめた資料を置いておきます」
同僚の一人からの言葉に剣持はそうだった…と頭を抱えた。左近寺の事故、高遠の脱獄の2つが大事だが、他にも事故があった。と
たしか民間人の親子が車で移動中に運転に失敗したのか断崖絶壁に衝突。その弾みでガードレールを突き破り反対側の崖に転落………そんな内容だったはず
剣持は左近寺の事故の調査資料を書き終え、すぐに渡された民間人親子の事故の資料に目を通した
親子の名前、事故推定時刻、車の破損状態など………そして最後に親子の遺族として事情聴取した人物と話した内容についてを読んだ
そこには
「(んなっ!?遺族として事情聴取を受けたのは…………一華さんじゃないか!)」
剣持は驚き、何度も名前と写真を確認した
間違いない………そこに記された人物は、あの高遠が起こした殺人事件の時に少しばかり行動を共にした粟田 一華だった
「まさか、彼女がこの事件死した親子の関係者だったとは………」
そう大きめの声で呟くと、その後ろから剣持の先輩刑事が近付いて一華の写真を見て、何かに気づいて話しかけてきた
「剣持、この人がご遺族なのか?」
「はい。そうらしいんですが……」
「だとすれば彼女が気の毒すぎるな。次々と親族が痛ましい死に……」
「ん。ちょっと待ってください。彼女の親族が痛ましい死……とは」
「なんだ剣持、忘れたのか?5年前に起きた粟田家一家殺人事件を」
「5年前……粟田家一家殺人事件……」
剣持はその名前を口にして頭の奥に追いやられていた記憶を甦らせた
「………そうか!一華さんはあの事件の!」
そこで剣持が何故、寝台列車で一華と会った際に何処かで出会ったような感覚になったのか気づいた
一華は剣持が知っている事件の…………被害者だったからだ