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皆を集めた金田一君はまずはじめに何故このような事件が起きたかを説明した

5年前に起こった近宮さんの転落死が事故ではなく、トリックノートを狙った4人の弟子達によって引き起こされた殺人事件。そして今回の殺人事件の犯人はその卑劣な犯行に気付いて起こした復讐劇。と

左近寺さんが“生きたマリオネット”は弟子達4人で考えたものだと言ったが、明智さんが生前の近宮さん本人の口から聞かされた事を言い、一気に疑いの目が左近寺さんに集まったが、犯行動機から考えると今回の殺人犯は左近寺さんではない

では、誰が?そうなった時に夕海さんの犯行でやったと思われるシーソー原理に客室に置かれていた翡翠が使われていた事。これは夕海さんの客室に翡翠が無く代わりに真下の客室に置かれていた事で気付けたもの。それが指し示すのは………翡翠を使わなければシーソー原理が成立しない。つまり夕海さんより体重が軽い人間が行った犯行だという事だ


そこで佐木君があるシーンのビデオ映像を皆に見せた。それは由良間が殺された後に剣持さんが魔術団の皆に体重を聞き出しているところだ

夕海さんは53s、桜庭さんは81s、左近寺さんは72s、さとみさんは55s


その中で夕海さんより軽い50sと答えたのは




「高遠遙一!!あんたが山神と由良間、そして夕海の3人を殺害した真犯人−−−−−“地獄の傀儡師”だ!!」



はっきり犯人だと示したのは、ずっと怯えたように話を聞いていた高遠さんだった

私達を含めた周りが予想もしていなかった人物が犯人として名指しされて驚く中、高遠さんも同じく驚き怯えたまま金田一君に自分は犯人ではないと訴えた

そこでいよいよ、金田一君による犯行再現が行われた


場所を変えて駅に到着した寝台列車・銀流星の車内に移動した私達はある一室の前に案内された。そのコンパートメントの室内には風船が飾り付けられ、生きたマリオネットに使われた大きな人形が黒いマントで身体を被い横になっている。つまり山神団長の死体発見時の再現がされていた

そこに金田一君が発煙筒を投げ、部屋の扉を閉めると中から風船の破裂音が次々に鳴る


たしかに、死体発見したすぐ後に起きた爆発騒動ももこんな感じだったわ


音が鳴り止み扉を開けると、そこには人形の姿が無く、何処に行ったか辺りを探していると隣のトイレにいた佐木君が人形を持って現れた

紐を使ってコンパートメントの窓からトイレに手繰り寄せて移動したのは分かったけど、前に調べた時に窓は人間の身体は通れない位の狭さしか開かないのが分かっている。それなら無理なのでは?と思ったが、佐木君が持っていた人形は実は頭だけで身体は風船をマントの中に詰めて身体がちゃんとあるように見せていたもの

ビデオを見返すと、山神団長の死体の手が風船で浮き上がってるのが分かる。金田一君は“重量のある人間の手が風船だけで浮くはずない”と、そしてマントの中の風船を割ってトイレに移動させるために、「爆弾だ!」と騒いでコンパートメントから皆を離れさせたのも、爆発騒動が収まってからトイレから出てきたのは………高遠さんだと気付いて推理した


しかし、高遠さんもそこまでは自分が出来そうだと認めたが、そうなれば無くなった山神団長の首から下の身体は何処へ?高遠さんは荷物は手に持てるショルダーバッグしか持たずあとは荷物検査をやって異常なしと判断されたから、そうなると不可能に思われた……

だが、金田一君はこの事に関するトリックも見破っていた

寝台列車での朝食でサラダが爆発して最初の爆弾騒動が起こったあの時、列車は緊急として貨物駅に停車した

結局爆弾は無くて奇妙な花火と薔薇の花吹雪で恐怖を煽っていたかと思われていたあれは、その貨物駅に停車させるために行われたもの

何故なら爆弾騒動で皆が避難している中、貨物駅に停まっていたトレイン急便の中からあらかじめ預けていたバッグと、外観がよく似ていて中には山神団長の首から下の死体が入った伝票付きのバッグを入れ換えるためだから

ここまで聞いて驚いたし納得した。たしかに何らかの理由でトレイン急便と一緒に停まったら……何かの騒動で誰も見てなかったら、あらかじめ預けていたバッグと同じものをすり替えても誰も気が付かない。それならすり替えて持っていたものは荷物検査で異常無しと判断され、本来持っていた死体入りのバッグは荷物検査も無くホテルへ運ばれる


だからあんな爆弾騒動を起こしたのか……


その後、死体が入ったバッグはあの“都津根 毬夫”という客が宿泊されていた部屋に運ばれた。この犯行のために作られた実在しない人物で、誰も部屋に入れるなと念を押していたために難なく死体を運んで犯行を行えた。とされる

その証拠に寝台列車から次に山神団長の死体が発見されたのは、都津根毬夫が宿泊されていたとされる部屋だ


そして山神団長の頭部は………なんと高遠さんが持っていたあのショルダーバッグの中に入って運ばれていたのが分かった

“死体は身体がちゃんとくっついている”“だからショルダーバッグになんか入らない”という心理トリックを利用して堂々と剣持さんの前でバッグの中を漁る仕草を見せたらしい



「まだ何か言う事はあるかい?高遠さん!」



金田一君の推理を全て聞き終わった高遠さんは一息をつき





「−−−−やれやれ!予感的中だ……せっかくあと一息で、僕の一世一代の大魔術は完成するはずだったのに……」



ゆっくり話し出したその言葉は、先程までの慌てたり怯えた様子などなく……



「やっぱり君のこと−−−ちゃんと殺してあげるべきだったね?金田一君!」



自分が殺人犯である事を堂々と認めた


周りは「た、高遠さん……貴方だったなんて」と言うように怯えて見つめる中、彼は続けて話す



「君の言うように山神達を殺した犯人−−−“地獄の傀儡師”とは僕の事ですよ!」

「ほぅ……随分あっけなく認めたな」

「“マジシャンは自分のマジックを客に見破られたら速やかに自ら幕を下ろせ”……ある高名なマジシャンの教えでしてね」



剣持さんの言葉に何故潔く犯人である事を認めたか話す高遠さん

彼が………この事件の……



「高遠さん、一つ聞かせてくれ。なぜあんたは“こんなやり方”を選んだんだ?”」



たしかに金田一君が疑問に思ったとおり、これ程の計画を立てられる頭脳なら、もっとすんなり殺害する方法は思い付くはず。それなのにわざわざ警察に脅迫状送ったり、走る列車で死体をバラバラにしたり……アリバイを作ったりしてもリスクが高い

犯人だと認めた辺りの高遠さんから感じられた雰囲気から言うと、この殺害計画といい、その立ち振舞いといい、まるで………人を楽しませる為にマジックをするマジシャンだ

そんな金田一君の問いに高遠さんは……



「……だって、つまらないでしょ?ただ殺すだけじゃ!完成された魔術さながらの美しく謎と怪奇に満ちた芸術犯罪を演じ上げ、並み居る観客たちをあっと言わせてみたかったんです−−−−そう!!マジシャンとしてね!!」



ほくそ笑みはっきり断言した高遠さんは掛けていた眼鏡を外すと、それを薔薇に変えてみせた

………自ら名乗ったように“マジシャン”らしく

先程、私はまるで高遠さんはマジシャンのように思っていたが、まさか本人がそう名乗るとは……しかし、どういうつもりでマジシャンを名乗ったのか

左近寺さんも高遠さんに何者かを問うと



「僕はあなた達が近宮玲子から奪ったトリックノートの正当な“継承者”ですよ!」



正当な継承者?………近宮さんはトリックノートはある人に送る為に書いてるものだと明智さんから聞いていたが、そのある人と言うのが高遠さん?

だとしたら、高遠さんは近宮さんとどんな関係が?

その疑問に答えるように高遠さんは続けた



「−−−そう。彼女は僕の母ですよ!僕には左近寺達に殺された天才マジシャン近宮玲子の……たった一人の息子なんです!」



それは………高遠さんが犯人と判明した時よりも驚愕する事実だった


高遠さんが……近宮さんの息子……!?


しかし、いくらテレビにはあまり出なかった近宮さんとは言え、あの有名マジシャンな彼女に息子がいるなんて聞いた事がない。左近寺さんは「でたらめ言うな!」とその事を否定しようとしたが、高遠さん自身も近宮さんとの親子関係は5〜6年前に知った事だと言う


それから高遠さんはどのようにして近宮さんとの関係を知ったのか話し出した



彼はイギリスで貿易関係の商社に勤める父親と二人で暮らしていたある日に、その父に連れられてあるマジックショーを観に行った。それが近宮さんのマジックショーで、それまで憂鬱とした世界にいた高遠さんは近宮さんのマジックの虜になる

それから父親の目を盗んでマジックの練習していた高遠さんは10歳の誕生日に練習していた公園で近宮さんに出会う。色々なマジックを近宮さんから教えてもらう楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、別れ際に近宮さんから「ずっとマジックを続けていたら特別なマジックのトリックを教えてあげる」と言われマジックを続ける約束をして再会を心待ちにしていた

高遠さんが17歳になった時に父親が亡くなり、本格的にマジックの道に行くため遺品整理していると、父親の日記から近宮さんとの思い出や子供について書かれてるのを見つけ、自分が近宮さんの子供だと知ったそうだ

そこで剣持さんが何故近宮さんが母親だと分かったのにすぐに会いに行かなかったか聞くと、高遠さんは普通の親子の再会ではなく、同じマジシャンとして認めてもらいたかったから一流になるまで会わなかったと言う

………同じ専門職に進む親子は普通の親子というよりは師匠と弟子に近いものかもね。でも、高遠さんのその努力はあの近宮さんの転落死で……そう思ってると高遠さんはその後の事を話した

高遠さんはイタリアでマジックの修行してる時に近宮さんの転落死のニュースを知った。近宮さんが亡くなって1年後に知ったのもあり、ものすごくショックを受けながらも高遠さんはイタリアでの修行を終え、久しくイギリスの実家に帰ると大量に貯まった郵便物から消印が高遠さんの18歳の誕生日で記された贈り物………トリックノートが入っていたのを発見した


「(やっぱり近宮さんがトリックノートを送る相手は高遠さんだったのね。近宮さんが高遠さんにずっとマジックを続けていたら特別なマジックを教えるってのも、その事だったんだ………)」


これで、先に言ったようにトリックノートの正当な継承者が高遠さんである事は確定した

その証拠に高遠さんは送られてきたトリックノートをスーツの胸ポケットから出して見せる

トリックノートが2冊………高遠さんに送る用と近宮さんが自分で使う用に2冊作っていたのかしら?


話しを続ける高遠さんは次に幻想魔術団について話し始めた

トリックノートを受け取った高遠さんはその数ヶ月後に日本に来た際に、近宮さん亡き後の弟子達がマジック団を立ち上げた話を聞いていた為、どのようなものかと観に行ったそうだけど……



そこで高遠さんは絶望した



幻想魔術団のオリジナルマジックとして披露されたモノは全てあのトリックノートに記載されていたもの

近宮さんは高遠さんの為だけに書いていたトリックだから、他の人は知らないはず……


あの日、何故近宮さんは天井裏に呼ばれたのか?

呼んだのは弟子達。その弟子達はトリックノートのマジックをして成功している……

何故、何故…………



高遠さんはそこで気が付いた


“近宮玲子は弟子達に殺された”と



その事が事実か確認するために高遠さんは幻想魔術団のマネージャーとして働き始める。そしてそう時間のかかってないある日に山神団長、由良間、夕海さんが近宮さんのトリックノートで成功した事と近宮さんを天井裏に呼ぶ前に左近寺さんが工具を持って天井裏に行く姿が目撃されていた事を話しているのを陰で聞き確信を得た

そして…………



「あとはじっくり考えました…………近宮玲子の作った素晴らしいマジックを私利私欲で汚した卑しい奴らにふさわしい“死のショー”のプログラムをね!」



今回の事件の計画を立てた。という訳だ



「おいおい!いつまでそんな殺人鬼に好き勝手しゃべらせておくわけ?」



高遠さんが話し終わると、すぐに左近寺さんが横やりを入れてきた


たしかに。普通、殺人を犯した者はどんな事情であれ罪に問われる。そして身勝手な殺人鬼の言い訳なんて聞く必要はないと思う

でも…………これは………高遠さんのこの犯行は………



「たしかに高遠さんは殺人犯ですけど、彼の話しは聞くべきだと思います!」



そう千鶴が言ったように、高遠さんのこの犯行に関しての経緯は聞くべきだと思う。でも左近寺さんはそれを遮るように次にあるものを床に叩き出して見せた

それは高遠さんが持っていたものと同じ………近宮さんが自分用に持っていたとされるトリックノートだ

剣持さんに何故持っていたか詰め寄られた左近寺さんは、それは近宮さんから貰ったものだと言い、自分が天井裏に行くのを目撃されたとしても近宮さんが死ぬ原因になった証拠はないと、殺人を否定した



「それが貰ったものだとしたら近宮さんがまだご存命の時………なら、どうしてそれに書かれてるマジックを近宮さんと一緒にやらなかったんですか……!?」


私は思った事を左近寺さんに聞いた

近宮さんが亡くなる前にトリックノートを貰ったと主張するなら、一緒にマジックをする事で皆で考えたマジックとして成り立つ。だけど、それをしていなかったとなれば、どう考えても殺して奪ったとしか………


「一緒に?……あぁ、いつかにやろうって練習の計画は立ててたさ。だけど、その練習の前に先生が亡くなってしまったから仕方なく残った俺達4人でってなったんだよ」

「なっ……!」


この男は……口達者な人だと思っていたが、こうも上手く言葉巧みに事実を隠そうとするなんて!

決定的な証拠が無いせいでもあり、今の左近寺さんに何を言っても無駄だが、ここまで高遠さんの証言や近宮さんの行動で、弟子達4人が殺したのは明白なのに………!

同じ事を思っているであろう剣持さんは左近寺さんの胸ぐらを掴んで睨み、私は悔しく拳を硬く握りしめていると……


「もういいですよ。刑事さん、粟田さん」


左近寺さんが取り出したトリックノートをしばらく黙ってみていた高遠さんが、そう私達に声をかけた


「た、高遠さん……でも……」

「ありがとうございます粟田さん。そのお気持ちだけで嬉しいですよ」


私の気持ちを察した高遠さんは、そう言って微笑むと私の硬く握られた手に両手を添え、千鶴にも先程話を聞くべきだと言った事に対しては軽くお礼を言った

そして高遠さんはすぐに左近寺さんの方に向き直ると、彼の持っていたトリックノートを母の形見だから貰いたいと申し出る

左近寺さんはそれに対してあっさり了承した。中に書かれているネタは全部頭の中に入っているから。と得意気に言う腹立たしい態度に高遠さんは怪しげな笑みを浮かべて、通報に駆けつけた警察の元へ行き自ら手錠をしてくれるよう頼むと、すぐに掛けられそのまま連行された

そんな彼に金田一君も納得しない様子で高遠さんを呼び止めようとするも、高遠さんは歩みを止める事なかった



……ただ、最後に「左近寺には近宮玲子“本人”が裁きを下すでしょう!燃え盛る炎の鉄槌をもってね……!」という、意味ありげな謎の言葉を残した



左近寺さんの近宮さん殺害の疑い、高遠さんの言葉の意味に引っかかりを感じながらも



こうして寝台列車・銀流星と死骨ヶ原のステーションホテルを舞台にした殺害事件は幕を閉じた


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