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冬の寒さがまだ残る春先の夜


銀流星と言う寝台列車に乗って、私は向かい合って座る友達とイルミネーションでキラキラ輝く東京の街並みを車内の窓から見ていた



「懐かしいわね寝台車に乗るの。中学生の時の修学旅行以来。だったかな」

「ええ。そうね。あの時はたしか……えっと」

「夜遅くまでのトランプ!」

「そうだった。そうだった」




昔の記憶を思い出そうと歯切れ悪く返事をする私に
友達の北条 千鶴はフォローを入れながら話してくれる

千鶴は私と同い年で、淡い色のワンピースの似合う淑やかな女性だ

今回のこの寝台車での旅は、塞ぎ混んでいた私に千鶴が気分転換として誘ってくれたもの

彼女とは小学生からの仲で、何度もその優しさに助けられてるわね……


そうこうしながら中学時代の修学旅行の思い出話に花を咲かせていると、私達は持っていたジュースを飲み干した




「千鶴。おかわり買ってこようか?私ももう空だから自分のついでに。ね」

「そう?じゃあお願いしようかな」

「任せて」



私は自分達が使っている一室から出て売店に向かった


歩みを進めると車内にはバーや食堂、娯楽室まであって本当にここは凄いと改めて感心した

企画ツアーとのコラボじゃなければ、こんな良い寝台車なかなか乗れないわね……


なんて考えながら売店で自分のと千鶴の好きそうな缶ジュース、小腹用のお菓子を買って一室に戻ろうとした


その時、車内が急に大きく揺れて私は壁によろけてしまう

カーブにでも差し掛かったのかな?と考えてると、腕にかけてた買い物袋からさっき買った缶ジュースが数本出て床に落ちた


「しまった!」と慌てて拾おうとしたけど、ここは乗り物の中だから缶ジュースたちはそのままゴロゴロ…と列車の廊下を転がる



「もうっ!」



仕方ない事と言えども自分のミスに腹立たせながら缶ジュースを追いかけて拾う



「えっと、これと……あ。あっちにも……」



最後の1缶を取り、全部揃ったのを確認してから千鶴の元に帰ろうとした時だった

隣の車両を繋ぐ扉から黒くて大きなシルエットが視界に入る

驚いてそっちを向くと………そこには黒いマントで体を覆い、白塗りメイクみたいな仮面を付けた人がいた!




「えぇっ……!?」



驚きのあまり声に出してしまった私はその場に固まってしまう

何あれ……新手の変装した不審者?

そんな私を仮面とマントの人は静かにジッと見ていたと思ったら、マントの下からトランプ1枚持った手を出してきて………

それを一瞬の内に一輪の綺麗な赤い薔薇に変えた


あれは………マジック?


そうだ。思い出した。この寝台車でのツアーは北海道の会場で行われるマジックショーだ

そうなれば、この車両にマジシャンも乗ってるのは当然な事だから……この人はそのマジシャン。という事になる



「す、すごいわ」



リアクションがちょっと遅れてしまったけど、呆然と見つめてるだけなのは失礼だと思い、感想と拍手を送った


すると仮面のマジシャンは私に近付き、膝まずいて手に持った薔薇を差し出す



「長ク美シイ髪ヲ持ツ オ嬢サン。血ノヨウニ赤イ薔薇ヲドウゾ…」

「えっ!……い、いいんですか?」




口元まで空いた仮面から覗く笑みを見て、おそるおそる薔薇を受けとると仮面のマジシャンは立ち上がり、私に軽くお辞儀をして立ち去った



「(これ……本物の薔薇だわ)」



マジックで出した薔薇を見ると造花ではなく生花

その柔らかな手触りの花弁を撫でながら千鶴の元に戻ると、彼女も薔薇を一輪持っていた



「おかえり!……あ、一華もマジックの薔薇貰ったの?」

「ええ。売店で買って戻ろうとした時に仮面の人に出会ってね。驚いちゃったわ」



買ってきたジュースとお菓子を千鶴に渡しながら話しを聞くと、あの仮面のマジシャンは一室一室回ってパフォーマンスを披露しているらしい

へぇ……今からもうマジックをするなんて、サービス良いわね

数日前に千鶴が貰ってきたパンフレットをチラリと見ると「幻想魔術団」と大々的に書かれており、少し興味が湧いた


「私も見たいわ。借りてもいい?」

「いいわよ」


千鶴から「はい」と手渡されたパンフレットを捲ると、幻想魔術団のメンバーの紹介やら経歴などが書かれており、最後には………見たことある顔の女性が載っていた


「あ、この人……」


幼い頃に都内でやってた大きなマジックショーを観に行った事がある

この女性は、その時のマジックをしていた団長の……近宮 玲子さんだ

でも何故パンフレットに近宮さんが載っているのか疑問に思った私がどこかにそれについて書かれていないか目で文章を追っていると、横から千鶴が声をかけた


「その人、本当に残念だったよね」

「え?残念って?」

「そっか、一華は知らなかったのよね。その人は……」


私は千鶴から近宮さんについて話を聞いた

なんでも近宮さんは5年前にマジックの練習中に転落死してしまい、その後は彼女の弟子に当たる人達が今の幻想魔術団を結成したそうだ

そうだったんだ………近宮さんは不慮の事故で………


「(それが5年前か……5年前に私は……)」

「……一華大丈夫?ごめん。嫌な事を思い出させるような事言って」

「え!?あ……違うの!」


私が黙って俯く様子に千鶴がハッと何かに気づいて申し訳なさそうに謝罪したのに対して、私は慌てて違う事を考えていたと誤魔化した

……5年前と言ったら私にとって“とてつもなく最悪な事”が起こった。思わず連想して思い出しかけてしまったけど、今は近宮さんについての話だ


「近宮さんの剣とトランプを使ったマジックすごかったなぁ……あれ、また見たかったから近宮さんが亡くなっていた事にショックだなぁって思って」

「……そうよね。私も水槽から脱出した後に空中散歩してステージに戻ってきたマジックに感動したわ。もう一度見たいって思うと……本当に亡くなられた事実が悲しいよね」


なんとか私の嫌な記憶から遠ざかった私たちは近宮さんのマジックの話をした

幼い頃に見た近宮さんの織り成すマジックはどれも現実離れしていて、尚且つ観る人達を楽しませようとする真心を感じた。それは舞踏会に行きたいシンデレラの為に馬車やドレスを出して見せた魔法使いのようで……

私はもう一度、あの暗闇を楽しい世界に染めてくれる魔法を見たいと思いながら、知らなかったとは言え今更知った近宮さんの死にショックを受けつつも心の中で黙祷した


そして、先ほどマジックで貰った薔薇の花が目に留まる


「薔薇をくれたあのマジシャン。仮面が少し不気味だけど、ああして観に来た人を楽しませようとする精神はもしかしたら近宮さんの影響かもしれないわね」

「ふふ、そうね……近宮さんのお弟子さんとなれば、少なからず似たようなマジックをするかもしれないわね。仮面が不気味だけど」

「あははっ」


ここで私達はどんよりとした空気を変え、楽しい雰囲気を取り戻した。せっかく千鶴との旅行だもの。楽しくなくちゃね


「(旅路も楽しいけど、明日の死骨ヶ原でのマジックショーが一番楽しみだわ)」


私は千鶴とまた一通り話した後、近宮さんのお弟子さん達のマジックを期待しながら眠りについた



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