02
翌朝、目を覚まして車窓のカーテンを開けると、雪がまだ少し残っている緑豊かな自然の風景が広がっていた
「わぁ〜!!これが北海道なんだね!」
「うん!建物が見当たらない自然って綺麗〜!」
千鶴と風景を楽しみながら身仕度を整え、朝食が用意されている食堂の車両に行く
昨夜、売店に寄る際に見かけた豪華な内装の食堂に入って千鶴と談笑をしていると
「皆様ようこそ“魔術列車”へ!!」
幻想魔術団の団長であるジェントル山神さんがそう高らかに挨拶をして、朝食を食べながらの軽いマジックショーが始まった
「すごい……食事しながらマジックショーが観れるなんて」
「本当。何もかも豪華で素敵ね!」
料理が運ばれてきて少しずつ手を付けていたけど、やっぱり視線はマジックの方に釘付け
団長さんと入れ替わりで車両に入ってきたのは……
ただのグラスに入った水を噴水のように吹き出させたウォーターマジックの使い手マーメイド夕海さん
おちゃらけた雰囲気でお客さんと近い距離で楽しく会話しながらカードマジックを使うのはピエロ左近寺さん
水晶に念を送り、その中心部から粉々に割って見せたのはチャネラー桜庭さん
そして、私や千鶴よりも年下に見えるまだ幼さが残る可愛い顔した女の子。さとみさんというマジシャンが見せたのは小さな男の子の人形を操るパフォーマンス
「エーッ!ボク ソンナコト デキナイヨー!」
「できないじゃない!お前、人形のくせに生意気だぞ!ロバート!」
「自分ダッテ新入リデ ロクナまじっくデキナイクセニ!!」
「こいつ!」
「ワッ!人形ギャクタイ!!」
ロバートと呼ばれた人形の生意気な態度と、さとみさんの叱りが面白可愛く、食堂内は大笑いに包まれた
「面白いし可愛いわ〜!でも、あれどうやって操ってるんだろう?千鶴はわかった?」
「ん〜あのロバートは実は天井から他の団員が操ってたり……なんて」
「あはは!天井のすぐ上は外よ?風に抵抗しながらパフォーマンスするって大変じゃない?」
「こう這いつくばって、ふんぬんっ!って踏ん張って糸で釣って…!」
「それじゃあ、命懸けのパフォーマンスじゃない!」
ロバートを操ってるトリックは何なのか考察する私達は、少しおふざけを入れて笑いながら話していると……
「しつこいぞ!!高遠!」
「(ん?なんだろう……)」
まだまだ続くマジックパフォーマンス中の後ろの座席から何やら怒ってる声が聞こえてそっちを向く
そこには茶髪でウェーブのかかった長髪の男性と眼鏡をかけて困ったような表情をしている男性が見えた
「こんなタダ見同然の客相手に、この俺がマジックなんざできるか!」
「そこを何とかお願いしますよ由良間さん!」
どうやらその由良間さんと呼ばれた茶髪の男性は、本格的な会場でやらないサービスみたいなマジックはしたくない。と主張しながら開始の挨拶以降に姿を見せない山神団長に苛立っているようね
それに対して、高遠と呼ばれた眼鏡の男性は魔術団のマネージャーさんらしく山神団長を探しても見当たらない事を訴え、由良間にマジックを披露するよう必死にお願いしていた
嫌ね……あんな風にお客さんを見下した高圧的な態度とプライド。それにマネージャーさんに当たり散らすなんて
どんなに白の格好いいスーツやアクセサリーを身に付けて表向きを良くしても、中身があんなんじゃ残念ね
私は由良間を見てあんなマジシャンがいるなんて……とうんざりしていると、マネージャーの高遠さんになんとか説得された由良間が椅子から立ち上がる
「それでは最後は我が幻想魔術団のトップスター、ノーブル由良間です!どうか盛大なる拍手を!!」
舌打ちしながら表に立つ由良間とお客さん達の気持ちを盛り上げようとする高遠さんの言葉は、まるで我が儘なお坊ちゃんの顔を立てる召使いみたいで彼の気苦労を考えると計り知れないわ
そんな不本意だと言いたげな表情の由良間は適当に歩いて、目に留まった人に声をかけた
「それでは、そちらのお嬢さん御協力いただきましょうか」
「え!?あたしが?」
その選ばれた人は高校生くらいの女の子。髪は私よりも短いけどそれなりの長さがあって可愛い子だなぁって思った。そしたら千鶴が女の子を見てすごく驚いた
「えっ!あの子……!」
「どうしたの?千鶴」
あの子知ってる子なの?って聞こうとしたらマジックが始まりまた拍手が鳴る
女の子の隣に立った由良間がその子の肩を指で軽く叩いたら……なんとその子がしていた髪留めが外れ、由良間が手にとって見せた
驚く女の子と観客の反応に少し気を良くしたような由良間が続けてやったマジックは………女の子の服の上から下着を取るという最低なものだった!
「か…返してください!!」
「ダメダメ……まだマジックの途中ですよ?」
顔を真っ赤にしながら返すように懇願する女の子の声と観客のどうリアクションしていいのか困惑の混じる苦笑が起こる中、由良間はまだ途中だからと下着を返さずにマジックを続けようとした
それを見ていた私はフツフツと怒りが湧いてくる
「あいつ……!」
もう、我慢ならない!間に入ってあの男を引っ張叩いてやる!と立ち上がろうとした時、私達の後ろのテーブルからガシャンッ!と堅い食器が割れる音がした
それに驚いた私達や由良間と観客達がそっちを向くと
「あ!スンマセーン!グラス割っちゃった!」
そう言って平謝りしていたのは高校生くらいの男の子
たしか……今、由良間にセクハラされてる女の子と一緒にいた子のはず
まさか、この子もあの女の子を助けようと立ち上がったのかな?
でも、結果的に失敗に終わってしまったから、あの男の子はもう何もしないだろう………そう予想してる最中も由良間は女の子の下着を手の内に収めてマジックをするつもりだ
次こそ、私が……!!
「いっで〜〜〜〜!!」
「っ!?」
次こそ止めようと立ち上がったけど、それと同時に由良間が突然下着を握った手を振り回し痛みを訴えながら騒いだ
そして手の中にあったものをすぐに床に捨て、それをよく見ると……それは下着ではなく一輪の薔薇だった
「(え?何あれ。まさか自分で仕込んでおきながら失敗して怪我したの?)」
何が事が起こってるのか考えながら様子を見てると、女の子がその薔薇に驚いて自分が座っていたテーブル席と交互に見た
「あ……あれは!?サラダの上にのってたバラ…!」
「(え……!?)」
どうやらその薔薇は由良間が仕込んだものじゃなく、女の子のテーブル席に運ばれてきた料理の飾りだった。そうなれば誰かが隙を見て下着と薔薇を替えたって事だ。一体誰が………
「いや〜すごいな〜さすがはNo.2の男! ブラをバラに変えちまうなんて♪なかなかお茶目じゃん?」
困惑してる由良間にあのグラスを落とした男の子がそう言いながら拍手を送っていた
「ま……まさか!?キサマがこれを……!!」
「(なるほど……凄い腕ね。あの子!)」
男の子の誉めてるようで実は茶化している言葉を聞いて私も由良間もわかった
つまり、さっきコップを落としたのは下着と薔薇をすり替えるためにやった事で、わざとだったんだと
「すごい!いいマジックだね!」
「あ。あざーすっ!」
私は思わず男の子のユーモア溢れる助け船に拍手を送ると、男の子はニカッと良い笑顔でお礼を言った
そして周りの観客達はすっかりマジックではなくコントを見るような気持ちで笑う
「こ……このくそガキ〜〜!!」
「や…やめてください!由良間さん!」
この状況に由良間は自分のマジックを邪魔された怒りで男の子を睨み、今にも掴み掛かりそうになっているけど、マネージャーの高遠さんに抑えられてるため身動きが取れないようだ
「あら、下着泥棒はまだ懲りてないのかしら?」
「し、下着泥棒だと……?」
これはチャンスだと、私は立ち上がる
「皆さ〜ん!どうやらこの人は職務権利を悪用してセクハラし放題の最低野郎みたいですよ!女性の方は下着を盗まれないよう用心してくださいね〜!」
私の言葉に観客達は更に大笑いして、女性客の中には「いや〜私の勝負下着取らないで〜」等、ふざけてノッてくれる人がいてくれた
「このアマ……!!」
「あら、否定しないって事は図星かしら?………あくまであれはマジックの一環で私の言葉が事実無根なら、ここは大人しく引き下がれますよね。素敵な紳士でしたら」
「……くそっ!覚えてろ!!」
私に何一つ言い返す事が出来なかった由良間は奥歯をギリギリと噛み、高遠さんの抑える腕を振り払いながら捨て台詞を吐いて食堂車両から退場した
やった!私も一言ガツンと言ってやりたかったからスッキリした!
清々しく背伸びをしてると、さっきの男の子とビデオカメラを持った男の子が「やーい」って言いながら由良間の退場を笑っていた