記録 10,911mに隠した怯え2019/12/01 あのひのぼくよ、おぼえているか‖君とはたくさん話しをしたね。どれも他愛もないことだった。けれど、ひとつだけ言い忘れたことがあって、それを君に告げられなかったことが、今になってこんなにも僕を苛んでいる。何でもないたった四文字を、僕はもう君に届けられないんだ。 2019/11/30 目は飾り‖いずれ君はいなくなる。いつか必ず、いなくなる。だから僕は目を瞑り、耳を塞ぐんだ。君の姿が見えないように、声が聞こえないように。降り積もった分だけ、代償は大きくなるから。この虚は一生埋まらないままでいい。 2019/11/29 いつか夢に見たように儚く‖ぼやけた視界で、かろうじて影が上下するのが判った。笑おうとしたが、微かに吐息がもれただけだった。きっと、彼女は僕のことを忘れるだろう。もうずっと、そうだった。でも、それでいい。その分、僕が全てを覚えているから。薄れゆく意識の中で、最後にそう思った。 2019/11/28 スローモーションで死は降りそそぐ‖待っていて、と彼は言った。必ず戻るから、と。私が頷くと、彼は一つ息をついて目を閉じた。そのまま、二度と起き上がることはなかった。三日ほど様子を見てから、お気に入りの紫苑の花の中に彼を埋めた。これで彼を忘れることはないだろう。 2019/11/27 いつまでたってもあの日のままで‖寒い朝だった。外に出ればすぐさま剥き出しの顔と手足が凍える。あまりのことに息をもらすと、濃い白靄が立ち上った。薄惚けた青空の向こうには、暗い雲が見える。今日は雪が降るかもしれない。 2019/11/26 儚いものの例え‖何かを求めるようにして夜空を仰ぎ、そして失望した。そこには何もなかった。月も星も、雲さえも。ただただ闇が広がっている。 2019/11/25 此方と彼方の境界線が解らない‖うんと高いところが好きだ。できれば硝子や壁に隔たれず、嫋々と吹く風を感じたい。柵から身を乗り出してみれば、眼下に広がる光に吸い込まれそうになる。このまま、と考えたところで、思考を停止させた。柵からも少し身を離して、煌びやかな光から目を逸らす。それだけは、してはいけないことだ。 2019/11/24 生きていて、死んでいる。‖耳の奥で蜩の鳴き声がわんわんと響いている。藺草の香る畳に寝転んで目を瞑れば、眼裏で夕焼けに染まる白いワンピースと長い黒髪がふわりと靡いた。黄昏時に相応しく、その顔ばせは赤く染まっていて、誰とも知れない。夕闇に溶け込んでゆくその姿は何だか懐かしく、同時に怖いとも感じた。 2019/11/23 もう一回だけ逢いたかった‖夜空に大輪の花が咲く。咲いては散り、散っては咲き、けれど何も残さず闇夜にとけてゆく。最後に狂ったように咲き乱れて、今年もまた夏が終わった。感傷的な余韻に浸りながらも、そろそろ戻らねばと己の跨る牛に合図する。また来年、会いに来るよ。 2019/11/22 逢瀬の隙間‖そぼ降る雨の傘下、互いが互いに濡れぬようにと身を寄せ合う。微かに触れ合う肌に心の臓が跳ねて、けれどどうにも離れがたい。じんわりと広がる熱にどちらも気付かない振りをした。 ;prev or next ☂top page |