Jewel specimen room
――ねえ、たとえば愛だって歌ってみて。そしたらこの眩しいくらいのパステルカラーに身を投じて、完璧な乙女になってみせる。
可愛らしいドレスに身を包んで、真白のレースを被ってみる。長い睫が、まるで根を張るみたいに上向きに伸びていた。部屋の鏡に映っている私は、今日も最高に可愛らしい。……なんて、自分を励ましてみる。だってそうしなきゃ私、私が醜いアヒルの子だって知ってしまうから。
「可愛い、可愛くない、好き、きらい、愛してる、切ない……」
ばらいろの唇からこぼれる言葉は、まるで鍵盤から響くピアノの音のよう。私は自分が人形だったら良いのにと思う。血の流れない、ロマンだけで満たされたドールだったのなら、可愛く永遠に微笑んでいられる。
心なんて必要なの?
ある日、私にそう言ったあの子を思う。私はお姫さまが寝転がるに相応しいベッドへ寝そべって、目を瞑る。ねえ、心なんて必要なの。愛なんて、この世界にあるの? 私は微笑む。それは残酷な問いで、真実の恋。
○
゚。
「……蛋白石(オパール)、君ってばまた髪の色を変えたの?」
琥珀(アンバー)は嫌そうに肩をすくめると、私のシルバーと淡いピンクで染まった髪の毛をすいた。
「よく髪の毛いたまないよねえ。僕にはとっても無理だよ」
「貴方の髪の毛は綺麗な蜂蜜色。愛すべき木の色。良い匂いの紅茶の色。だから、いいじゃない」
「うん、分かってる。僕は美しいからね」
琥珀のこういう所が、私はうらやましい。彼とも彼女とも言えない琥珀は、多分この世の全てを持っている。私は右腕で揺れる自分のブレスレットを見つめる。いろんな色に光る石。私の色。蛋白石。プレートナンバーは、777。なんてイイ数字なんだろう。
「ねえ蛋白石。君は水を飼っていて、同時に炎を宿す石。……僕はね、思うんだ。この島の中で君が一番、にんげんに近いんだって」
「ふふ、それって褒めてるの? 琥珀」
「茶化さないでくれ。……なあ、蛋白石。君にとっての幸福ってなんだい?」
丸眼鏡の先の色。不可侵の色。ねえ琥珀。わたしはこの場所を愛していて、あなたを愛している。貴方を愛していて、私のことが大好きだ。けれども同時に、すべてを憎み、消してしまいたいとも思うし、すべてがかすみがかった別世界の景色にも見えるの。
「私の幸福は、『かわいい』」
質素なワンピースは、エメラルドお手製の私のお気に入りだ。角度によって白にもピンクにも、水色にも紫にも、どんな色にだってなれる。水を持ち、輝き(Fire)を持つ、私だけのワンピース。
私の幸福は、可愛いことだよ。可愛い。かわいい。kawaii……美しくて、綺麗で、届かなくて、見つからないから、愛してる。巡っていく恋の連鎖。かわいい。それが私の幸福。
だってそれがなかったら私、私じゃいられないの。光らないミラーボールに、価値は無い。可愛くないことなんて、この世界から滅びちゃえば良いんだ。ね、そうでしょ?
私は失わない。かわいいを見失わない。透明な私になってしまっても、幽霊になったとしても、それでも排水溝にながしちゃったりしないよ。私の可愛い睫。
「君ってとても刹那的で、排他的で、殺人的だ」
「だってそれがにんげんだもの」
「君は人間、そして蛋白石。血の通わない虹色の石。そして、血液という水をもつ、炎の使い」
ああだいすき、と私は微笑む。アンバーって、とってもすき。かわいくて、うつくしくて、みにくくて、幽霊じゃ無い。憎たらしい、届かないあなた。刹那、せつな、切な、切ない。全部食べて、私の色にしてしまいたい。
「悪いね、蛋白石。僕は、僕だけの琥珀なの。……僕は、僕を愛するための僕だから」
そう笑って、琥珀が去って行く。私のヒールのかかとが折れる。ダンスホールから落下する。海の中に沈んで、星が見えたら、私はパステルカラーから脱却して、指先から私になるの。
――ねえ、たとえば恋だって叫んでみて。そしたらこの悲しいくらいの日常に埋没して、完璧な私になってみせる。
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