昼休みに教室でお弁当を食べたあと、自分の席に座ってのんびりしているとパタパタという音が廊下から聞こえてくる。走ったら真田くんにまた怒られちゃうよ。なんて思うけど、いつものこと過ぎてもう注意する意味もないのではと思ってしまう。
「寿先輩っ!」
「こんにちは、今日も元気だね赤也くん。」
ニコニコという効果音の似合う笑顔で話しかけてくれたのは一年後輩の切原赤也くん。やっぱりというかなんというか、後ろでクラスメイトであり赤也くんの部活の副部長でもある真田くんがすごい顔でこちらを見てるけど、赤也くんはそんなのお構い無しって感じに色々な話をしてくれる。後で沢山怒られたりしないのかな…。
「寿先輩、聞いてます?」
「えっ、あぁごめんね、なあに?」
例えるならば可愛いわんこ。そんな顔で拗ねたように声をかけてくる赤也くんとの出会いは少し前。どうしても人手が足りないのだと真田くんに頼まれて1日だけテニス部のお手伝いをした時に懐かれた…といったらいいのかな。とにかくその時からほぼ毎日のように赤也くんは私の教室に来ている。
それからもしばらく赤也くんとおしゃべりして、予鈴が鳴る頃にまた明日、と残して来た時と同じようにパタパタと自身の教室へ帰っていった。それを見て流石に耐えきれなくなったのか真田くんが廊下に向かって叫んでいた。赤也くん大丈夫かな。
「陽和先輩。」
放課後、委員会の仕事で帰るのが遅くなったところを聞きなれた声に呼び止められる。振り返るとそこにいたのは赤也くんで、まだユニフォーム姿だから部活中なのだと思う。
「今帰りっスか?」
「うん、赤也くんはまだ部活中?」
「そうッス、昼間廊下走ったからって副部長に罰くらっちゃって。」
いつもと同じような赤也くんだけれど、違うところが二つある。一つ目は呼び方。これは初めてあった頃からそうなんだけれど、赤也くんは人前で話すときは名字で呼んで、二人で話している時は名前で私を呼ぶ。どうしてそうするのか聞いたこともあるけれど、その方が特別っぽいでしょ。とかドキドキしません?とか色々言われて結局真相はわからないままだ。
そしてもう一つは表情。昼間見たわんこのような可愛い顔じゃない、しっかりとした男の子の顔。これも私と二人の時に赤也くんがよくする顔だ。…ついさっき真相はわからないと言ったけれど、本当は知ってる。出会ってから少しして、赤也くんに告白をされた。一目惚れだって言ってくれたけど、私にとっての赤也くんはその時まだただの後輩だったからそう言って断った。けれどその後赤也くんは今と同じ表情になって、なら惚れさせて見せるまでだな。なんて言った。年下のくせにタメ口、なんて思いながらも少しキュンとしたのは今後も絶対言わないだろう、私だけの秘密。
「ねえ、陽和先輩。」
名前を呼ばれて前を見ると、思っていたより近い距離に赤也くんがいて驚く。
「今、俺の事考えてたでしょ。」
「えっ、」
「よし、この調子かな。」
図星すぎて軽く固まっているうちに赤也くんは一人でどんどん話を進めていく。
そのままさらに距離を詰めてきて、あの時と同じように笑って言った。
「陽和先輩、俺は本気だぜ?」
その顔と声に、私の胸はまたキュンと鳴いた
prev back next