強く生きろ name
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季節は春。花見の時期だ。
私とお登勢さんは毎年、簡単に重箱を作って適当に座ってぼーっと桜を見上げる日を作っている。
何でもない普通の日に、今日ちょっくら桜でも見に行くか、何ていう気楽な感じでだけど。


「で、この前のは何だったんですか?」

「ん?あぁ...ちょいと昔馴染みのじーさんが死にかけだったらしくてね」

「はぁ...?」


突然お登勢さんを引っ張って出て行った坂田さんは何食わぬ顔でお土産にと団子を何本か私に渡すだけで、詳しいことは何も言わなかったし。しかもその団子は食い掛けだった。
まぁ、大して何か怪我とかもなかったし、お登勢さんの頭には綺麗な可愛らしいかんざしが付いていたから、むしろ良い出来事だったのだろうとは思うけれど。


「そういえば、朱理はあまり簪をつけないねぇ」

「そうですねー...簪ってどうやってつけるのか私よくわかってなくて」

「何だぃ、年頃の女子のいう言葉じゃないねぇ...その年なんだから色恋の一つや二つあるもんだろう?」

「ありませんよ〜知ってる男の人なんて坂田さんと新八君と、お客さんぐらいですよ」

「私ゃあんたの今後が心配だよ」

「えー」


人が行き交う桜の木の下。私とお登勢さんの言葉は誰の耳にも入らずに、静かに流れていく。
お登勢さんの持つコップの中に暖かいお茶を注いで、割り箸で卵焼きを一つつかんだ。


「んー...お登勢さんの作る卵焼きは美味しいですね」

「あんたも最初の頃よりは随分と料理がうまくなってきたもんだよ」

「やった、褒められちゃった」



まだ来たばかりの頃は、料理なんて全然できなくて。
卵を割るだけでも苦戦をしていた。それが今じゃ、仕込みを手伝っているからか、ある程度のものはレジピ通りには作れるようになった。それでも長年の経験の差というものなのか、煮物のようなお袋の味というものには慣れていない。



「朱理と花見に来るのも今年で5回目かねぇ...」

「もうそんなに経つんですね〜...」


月日が経つのは早いものだ。
私と同い年ぐらいの女の子たちは、彼氏の一人や二人いるのだろうけれど、私はそんなことも一度もなくて。
ただずっと、お登勢さんのお店を手伝って、お登勢さんと一緒に生きて、お登勢さんの元で笑っていた。
そんな生き方も悪くはないと私は思っているけれど、お登勢さんなりの優しさなのか、私の恋というものに心配をしているらしい。

桜を見ながら話すことでもないかもしれないけれど、私はやっぱり、恋よりも今は自分のやりたいことをやって生きている方が性に合っているのだ。


花より団子。それがまさしく自分の生き方そのもだと思っている。







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